第2話 死神

“ギュイイイイイーン”


“ウギャアァァァァァァァァ!!!”




今日も芝刈りおじさんは芝刈り機に乗り、

たくさんの芝から聞こえる断末魔を聴いて、

胸をときめかせていた。


『何でこんなに芝刈りは楽しんだろう🎵』



思わず出る独り言。



しかし、そんな様子を見てまた人々は気味が悪いと陰口を叩く。



『ねぇ、芝刈りおじさんまたニヤニヤして独り言呟いてるよ...。気持ち悪い。』




『見ちゃだめよ!本当、何で毎日あの人居るの。気持ち悪い。』



芝刈りおじさんはこんな人間の陰口はもはや気にしていない。



陰口は人間の嫌な所を煮詰めた、汚らしい物。

言えば言うほど、魂は汚れを増していく。


芝刈りおじさんは人間の魂が汚ければ汚いほど、断末魔の聞きがいがある、このままもっと汚れてしまえばいいと達観していた。




そんな芝刈りおじさんの元にある1人の人間が近づいてくる。



『ねぇあんた、俺の事覚えてない?』


その人間は年齢20代前半の男性で、髪は金髪でロング、顔には鼻ピアスや口ピアス、首には大きな龍のタトゥーが彫られていた。




『はて...?どこかで会ったかなぁ?』






芝刈りおじさんは、他所用の優しい顔で答える。



すると金髪男は突然、芝刈りおじさんの頬をグーパンで殴って来た。

それだけでなく、倒れた芝刈りおじさんの体を踏みつけて蹴り始めた。



『おいてめえだろ、糞爺。俺の仲間殺しただろ。』


芝刈りおじさんは素性がバレない様に弱者の老人を演じる。



『な、何のことじゃ?儂はなんにもしとらんよ。』



金髪男はその言葉に怒り狂い、さらに激しく芝刈りおじさんに殴り続ける。



『とぼけんな俺見たんだよ!!!てめえこの前の夜中、俺と一緒にこの公園に来た、シオン、レオ、リクの首飛ばしてただろ!!その後3人の体をこの芝刈り機でっ...!!くそっ

なんでそんな事すんだよっ!!』


芝刈りおじさんは、あぁこの前芝にしたチンピラ3人の仲間か...と分かった様子だ。



『儂がやった証拠はあるのかい?動画に撮ったりしてるのなら証拠になるけど、ないならこんな酷い事するなんて君には人の心が無いのかい?』


芝刈りおじさんは金髪男を煽る様な口調で話す。



『証拠なら撮ったんだよ!!俺のスマホに動画が入ってる!見ろよほら!!』



金髪男のスマホを見る。しかし...







『どこにあるのじゃ、それは?』





金髪男はその言葉の意味がわからなかった。



『は!?あんだろ、これだよ見ろよ!!って...あれ?動画が見れなくなってる...え?動画が消えた?何でだよ!!?』


動画は突然、黒い砂嵐が入りそして“削除しました”の文字が出ていた。




芝刈りおじさんはその言葉を聞いた途端ニヤリとした。


突然芝刈りおじさんの周辺が真っ暗になる。


金髪男はこの空間に見覚えがあった。


これ、あの時のと一緒だ。




金髪男は、仲間と一緒にこの公園であの夜何をしていたのか。



それは...ホームレス狩りの様子をSNSで挙げる事だった。

撲滅系インフルエンサーとして有名になりたいと集まった仲間達で片っ端から、ホームレスの人々に暴行を加えていた。



実はこの公園を入って奥の方にはある建物が存在している。その建物の周りにレジャーシートや段ボールを敷いたホームレスの人々が多く滞在しているのだ。




芝刈りおじさんも実はそのうちの1人。

死神には家などいらない。魂さえ刈れればいいのだ。寒さも暑さも何も感じない。



体裁的に外で寝ていたところ、突然やって来た彼らに暴行されたのだ。



ちょうどいい、こいつらを芝にしてしまおう...誰も殺戮の様子を見ない様に黒の空間を貼り、金髪男の仲間3人の首を飛ばした。

仲間3人は漏れなくバラバラにされ、芝刈り機で刈られた。

その様子を金髪男にも見てもらった。


芝刈りおじさんは、大事な仲間が殺されているのにこうもカメラを回して、承認欲求を得ようとしているこの男が余りにも哀れでしょうがなかった。そして、金髪男は隙を見て逃げて今に至る、が...。



そもそも金髪男は何故殺めなかったのか。





実はあの時、敢えて芝刈りおじさんは金髪男を逃してやったのだ。

人が負う恐怖や恨みの念、罪、これも全て芝刈りおじさんの大好物だ。一度にこれだけの人数を食らったのだ、最後にはデザートが欲しくなるだろう?



必ずこいつは来る、そして私の事も殺しにくるだろうと見越していた。


こいつは自分に非がある事が分かっているから安易に警察に行くことはしない。そもそも動画を撮ってたけど、この空間で映像を撮れば他人に見せようとした瞬間消えるのだ。



『な、なんだよ。お前一体何者なんだよ...』



金髪男は自分も仲間同様殺されるのだと確信していた。



『私はただの芝刈りおじさん。汚い魂を刈って刈って刈りまくるのが好きな物好きなおじさんだよ。』



芝刈りおじさんは、老人のふりの演技はやめていつもの冷酷で残忍な性格に戻った。



『いやぁ君の魂はこんなに若いのに汚すぎる...!ある種の才能だよね。まあ、あれだけ色んな人に暴行して迷惑かけたんだから妥当か。最後に何か言い残すことはない...?』



最後の後悔の念すらも全部啜ろうとするおじさん。



『...死にたく無いいいいいいい!!!

なぁ、許してくれよ。お、俺の家さ大金持ちで金はいくらでもあんだよ、、なあ金やるから見逃してくれよっ?なっ?』




“ズバァ”


『面白く無い。こんなことしか言えなくてインフルエンサーなんか目指すなクソが。』




金髪男の首が転んでいる。


芝刈りおじさんはその首を“ガン”って蹴っ飛ばし笑っている。



『さぁ、これからがメインディッシュだ。』






“ん...俺首切られて死んだはず...”



金髪男は芝と化していた。


近くにはこの前殺された“シオン、リク、レオ”が絶望した様子で芝と化している。



“おい!シオン、リク、レオ!俺だよソニアだよ!”



金髪男こと荘似有は3人に呼びかける。



しかし...


“俺たちを置いて逃げたクソニアだ...お前の事も許さない...”



“な、なんだよっ。逃げたわけじゃねえ!

お前らが弱っちぃから殺されんだろ!”




荘似有は仲間にキレているが、3人はもう無視している。




そして...


『よーし、今日もいっぱい芝刈りしてあげるよー🎵』



芝刈りおじさんが芝刈り機に乗って、4人の元に来た。



“ウギャャア"ア"アアアア!!!”


芝を刈られているとこんなにも体をちぎられる様な痛みがあるのか...

刈られながら荘似有達は人間の時の罪を後悔するのだった。





『ふふふ、人間は本当に愚かだ...』





続く

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芝刈りおじさん ぽろん @091121

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