「あ、この人って私か」

私は箱の中を覗き込んでそう言った。


 私はベッドに座り箱を膝に置き、その中を覗き込んでいた。ホールケーキを入れる箱くらいの大きさで、上面には透明な蓋がある。その中には私の部屋が私を含めて完全に再現されていた。その上、箱の中の私も私と同じようにベッドに座っていた。

 箱の中の私が部屋の壁に設置されたインターホンのモニターをじっと見つめていた、するとモニターの液晶が青く光った。箱の中の私はすぐには立ち上がらず、キョロキョロと周りを見てから立ち上がりモニターの方へ向かって行った。


「え?これ動くの?」


そんなことより


「なんで今モニターが光る前にそっちを見てたんだろう?」


まるで誰かが来るって分かってたみたいだ。通販とか宅配とかも身に覚えがない。

私もモニターの方に顔を向けて考えていた。


ピンポーン


音と共にモニターが青く光り来客を知らせた。

「え、今日誰も来る予定無いのに」

私はびっくりして意味も無く周りをキョロキョロと見回した後、ようやく立ち上がりモニターの方へ向かって行った。


モニターを見るとそこには新聞の勧誘のお兄さんがいた。


「誰かと思ったらこの人か、相手すると長くなるから嫌だな」


私は居留守を使うことにした。

多少の罪悪感に苛まれたが、今はそれどころじゃない。


「というか箱の中の私がモニターが光る前にそっちを見ていたのって、今私がやっとことそのものじゃないか?」そう思い始めた。だって私はインターホンが鳴る前から、モニターが光る事を知っていたもの。でも箱の中の私もそうだった、ということは。


「箱の中の私も箱を持っている?」


なんだか背筋が冷たくなったのを感じた。

私は部屋に戻り、またベッドに腰掛けた。もちろん箱の中の自分がそうしたように、だ。

少しして、私は箱を覗き込んだ。箱の中の私がベッドに腰掛け、箱の蓋を開けていた。


「あ、これって外せるんだ」


私も箱の中の私に倣って蓋を開けた。


箱の中の私は箱の中の私が持っている箱の中から私を取り出した。


私も箱の中の私に倣って箱の中の私を取り出した。


「うわーすごい!ちょっと未来の私だから当たり前かもしれないけど私そっくりだ!」


(ちょっと未来の私?)


「すごい、私をそのまま小さくしたような精巧さだ」


(あれ?)


すると突然部屋が暗くなり、上に目を向けるとそこにはとても部屋の天井を全て隠し切る程大きな手があった。言わずもがな私の手である。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

変な事 @gachure_L

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ