閑話3.よくわかるKYT
「これより
「ダッセェ」
「うー子! 余計な口をはさむな!」
「これから地下に造られた施設に仕事に行きます。どんな危険が潜んでいるか考えてください」
「えすりのおっぱいが爆発してみんな死にます」
「死ぬのはお前だッ!!」
えーちゃんがパチンコ銃を向けると、うーちゃんはあかんべーをして走り去って見えなくなった。
KYTを邪魔してはいけない。えーちゃんは筋金入りのKYトレーニーだから。どのくらい気合が入っているかと言うと、エ型の卓越した頭脳で危険を予知しすぎて現場へ行かなくなったほどだ。信じられない。
「はい。仕事してて、地震が起きて、潰れて死にます」
「実際にあった事例だな。あー子、素晴らしい。良く勉強している」
例えば高層ビルだったら窓から飛び降りれば微小なチャンスがあるかもしれないが、地下は無理。酸欠、崩落、生き埋め、産地直葬、お陀仏である。
でも、だからこそ行く意味がある。危険に満ち、誰も行かないからこそ、お宝が眠っているものだ。
「はい、慧摺。致死性の毒ガスが充満していたケースが散見されます。その他、人体に有害な汚染物質の流出も生物が懸念すべき点です」
「うん、
えーちゃんはいーちゃんの意見をホワイトボードに書こうとして、ペンのインクがないことに気付いた。焚火へペンを放る。
「じゃあ今日は、危険のポイントを毒ガスとしよう。対策はどうする?」
「はい……地下に仕事に行くときは、ガスマスクをする……?」
「また良い意見だ。あー子」
自信がなくて疑問形になってしまったが、えーちゃんは褒めてくれる。ちょっと得意げな気分。
「はい。地下に仕事に行くときは、ガス検知計を身に付けよう」
「おー子のは経験が生きてるなあ」
「チームの行動目標はどうする?」
「往子のが良いかと。感覚ではなく、機器に頼るべきです」
いーちゃんは迷いなく言ったことで、おーちゃんのが採用になった。
「では、チームの行動目標を指さし唱和します。構えてください。『地下に仕事に行くときは、ガス検知計を身に付けよう』よし!」
「『地下に仕事に行くときは、ガス検知計を身に付けよう』よし!」
「それではタッチ・アンド・コール。構えて―― ゼロ災でいこう。よし!
「ゼロ災でいこう。よし!」
えーちゃんの号令に続いて、3人が声を合わせて人差し指をお互いのガス検知計に向ける。
珍しく仕事に付いてくるえーちゃんと、一人に飽きたうーちゃんと5人で地下へと歩を進める。
「ようし。実践に勝る学習は無い! いざフィールドワークだ!」
「ギャーッ!!!!」
その日私たちは、突然の大雨により地下浸水に襲われた。幸い全員で生きて帰れたけれど……地上に出れた時の空の青さは忘れないだろう。
本当に危険な事態は予知できないからこそ恐ろしいのだ。
じゃあ危険予知は意味が無い?
それはナンセンス。
予知不能を予知する。そんな心構えを養うことが肝要だ。
ちなみにえーちゃんは、その日からますます
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます