第88話 答え合わせ

 ボーラは空中正座している。

”お話を聞かせてください”

”ああ。仮に食い物を通して体内に濃縮されるとしてだ、それが急激に増えたら、今の病気のような症状になり得るんじゃないかと疑っている”

”なる、ほど”

 ボーラは長考した後、頷いた。

”それなら魔力の低い幼い子供ほど体調を崩すというのは分かります。魔力の塊とも言える私には効果がないのも。でも、シレンツィオさんはどうなんです? シレンツィオさんには魔力がないはず。その理屈で言えば、だったら最初に倒れるのはシレンツィオさんのはずです”

”これは想像だが、魔力を感じられるくらいに魔力を体内に入れてはじめて、魔力の味が分かるんじゃないのか”

”あー。花粉症みたいなものですか。なるほど。精霊魔法的に正しい気はします”

”花粉症というものは分からんが、そういうものがあるんだな”

”はい。羽妖精の職業病ですね。田舎だと花の蜜を集めて生活しているので”

”そうか。ともあれ、原因はわかった。後はそれをどうするか、だな”

”校長の日記が本当だと仮定すると、体内に大量の魔力を濃縮するのは身体に害になりそうです。命に関わる可能性があります”

”そうだな。そして校長はこうも言っていた、ある日魔法が使えるようになったと。あれは本当にそうだったのかもしれん”

”比喩ではなく、ですか”

”トンボの大島の魔法と教育法や魔法の体系が大きく違うのは、それが原因じゃないか?”

”あー。え。じゃあ北大陸のエルフは最初魔法を使えなかったと?”

”それどころかエルフですらなかった可能性はあるな”

”う、うわー”

”どうした”

”いえ、姿形を変えられる魔法や美容の魔法がある以上、確かにそうだと思っただけです。魔法で変化した生き物が子孫を残し得るのはピポグリフやグリフォンで証明されてますから”

”北大陸のエルフの自称は人間だった”

”……ですね。全部が繋がった気がします。そうか……”

 ボーラはしばらく考えた後、テレパスを送っている。

”魔法に対する無知と乱用の原因は分かりました。だからといってしでかしたことは変わりませんが”

”今はどうテティスたちを救うかだ”

”はい。大人は子供に比較して体積が大きい分、魔力貯蔵の魔法の許容量が増えて、また魔力を消費する魔法を使うのでどうにかなっているのだと思います”

”子供でも魔力貯蔵の量を増やすか、魔力を消費すればあるいは、ということだな”

”はい。でもそれは、世界の寿命を短くしてしまいます”

”そうだろうな”

”やっぱり皆を連れて山を降りません?”

”駄目だろう。もう一つ重要なことがある”

”この上ですか? な……んでしょう”

”俺が壊した谷の魔法陣には、やはり意味があった。谷から溢れ出る魔力を消費させて、子供たちを守っていたんだろう”

 シレンツィオの思考からしばし、間があった。ボーラは驚いた顔をした後、長い長いため息をついている。

”私は間違っていました。シレンツィオさんが学者にならなくて本当に良かったと思います。学者になっていたら、古代文明復興させて人間が覇権を握っていたでしょうし、その後大戦争して世界が滅んでいたと思います”

”そうか。俺には特に興味のない未来だな。それは”

”実にシレンツィオさんらしい言葉で安心しました。そしてシレンツィオさんをイントラシアに連れていくのも難しくなりましたね”

”どういうことだ”

”ガーディさまがその考えを知ったら、未来がどうなるか羽妖精でも分かりません。九割くらいの確率でこの世界を滅ぼすかも”

”九割の確率はどうなるかわからないの範疇なのか”

”羽妖精は計算にうるさいんです。んーでも、残りの一割はこの世界以外も巻き込んで盛大に滅ぼすパターンかなあ。シレンツィオさんがちょろく言っていることは、それくらい重要な話なんです”

”そうか”

”その塩対応が今は世界に優しい気がします。誰かに伝えて……駄目かな。駄目だ。高い確率でガーディさまは気づいてしまう……。一羽の羽妖精が抱えるには大きすぎる知識ですよ、これは”

”お前だけじゃないだろう。俺もいる”

”なるほど。シレンツィオさんが何の役に立つかはともかく、心強い気はします。それに……そうですね”

”なんだ?”

”イントラシアに帰らないでシレンツィオさんの専属羽妖精になるいい理由ができました”

”それは俺にとっても嬉しい話だな”

”えへへ”

 シレンツィオは苦笑した後、さあ、それでは鬼が出るか、蛇がでるかと口にして、奥地へ進んでいる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る