第78話 動き出す宝剣
”あの時から魔法陣が起動した感じはないですよ。シレンツィオさん”
”そうか。それ以外の魔法を感じたりはしないか”
”ありません”
”連中が風土病みたいなものを持ち込んだ可能性は捨てきれないよな”
”そうですね。その場合はお手上げです。回復魔法では未知の病気を治療できません”
”そうか、回復魔法というものがあったな”
魔法を使えない故に、その存在を知っていても使おうと思わなかったのがシレンツィオである。
魔法陣を調べる手を止めると、エルフの騎士に向かって口を開いた。
「子供たちに回復魔法を試したか」
「この程度の症状では、普通は使わないのです。かえって症状が悪化することがあり……」
”シレンツィオさん、病気除去の魔法じゃなくて弱い病気だと体の活性化魔法だけですませてしまうときがあるんですよ”
”違いは?”
”体の活性化魔法は身体能力を上げる魔法です。それで病気に勝とうという話なんですけど、範囲指定がうまくいかずに病気まで強化してしまうことも往々にしてあるんです。素人の回復魔法という言葉があるくらいで”
”それならばもう一つの、病気除去を使えばいいのではないか?”
”そうなんですけど、病気除去の場合は事前に病気を鑑定しておかないといけません。鑑定にはとても知識がいるので、一般には使われないんですよ。病気除去は”
シレンツィオはそうかと思いつつ、同じことをエルフに問うた。
「鑑定はしていないのか」
「劣等人のあなたにはどうか分かりませんが、エルフはそこまで深刻とは思っておりません」
「金でどうにかなるのであれば、俺が金を出しても構わない。ぜひ鑑定をしてほしい」
シレンツィオが頭を下げると、エルフの騎士は心底困った顔をした。思えばこの人物もとんだ貧乏くじである。
「……上に掛け合ってきます」
「ありがたい」
シレンツィオは礼を言って魔法陣から立ち上がった。
「悪魔からの影響ではないようだ。とりあえずは。鑑定がされるまでは、子供たちが食べられる食材を探し出したい。寮にいる子供たちの様子が知りたいがどうすればいい?」
エルフの騎士はまた自分がやるのかという顔をしたが、シレンツィオの顔を見て折れた。本来は自分たちエルフがしなければならないことだと思ったらしかった。
「それもすぐにやります」
「頼む」
シレンツィオの堂々たること、生まれつきエルフを指揮してきたようである。その姿を見て腹を立てたピッセロが、エルフの騎士を押しやって自らの胸に手を当てた。
「私にも仕事をください!」
「助かる。とりあえず、食材を広く買い集めて見よう。子供たちの舌が痺れないものを探したい」
「はいっ」
頷いて背筋を伸ばし、威風堂々歩く様はアルバの宝剣という二つ名がよく似合っていた。それは抜かれたが最後、煌めいて人々を縦横無尽に動かすのである。子供たちの危機を前に、宝剣は抜き放たれた。
”アルバの宝剣、かぁ”
”どうした”
”それでも、シレンツィオさんは私のものです。誰にも渡すものかと思いました”
”そうか”
”そんな言葉も言われ慣れているんでしょうけど”
”そうでもないな。せいぜい一〇〇人くらいだ”
”十分多いじゃないですかヤーダー!!”
そんなやりとりをしつつ、シレンツィオは子供たちが食べられるものを探している。
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