第55話 ピセッロ
本日は2回更新です
/*/
シレンツィオとボーラは同時に振り向いた。人間に擬態した風の女生徒が、まだついてきていた。
「ええと、ペットと戯れているところ申し訳ないんですが。いいでしょうか。実は私、セントロアルバの密偵でピセッロと言います」
セントロアルバとはアルバ国の中央のこと、ピセッロとはエンドウ豆のことである。もっともアルバの通称では、好きな食べ物がそのまま通名になることはままあったので、おかしな名前とまでは言えない。
シレンツィオがつれないので、作戦を変えたようであった。
「そうか」
「待って、待ってください。お怒りは分かりますがなにとぞお話を、ウリナ家の命で来ております」
「別に怒ってはないが。今羽妖精の機嫌を取るのに忙しい」
「いまだかつて聞いた事がないほどの怒りの表現!!」
”羽妖精に対して失礼ですよ”
声をあげるピセッロにボーラがそう返したが、無視された。
「お聞きください。当主様からの伝言です」
「聞くと言わないでも言いそうだが」
「はいっ、仕事ですので」
「そうか」
ピセッロは頭を下げた。
「迎えに行くので浮気などせぬようにとのことです」
”シレンツィオさん、変な顔をしましたね?”
目ざとくボーラが言った。シレンツィオはボーラを目で追っている。
”そうか?”
”はい。意識としてはいつもの通りでしたが、表情は少し”
”そうか。いや、言われて見ればそうだな。不思議な感じだ”
”浮気をするな、ですか?”
”俺としては生まれたときから知っている友人なのだが”
”シレンツィオさんの安心しろなみに安心できない感じですね?”
”流石の俺も自分の娘かもしれん女を口説くことはないぞ”
”娘だったら浮気するなは言うと思います”
”そうだったか……”
シレンツィオは遠い目をした。
”いや、駄目でしょ、というか、格好いい顔しても駄目です。全然駄目です。あと今は私がいますからね!”
ボーラはぶんぶんと飛びながら言った。
ピセッロは、そんな様子をおそるおそる眺めている。
「どうした?」
「いえあの、斬り殺されたら嫌だなあと」
「誰しも斬り殺されたくはないだろうな。まあ、話は分かった」
「私が連絡役としてお側につくことになりました」
「監視はいらん。それより学費が足りんので送れと手紙を出したつもりだが」
「え、いや。まだ届いて……い、今すぐどこからか都合してきます!! すぐ、すぐ!!」
ピセッロは駈けだして言った。
シレンツィオはしばらく黙った後、口を開いた。
「別にあの娘が悪い訳でも責任を取れとも行ったわけではないんだが」
”大丈夫です! 心が読める私は分かっていますよ!”
”口にするのは一々面倒だからな”
”シレンツィオさん、口を開かないでいいなら一年でも黙っていそうです”
”そこまでじゃないな。せいぜい半年くらいだ。港にいくとどうしても、店を尋ねたりしないといけない”
”やったことあるんかーい!”
シレンツィオは僅かに微笑むと、ゆっくりと歩きだした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます