第45話 ボーナストラック

 この時代の夜は早い。エルフの場合は魔法で灯りを作ることができるのであるが、シレンツィオは魔法が使えない。結果、暗くなるとさっさと寝ていた。

 いつもどおり釣床に外套を敷いて毛布を被って寝ていると、ボーラがふらふらと寄ってきた。翔んできたとも言う。

「シレンツィオさん、シレンツィオさん」

”どうした?”

”あのねですね。私を甘やかすと言っていたじゃないですか”

”言っていたな”

”待っていたのですが、シレンツィオさんが忘れていそうなので、えへへ。おねだりにきました”

 ボーラは小さく一回転してそう言った。恥ずかしいのか、普段見せない顔をしている。

 シレンツィオは表情が変わらない。あの日、桃の酒を飲ませた気もするがと思いはしたが、すぐに手を伸ばした。

「お望みのままに」

”し、シレンツィオさんの優しい声は、なんというか、ずっと一緒だったのに照れますね!”

「そうか」

”ま、魔力とか入ってません? なんかもう頬が熱いんですけど”

「そうか」

 ボーラは撃墜された。へろへろふにゃふにゃばったりこってりである。シレンツィオの手がそれを優しく抱きとめて、ボーラは両手で顔を隠した。

「あ、あの、わたくし、初めてですので、お、お手柔らかにお願いします。これは呪いじゃないですけど」

 シレンツィオは右手を伸ばすとボーラの頭を人差し指で優しく撫でている。

”子供扱いしてませんか?”

”子供に酒は飲ませない”

”そ、そうですか。ならいいです”

 それでボーラは頭を撫でられた。というよりも、撫でられるだけで終わっている。それ以上はもう少し修行してきますとか言って、逃げ出してしまった。

 シレンツィオはそれを見送って珍しくも微笑んだ後、腕を枕にして釣床の上で気持ちよく眠た。ぐぅぐぅ寝た。


<第一章おわり>

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