第9話 雷光氏の世界
街の感じは、修学旅行で行った山口県の錦帯橋、岩国に近い。
橋はもちろん錦帯橋の様な三重アーチ橋じゃないし、橋も城も街も規模はこちらがずっと小さい。
あぁ~、配置が似てるんだ。城と御殿、川を挟んだ対岸の武家屋敷に町家。
雷光氏、この世界を作るときに間違いなく参考にしてるな。真似っこと言ってもよいけど・・・
僕は殊勝に畏まって雷光氏についていった。
橋を渡ると、馬出しの折れ目の先に御殿の入口になる巨大な櫓門がそびえている。
サッと雷光氏か右手を上げると、観音開きの戸が左右に開き始めた。
開けた広場の先にある堀を挟んでその奥に漆喰壁そして御殿がそびえている。広場は結構広く、サッカー場一面が丸々入るぐらいに見えた。
御殿へは向かわず、雷光氏は右手に折れ山頂の本丸目指す石段を登り始めた。僕らも雷光氏を追いかけて石段を登る。
幾つかの郭を通って山頂へたどり着くまで三十分ほど山登りをさせられた。
成る程、戦国時代の山城がなかなか落とせない訳だ。
此処を槍を担いで甲冑着込んで戦いながら登るのは、余っ程忠誠心があるか報奨に目が眩んだ猪突野郎でないと無理だな。
生命が幾つあっても足りないや。
本丸御殿は天守閣と一体になっている小規模な物だ。僕らは御殿の正門から中に迎え入れられ、天守閣へと上る廊下を進んだ。
天守閣最上階まで登ると、眼前に雷光氏の仙域の全貌が開けていた。
美しい風景だった。眼下には城下町が開け、その先に広がる広大な田圃、背後は紅葉の美しい山々がそびえている。左手川の下流には遠く海が望め、其処には港町があるようだ。
「どうだい、私の仙域は?」
「凄く美しい世界ですね」
「三十里四方あるからね。 山林、田畑、チョットした海まであるぞ」
三十里、一里4キロだから1辺120キロ、デカい、ともかくすげーとしか言えない!
「一人前と認められる仙域は、最低でも三里四方だから、私の仙域もそれ程広いとは言えないんだけどね・・・」
じっちゃんが口を挟む
「儂の世界がほぼ20キロ四方で、カズのはチョット狭くて16キロ程度だったかな」
カズとはばっちゃんの名だ。一葉というのが正式な名前なんだけど、じっちゃんはカズと昔から呼んでいた。
ばっちゃんが続けた。
「付与が終わったらやっちゃんを招待するよ、楽しみにしといて」
一人前と言われる12キロ四方の仙域をもつ仙人だけど、仙人一人を支えることが出来る最低ラインは4キロ四方・・・そこで満足してニート生活に入る仙人は多いらしい。
仙人は霞を食っていると聞いたことがあるが、どうやら彼らニート仙人がそうだ。彼らは、疑似生命や無機質の自立行動可能ゴーレム等々AI的思考力 を持った召使いを作り出し悠々自適の引き籠もり生活を楽しんでいる。
現し身を作る必要も無く、他の人間を仙域に迎える必要がなければ、要するに付き合いを一切しなければ一里四方の仙域を持っていれば十分だということ。
これは、生き物や人を仙域に迎え入れる条件が結構大変なことから、そこで妥協しちゃう方が楽というのも理由の一つらしい。
魂を持つ人間などを世界に迎え入れるためには2つの方法がある。
不老不死として迎えるか、輪廻転生する死せる生命として迎えるかだ。
仙域がほぼ一里広がる事に、不老不死では一人、輪廻転生ではニ十人迎え入れられる。
招聘された彼らは仙域を維持する礎となり仙域に固定される。
輪廻転生の場合、冥界を作り維持する必要があるため、その負荷が仙人本人に掛かる。
だから、輪廻転生者をフルに受け入れて行けば、仙人が負荷に耐えられなくなり、最終的に仙域の維持が出来なくなってしまう。
その為、輪廻転生者は、大体半分程度に抑えておけと教わった。
仙人は生命を創造出来ない、勿論、魂なんぞ持つ人間なんざ到底作れない。
だから、仙域内の本物の木々、鳥、獣などは全て外の世界から招聘したものだ。
しかし、現し世と呼ぶ外部世界には、仙人、道士などの外、付喪神、精霊、妖怪など八百万の魂魄が存在し、各々の縄張りを主張しているため、手垢がついていない生き物などを取り込むのには大変苦労するらしい。
兎にも角にも、付与を与えてもらう時がきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます