⑦クライマックスの舞台は?

「遅刻の理由は降雪のため、という理解で合っているな? では答えるが、知るか。雪が降ろうと雷が落ちようと風が吹き荒れようと、主君を守るために身を尽くすのが我々騎士の役目。お前は主君より私事を優先した。よって罰則を与える。城の外周を百回走ってこい。根性を叩き直せば、その訳の分からん言葉遣いも直るかもしれんな。さあ、行ってこい」


 我らが王国騎士の長は、年齢不詳ながら見目麗しい女性であるのだが、大変に厳しい。遅刻したとはいえ、雪で埋まって死にかけた人間への配慮はゼロだ。それどころか、もう一度死にかけろと言う。だが、俺には受け入れる以外の選択肢などなかった。次にどんな目に遭うか分かったものではない。


「仰せは胸に深く刻み、この命に代えようと全うすると誓いまする。しかしながら気高き我らが女傑よ、この穢れた言の葉は悪しき魔女の忌まわしき術によるもの。この戒めから我が身を解き放つには、愛の成就が必要でありますれば——」


 命令を受け入れはするが、説明はしたい。そう思って俺はここまで一生懸命に語ったのだが、失策だった。


「女にでも呪われたか? お前の女癖の悪さは昔から直らんな。騎士にあるまじき行いだ。もう百周罰則を追加する。しかし、その女も回りまわって我らの主君にご迷惑をおかけしていることは確かだな。私が話をつけてきてやる。どこの誰だ?」


 悲鳴を上げたい気持ちが、騎士長の後半の言葉で吹き飛んだ。なんと心強い。逸る気を抑えて、どうにか分かりやすい言葉で説明できるように気合を入れた。


「オフェリアルテム家が息女——」


「ラナーバか。また厄介な女を引っ掛けたものだ。とにかくお前は外周走だ。一旦この件は私に預けるように」


 この方の理解力には全く感服する。城の外周二百周など命が三つくらい消え果そうだが、希望が見えた今の俺なら三度生まれ変わるくらい造作もない。礼を述べた後、俺は全速力で城の周りを走り回った。





 本当に三回ほど死んだ気がするが、どうにか罰の全てをやり遂げて、俺は騎士長のところへと戻った。足が上がらないのはもちろん、腕まで上がらない状態で何度も転びながら階段を上っていた俺は、傍から見たらゾンビにでも見えたに違いない。


「戻ったかエルド。先程ラナーバとは話をしたが、解呪はあの女の意志ではどうにもならんらしい。結局正攻法で行くしかないが、まさか命までかかっているとはな。いざというときに主君のためになげうつものではあるが、流石にくだらん呪い一つで失うのは不憫だ。元は自業自得ではあるが」


 期待一つで立っていた俺は、その言葉を聞いて地面に転がる羽目になった。そんな俺を見ても眉一つ動かさず話を先に進める騎士長は、すごい人だと改めて思う。


「それで、お前は最期になろうともララーノに気持ちを伝えたいのだな? 協力してやる。呪いの影響は甚大だ。民草を巻き込むのは私が許さんし、ララーノに危害が加わるのはお前も望むところではないだろう。よって、私がララーノを人気のないところに呼び出し、お前が後からそこを目指すという形を提案する。彼女に降りかかる災いは私がどうにかする。お前はお前に降りかかる災厄を自力でどうにかしろ。やるか?」


 まさか、ここまで場を整えてくれるとは。体力の限界で立ち上がることは叶わなかったが、感動と感謝は熱いものがこみ上げて来た瞳で伝えることにする。


「おお、あなた様は女神か? このような——」


「承服と受け取る。帰っていいぞ。明日に備えろ」


 騎士長は淡白にそれだけ述べると、颯爽と踵を返して去って行った。帰りたいのは山々なのだが、身体が動きそうにない。うん、今夜はここで一泊しよう。決めるなり俺は睡魔を受容した。


(問)ララーノを呼び出す『人気のない場所』とは、どんなところ?

(期限)2023年1月13日(土)23:59

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