④新たな試練とは?

 空は快晴。今日の青空ときたら、まるで天国にでもいるかのような美しさだ。いや俺、不吉なたとえを出すんじゃない。


 まだ、朝の早い時間だ。この時刻であれば、ララーノは自宅にいるに違いない。俺は駆けた。死ぬかもしれないというのに、その足取りは軽い。惚れた女に会いに行くのだ。幸せに決まっている。


 この呪いに殺されるのだとしても、最後に見る顔がララーノの顔になるなら、それもまた悪くないかもしれない。俺のこういう前向きさがこれまでの九十九回の失敗を招いたのだが、性格というものは簡単には変わらない。俺が俺を貫いた先にあるものが死だと言うのなら、それが俺の運命だったということだ。甘んじて受け入れよう。


「失礼します。ララーノさんはいらっしゃるでしょうか」


 扉が開いてから奥にいる人物を認識する前に、俺は早口で用件を言い終えた。これは呪いの数少ない対処法の一つだ。俺が相手を女だと認識しない間であれば、普通に話ができる。


「まあ、エルド様。ごきげんよう」


 女神とでも形容したくなるほど清らかな微笑みを湛え、ララーノが現れた。呪いがなくとも、彼女のためなら幾らでも言葉を盛れそうだ。


「ああ、ララーノ嬢。我が身は君に焦がれ続けて今にも燃え尽きんとしている」


 しかし俺は利口だ。言葉を重ねようとすればするほど、意図が伝わりにくくなるのは既に学習済みである。だから「好きだ」という言葉を複雑変換したものだけを告げた。結構マシな部類だが、さて。


 ララーノがじっと俺の顔を見つめる。その頬がぽっと赤く染まって——


「ふざけたことをぬかしてんじゃねぇ、このすけこまし。一回死んで来い」


 理解に五回は反芻が必要なほどの、それはそれはひどい罵倒で振られた。扉もぴしゃりと閉じられてしまう。死を覚悟すると同時に、ああいうララーノも案外いけるなと思ってしまうのがこの俺である。


 だが、いつまで待っても死は訪れなかった。どういうことだ? 頭を悩ませていると、背後で足音がした。


「ごきげんよう、すけこまし殿」


 振り返れば、全身黒に身を包んだ女が立っている。ラナーバ。ララーノの姉であり、俺を呪った女だ。


「『百回振られたら死ぬ過剰修飾の呪い』と『絶対に想いを伝えられない呪い』の出会いは、こういう結果になるのね。面白いわ」


「まさか、同じ血の流れを汲む愛すべき存在を」


「ああ、あなたの言葉って面倒くさいから喋らなくて結構よ。あなたは折れないから、呪いの実験体としては優秀って認めてあげる。どうせ百人目は妹を追いかけ続けるのでしょうし、このままじゃ膠着状態で面白くないから、新しい賭けをしましょうか」


 無造作に伸びた長い髪をさっと払って、ラナーバは不敵に笑った。


「私が新しくかけるこの呪いを破れば、あなたのも、妹のも、全ての呪いを解いてあげる。やるでしょう?」


 妹まで呪うこの外道女から、逃げる道理などない。俺は力強く頷いた。


(問)ララーノと自分を救うための試練、新たな呪いとはどんな呪い?

(期限)2023年12月13日(水)23:59

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