一樹くんがこの春休み最後に見る女の子の水着姿は私ってことになりますよね?

 窓から見える空は既に茜色へと変わり始めていた。そろそろ帰る時間か……。水着からの着替えがある関係上、少し早めに行動しないと最終下校時刻に間に合わない可能性もあるのがこの同好会の数少ない欠点だよな。


「んーっ! 今日もいっぱい遊んだわねぇ」


 大きな伸びをしながら満足気に周囲を見渡す二葉。その目が、今日は終わりにしよっか? と言っている。


「そうですね。今日はいつもより片付けに時間かかりそうですから」


「体操服までびしょ濡れになると思ってなかったもんねー」


 羽山と雪路も賛同するように頷いた。なるほど……元々はこうなる予定じゃなかったのか。逆に気になるな……けど、なにが怖いって、本来の予定の方が酷い可能性があるんだよな……主に二葉のせいで。気になるけど聞かないでおこう。それがいい。


「……」


 プールから上がってタオルを始めとする私物を纏めると、シャワーへ向かっていく3人。全体に声を掛けずに行ってしまうのはいつも通りなので、これといって気にはならない。時間に気づいた人間が片付けを始め、気づいた者から後に続くだけ。いつの間にかそうなっていた。


 俺も上がるかと思いながら、なんとなく3人を目で追ってしまう。


 歩きながらお尻に手を伸ばして水着を直す二葉。俺の視線を意識しているのか、身体の角度を変えて見えないように直す雪路。そして食い込んでいるのを気にしないのか、直す素振りすら見せない羽山と。


 なんだろ、雪路の安心感がすごい。逆の意味で羽山も相変わらずだし。二葉は悪い意味で相変わらずだ。あいつ、俺が見てるの気づいてやってるだろ……。


「一樹くん」


「氏姫?」


 傍に来ていた幼馴染がジトーとした目を向けてくる。


「3人のお尻を見比べていたみたいですけど?」


「……変なこと言うのやめてくれ」


 見てたかもしれないが、見比べてはないはずだ。強いて言えば、お尻じゃなくて行動は比べたけどな。


「今日は同じスクール水着ですから、比べやすいって感じですか?」


「お前な……」


「冗談です」


 その割にはジト目のままですよ? 氏姫さん?


「氏姫の場合、冗談に聞こえないんだって」


 本気で怒ってそうで心臓に悪い。


「よいしょっと」


 俺の言葉を無視してプールサイドに上がる氏姫。それから首だけで振り返り、意味深な視線を向けてくる。


「氏姫?」


 いつもなら二葉同様、俺に見せつけるように水着を直す流れだ。だけど、今日に限って動きがない……って、なんだか俺が見たくて期待してるみたいじゃねーか。


 いや……期待してるのか。実際のとこ、目を逸らすことなんて簡単なはずなのに……いまだって、氏姫の顔とお尻を視線が行き来してるしな。否定はできなかった。


「くすっ、私が水着の食い込みを直すの待ってるんですか? 今日の一樹くんはわかりやすいです」


「悪かったな、いつも見せつけてくる幼馴染が居るせいで期待しているのは事実だ」


 目の保養なのは確かだし?


「……私が痴女みたいに言わないで欲しいです」


「そこまでは言ってねえよ!」


「ですよね? そっちの気があるのは二葉ちゃんだけです」


「……あいつに関してはノーコメント」


 義妹よ……幼馴染にもそう思われてるのは……どうなんだ?


「一樹くん」


 氏姫が俺の名前を呼ぶ。だけど、顔が向いているのはシャワースペースのほうだった。


「うん? どうした?」


 視線を追いかけると、更衣室へ繋がる通路へと消えていく3人の後ろ姿が見えた。


「二葉ちゃんたちはシャワーを済ませて更衣室に行ったので……一樹くんがこの春休み最後に見る女の子の水着姿は私ってことになりますよね?」


「そう、なるな」


「それも、この春から大学生の一樹くんにとってはレアな高校の学校指定スクール水着姿です」


 徐々に氏姫の言いたいことがわかってきた。しかし、あえて聞いてみることにする。


「つまり?」


「……一樹くん、絶対にわかってますよね?」


 ジト目の粘度が上がると思いきや、頬に朱が差した。


「氏姫の口から聞きたいなと思って」


「もう……私のスク水姿を、しっかり焼き付けておいてくださいってことです!」


 なんて言いながら、氏姫は後ろ手に組むとその場でゆっくりと1回転。もちろん、最後には食い込み直しまで披露してくれた。


 氏姫の言った通り想いを寄せている相手である幼馴染のスク水姿が、春休みの記憶としてしっかりと脳裏に焼き付くのだった。

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