ラスト10 一樹くんが望むなら……たまにスクール水着姿になりますよ? 水鉄砲も自由です

「か、かか一樹くん、片足ずつ抜きます、ね」


 俺が下ろしたハーフパンツから、まずは右足を抜こうとしている氏姫。その動きはぎこちないものの、とりあえずは足をもつれさせたりする様子がないのは安心だ。こんな状態でプールに落ちたりしたら危ないからな……。


「足を引っ掛けてプールにドボンとかやめろよ」


「そ、そこまでドジじゃないです」


 長年の付き合いがある俺から見て、いまの状況だとやりかねないと思ってるから言ったんだけどな……氏姫も自覚あるのか否定の言葉が弱かった。


 俺の心配をよそに無事右足を抜いて、今度は左足を抜く氏姫。


「……」


 露わになった氏姫のスク水姿をついつい眺めてしまう。両足をハーパンから完全に抜いた氏姫は俺の視線を気にしつつも、身体を隠したりする素振りを見せなかった。両腕を腰の横辺りで彷徨わせているのが、幼馴染の内心を表しているように感じる。


 俺は許可が出たと解釈して、舐め回すようにして見てしまう。スベスベとした質感を持つ化学繊維の濃紺色と氏姫の白い肌。スパッツ部分の裾ゴムが張りのある太ももに食い込んでいるのが見て取れた。相変わらず俺好みの素晴らしい脚だ。


 しかも内もも部分が濡れて色濃く筋になっているのがイケナイモノを見てしまった気分になってしまう。水着に吸収されきれずに上半身から流れてきた水だっていうのはわかってるんだけどな。


 抱いてしまった邪な感情を誤魔化すように視線を上げていく。撫で回したくなるようなお腹、背中や二の腕で感触を知っている人並みの双丘と、順々に視界に収まっていき最後には俺を見下ろしている氏姫の顔が目に入る。


「――っ~~っ!」


 口をパクパクとさせていた。瞳には涙が浮かんでいるように見えて動揺してしまう。


「う、氏姫……」


 確かに真っ赤になってたけど、普通に会話できてたよな? それなりに平気そうだったじゃねーかよ! 急変しないで欲しい! 


 ……いや、どう考えても俺のせいだけどな! そう自分自身にツッコミを入れてしまった。そりゃこんな間近で身体を舐め回すように見られてたら、異性どころか同性相手でもこうなる。


 しかも、今回の場合は羽山の言葉を借りるなら「授業で女子にだけ見られるはずだったスクール水着」だからな。氏姫だっていつもの競泳水着ならこうなってない気がする。


「一樹、くん。そんな風に見られると恥ずかしいです」


「さっきは自分から見せてただろうが」


「自分から見せるのと、見られるのじゃ全然違います」


 なるほど。その言い分に関しては納得だ。気持ちが分からなくもない。


「くすくす」


 聞こえてきた小さな笑い声は果たして誰のモノなのか。犯人を探す余裕がなかった。


「ふふっ」


「にししっ」


 ……全員かよ!? けどそうだよな……見てる方は楽しいだろうなあ!


「兄さんはいつまで姫姉さんの体操服を大切そうに持ってるのかしら」


「はいよ体操服」


 氏姫に、持っていた体操服をさっさと渡す。俺がこのまま持ってるのも色々とアレだし。特に二葉は「匂い嗅がないの?」とか言ってきかねない。というか、俺が即座に反応してなければ言ってただろうな。雰囲気でわかる。


「ありがとうございます……って言うのも変ですよね? あ、でも、脱がしてってお願いしたのは私なので合ってますかね?」


「さあな」


 とりあえず無事に終わってホッとする。事故でも起こるのを期待していたらしい二葉たちは微妙につまらなさそうな顔を隠さないけど、散々俺たちのことをイジってたんだから満足しろと言いたい。


「なんか何事もなく普通に脱がせて終わっちゃったわね……もうひとつくらいおいしいネタを作ってくれると思ってたんだけど」


 おいそこの義妹。兄と幼馴染になにを求めてやがる。今日はもう十分だろうが。


「一樹さんと氏姫さんですから……」


 羽山? どういう意味で言ってるのか聞いてもいいだろうか?


「これで女子は濡れた体操服を脱いで動きやすくなったし、遊ぼっか!」


 雪路が場の空気を変えるように水鉄砲を見せてくる。しかもそのまま俺に渡してくれた。まるで好きな人を撃って、今回の件は終わりにしましょう。そんな風に言ってるように感じる。


 立ち上がり水鉄砲を構えた。もちろん俺が銃口を向けた相手は二葉だ。遠慮も躊躇もなく顔を狙える相手だしな。


「――ちょっ!?


 しかし義妹の反応も早かった。俺がトリガーを引く前にプールへ飛び込んでしまう。ちゃっかり自分の水鉄砲を持っているのは流石だと思った。


「二葉さん、シャワーがまだなんですけど……一応、全身が濡れてるからセーフですかね、コーチ」


 一瞬、羽山の言うコーチが誰を示しているのかわからなかった。思わず羽山を見ると、彼女は真っ直ぐに俺を見ている。


「そういや俺って同好会のコーチ枠として選ばれて参加してるんだったな」


 頭から抜けていた。というかだ、この同好会の活動内容ってプールで遊んでるだけなんだが……コーチとは? という疑問が生まれてくる。ほんと今更だけどな。


「~~っ」


 数秒ほど視線が絡んでいた。けれど、不意に頬を朱色に染め上げてアワアワしだす羽山。


 そのままプールに逃げ込んだ。二葉と違い、水鉄砲は持っていなかった。


「……」


 絶対に俺のことをコーチって呼んだせいで、年上の男にスク水姿を見られてるって意識しただろ……羽山って自爆癖あるよな……まぁ二葉もだけど。


「きゃぁっ」


 羽山が二葉に撃たれて悲鳴を上げている。プールに入ってるせいで狙われるのは自然と水面より上の胸元から顔になる。羽山にとっては最悪だろうな……さっきも胸を集中的に狙われていたのに。


「羽山ちゃん、水鉄砲を忘れてるから撃たれ放題ですね……助けに行きます!」


 最初から俺の答えを求めてなかったのか、雪路はさっさとプールへと飛び込んだ。羽山に夢中だった二葉に横から不意打ちを加えて、生じた隙に水鉄砲を羽山に渡している。


 あれ? 雪路のヤツ……自分の分の水鉄砲は? と疑問に思ってる間に行動に移した。


 渡すために近くに居た羽山の背後に素早く回り込むと、おんぶされるような格好で抱きついた。そのまま脚を絡めてバランスを取ると羽山の胸を鷲掴みにして揉み始める。


 雪路の意図がわかった。自分の水鉄砲を持っていなかったのは単純に両手をフリーにするためだ。水鉄砲を持たないから好きなだけ撃ってくれて構わないって意図もあるのかもしれない。その代わりに直接攻撃すると。


「なぁ!? ゆきさん!」


 羽山が驚き身を捩るけど、振り払える様子がない。雪路はあろうことか、羽山の胸を俺に見せつけるように下から持ち上げて揉んでやがる。やられる側はたまったもんじゃないだろうな。というか、羽山ってさっきも胸を揉まれてたよな……どんまいだ。


 見続けるのも申し訳なくて視線を逸らす。その寸前、二葉が参戦したのが見えた。どちらの味方をしたのかは確認していない。


「楽しそうですね」


「氏姫、楽しそうだと思うなら参加してきたらどうだ?」


「自殺行為もいいところなんですけど……もう少しのんびりしてたいです」


 氏姫は一瞬、俺に意味ありげな目を向けたかと思うと正座して自分の太ももをポンポンと示してくる。


「そうだな、俺ものんびりするか」


 俺は遠慮することなく氏姫の太ももに頭を乗せる。俺の後頭部が大好きな弾力に迎えられた。


「一樹くん」


 目に手を乗せられて視界を遮られた。


「ん?」


「……一樹くんが望むなら……たまにスクール水着姿になりますよ? 水鉄砲も自由です」


 いつもなら呆れるところだ。だけど今日の俺は――


「なら体操服も追加してくれ」


 ――そんな要望を付け加えるのだった。


「変なことはしてくださいね」


 これを言うときの表情を見られたくなかったから目を塞いだのか。それでいて、俺の顔色はわかるようにしていると。


「今日散々した気がするんだが?」


「だからです」


「なるほど。ハマったと」


「わかってるなら口に出さなくてもいいじゃないですかっ、意地悪です!」


「安心しろ。俺も夢中だったから」


「――なら、いいです」


 戻ってきた視界に映る氏姫の顔。それはそれは見事な朱色に染まっていた。果たして俺と氏姫、どっちのほうが赤くなっているのやら。確認するように見つめ合ってしまう。


「わっ! ちょ、待った! ストップ! 兄さん、姫姉さん! 助けて! 水着の中に手を入れて揉むのは勘弁してー!」


 被害者が羽山から二葉に変わったらしい。助けを求める声を聞き流しながら、俺と氏姫は膝枕を続けるのだった。


 もちろん、最終的には巻き込まれて俺と氏姫が集中的に狙われることになった。文句は言えん……。

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