ラスト9 姫姉さんは男に脱がされたいんだ?

 とは思ったものの、俺の手元にだけ水鉄砲がない状況っていうのはマズいよな……ひとりを集中的に狙うのが大好きな連中だ。しかも、現状俺以外の全員が一方的に撃たれる時間を過ごした訳で……不利だ。どう考えても狙われる。


 せめて、反撃できる状態にはしておきたい。氏姫が元々使っていた水鉄砲を探すと少し離れた場所に転がっていた。


 どうやって回収するか……いや、氏姫に俺のを返してもらえばいいんだろうけど、この流れで味方してくれそうなのも氏姫だけなんだよな……そんな彼女から武器を奪うのも……と思ってしまう。


 舌なめずりをしている二葉を見るに考えてる時間はなさそうだ。仕方ない……頑張って拾うか。


「あ、ちょっと待って!」


 意外なことに雪路が止めに入ってきた。二葉になにかを耳打ちする。


「確かに雪路さんの言う通りね」


 今度は二葉が羽山に。


「なるほど、その通りですね」


 納得したように頷く羽山を見て、背後から「嫌な予感がします……」なんて呟きが聞こえてきた。大丈夫だ氏姫……俺も同感だから。


「姫姉さん」


「……なんですか?」


 警戒心をこれっぽっちも隠そうとしない氏姫。正直、ターゲットが俺じゃなくてよかったと安堵している自分が居た。我ながら酷い話だ。


「1人だけ体操服を着たままよね?」


「え――」


 あ、あー……そういうことか。雪路が言い出しそうなことだと変な納得感がある。


「濡れた体操服なんて着ていて風邪引いたら困るでしょ? もう春休みも終わりだし」


 ――――あの二葉さん? もうちょっと理由づくりを頑張ったほうがいいと思うぞ? 風邪引いたら困るって……春休みの半分以上を水着で過ごしている時点でツッコミ待ちとしか……。


 そもそも真冬でもプールで泳いでるじゃん……一応は、屋内で温水プールとは言え、シャワー浴びた直後とか普通に寒いし。


「私、別に脱ぐのが嫌とは言ってないんですけど……」


 氏姫が体操服を脱ごうとしているのが気配でわかる。だよな……自分でハーパンを脱いで、スク水のスパッツ部分を見せてくるような幼馴染だもんな。今更躊躇するはずもない。


「姫姉さんストップ。せっかくだからこの場の誰かに脱がしてもらうのはどう?」


 は? なに言ってんの? この義妹。


「にししっ、小田ちゃん! あたしにお任せだよ!」


 言い出しっぺが誰だかわかったわ……確実に雪路だ。止めに入ってきたのもそうだし、乗ってくるのが早すぎる。


「当然、わたしでもいいわ」


「未空も居ますよ?」


 3択に見えて、実質1択に思えるのは気のせいだろうか? 俺が氏姫の立場で選ばないといけないんだとしたら、羽山だろ。


「あの、普通に自分で脱ぐので大丈夫です」


 ――あ……そもそも、自分で脱ぐって選択肢が普通か……俺も随分と毒されてるんだな……。


「小田ちゃん、それはつまんない! 最後に脱ぐんだからサービスしてくれないと!」


「……一応、質問です。胸とお尻はもちろん、太もも、お腹とか腋みたいな変なところを触らないって約束できますか?」


 氏姫の場合、特に腋だろうな。


「……さぁ?」


 ここで嘘を吐かないのが雪路のいいところかもしれない。


「そんなに警戒されると幼馴染としてショックね……」


「……ある意味、二葉ちゃんのほうが怖いんですけど」


「酷いっ!」


 心外だって表情だけどさ……正直わかる気がする。二葉は付き合いが長い分お互いにラインを把握しちゃってるから、スレスレまで一気に踏み込んできそう……というか、踏み込んでくる。


「そもそも、どうして私だけ人に脱がされないとならないんですか?」


「兄さんとイチャイチャしてるのを見せつけられたからだけど? 過去最高レベルじゃなかった? わたし、胸焼けしそうだったんだけど」


「イチャイチャなんてしてません! ですよね、一樹くん!?」


「……そうだな?」


 氏姫は同意を求めてくるけどさ……傍から見ていた相手には言われても仕方がない気がするんだよなぁ。内心、そんな風だから肯定が疑問形になってしまった。


「アレでですか?」


 羽山が驚いた様子でボソッと呟いたのが耳に届く。雪路も苦笑してるけど、俺の背中に隠れたままの氏姫は気づいていない。


 ――っていうかさ、氏姫が俺の後ろに隠れ続けているのって本人も自覚あるからだよな? 顔色や表情を誰にも見られたくなくて俺を盾にしているとしか思えない。


 あー……だからか。3人は最初からそれに気づいていてイジってると。これ氏姫のことを庇うと逆効果になりそうだな……。氏姫には悪いが黙って居たほうがよさそうだ。助けるつもりが悪化させたら申し訳がない。


「理由を理解してもらったところで、誰に脱がして欲しい? わたしたち全員でもいいけど」


「ぁ、ぅ……」


 氏姫が逃げるのは不可能だと察して、少しでもダメージを減らそうと必死に頭を回転させているのが伝わってくる。庇うのは無理でも、時間を稼ぐくらいはするか。


「ちなみになんだが二葉」


「なに兄さん」


「仮に二葉が選ばれた場合はただ脱がすだけか?」


 わざわざ聞いたのは、とてもじゃないがそうとは思えなかったからだ。


「……当たり前でしょ」


 その妙な間が答えなんだよなぁ……。絶対に良からぬことを考えていたに違いない。肩紐をズラして驚かせるくらいは普通にしそうで……流石にスク水まで脱がすようなことはしないだろうが……しないよな? 信じきれないのが怖い。


「雪路は?」


 こっちは聞くまでもないが、目的は時間稼ぎだ。


「おっぱい揉みます! 生乳!」


 だろうな……知ってた。


「羽山は?」


「……もしかして、未空もふたりみたいに変なことをすると思われてます?」


「悪い、流れでつい……」


 ショックを受けているように見える羽山。そりゃそうだよな……二葉や雪路と同類扱いは勘弁に決まってる――決まってる? 確かに氏姫と同じく被害者寄りではあるけどさ……爆弾の投下率が高いの羽山じゃね? 冷静に考えると。


「……別にいいですけどね……なら未空はスクール水着を食い込ませることにします。場所がどこかは気分次第です」


 暗にお尻以外の場所を食い込ませるって言ってるよな!? やっぱ同類だって! 


 羽山の宣言が聞こえたのか、氏姫に背中を軽く叩かれた。明らかな苦情だった。俺のせいで比較的安全牌だったはずの羽山が危険牌に化けちゃったからな……。受け入れるしかない。


「決まらないなら3人で――」


「まっ、待ってください! えっと、その――あ! か、一樹くんがいいです!」


「おい氏姫……」


 思わず幼馴染の口を塞ぎたくなった。この状況でそんなことを言い出したら、この連中は面白がるに決まってる。


「姫姉さんは男に脱がされたいんだ?」


 言い方!


「阪口先輩だって変なことする可能性あり――今日はもう既にしてましたね!」


「未空たちはまたイチャつくふたりを見ることになるんですね」


 ほらこうなった!


「はい姫姉さんは真ん中に出てきてー」


 二葉が素早く近づいてきたと思ったら、氏姫の腕を掴んで全員の前に引っ張り出していた。俺と氏姫は正面から向き合う形に。同時に、雪路がさり気なく俺の背後へと回っている。もう撤回も逃走も不可能らしい。


 氏姫が持っていた水鉄砲まで羽山によって回収されてしまっているし……。脱がすしかないらしい。


「一樹くん、どうぞ」


「お、おう……」


 氏姫のヤツ、俺の想像以上に首筋まで真っ赤になっていた。このまま見つめていると、さっきまでの空気が戻ってきてしまいそうだ。


 どうせ拒否権がないのならさっさと終わらせよう……じゃないと、俺も氏姫も意識してしまって動けなくなりそうだ。


「どの体勢がやりやすいですか?」


 氏姫……周りからの視線を感じてるだろうに、俺しか見ていない。正確には俺と同じで周りの目を認識したくないんだろうけど。


「バンザイしてくれるか?」


 袖から腕を抜いて、それから首から抜いて――なんてやっていたら見学者を楽しませるだけだろうからな。


 もちろん俺の本音としては、ゆっくりと時間をかけて。そんな気持ちもあるけどな。流石に義妹や後輩たちに見られながらやる勇気はない。


「わかりました」


 素直に従ってくれる氏姫に安堵する。きっと俺と同様にさっさと終わらせたいんだろう。


「んじゃ脱がせるぞ」


 シャツの裾を持つ。握って力を込めると、ポタポタと雫が落ちた。自分でやっておいてなんだけど……どんだけ夢中になって撃ってたんだか……楽しかったなぁ。


「はい」


 一気に捲くり上げて、首から抜く。露わになったスクール水着を眺めてしまう――胸のところの濡れ具合が露骨過ぎだった……。


「兄さん……姫姉さんのおっぱい撃つのよっぽど楽しかったんだね」


 案の定指摘されるけどスルーを決め込む。しゃがんで、氏姫のハーパンのウエスト部分に手を掛けて――気づく。俺はこのまま前を見ていていいのかなと。スクール水着に包まれた下半身を割と近い距離から見ることになるよな……? ――失敗した。なにも考えずに進めるべきだったのに……。


「……」


 俺が動きを止めてしまった理由に氏姫が気づかないはずもなく。彼女は無意識だろうけど、内ももを擦り合わせた。それが俺の理性を刺激してくる。


「うんうん。こういう光景を見たかったのよね」


「だよね。あっさり終わったらどうしようかと思ったよ!」


「上半身を脱がせて、次の下半身を意識しちゃった感じですね」


 そして嬉しそうに頷いている二葉たち。だからと言って、俺が目を逸らそうものなら更に喜ばせる結果になるのがわかりきっている。


 ええい! どうにでもなれ! 俺は一息に氏姫のハーフパンツを下ろすのだった。

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