ラスト8 私の幼馴染は……私のことを水鉄砲で撃つのが楽しそうです

「一樹くん……呆れるのは失礼だと思います」


 そう言って頬を膨らませる氏姫。どこまでもわざとらしい。もっとも幼馴染も俺の反応をわざとらしいと思っている可能性が高いけどな。


「氏姫がらしくない声出すからだろ? 棒読みだったし」


 まだ二葉のほうが自然だ。なんで二葉のそういった声を知っているかって? 自分から胸を押し当ててきた癖に変な声を出して俺の反応を楽しみやがるからだ。


「感情がこもってなかったのは認めますけど……って、一樹くん? 他の女の子のことを考えてる顔をしてますけど……」


 あからさまに氏姫の機嫌が急降下した。


「……今後の参考のためにどういう顔だか聞いてもいいか?」


「二葉ちゃんの胸の感触を思い出している顔です」


 流石長年の付き合いだけあるな……ピンポイントで当ててきた。同時に機嫌が悪くなった原因もわかってしまう。


 そりゃこの状況で別人のことを考えてればな……どう考えても俺が悪い。いつもの俺なら素直に謝っている場面だ。だけどなんだか……いまはそんな気分じゃなかった。今日の妙な雰囲気が原因だと言い訳しながら、行動に移す。


「…………」


 かなり緊張するな……氏姫から来る分には問題ないんだが、やっぱり俺から行くのは苦手だ。全員に対して順番にとかなら流れで行けるんだけどな……今回みたいに1対1だと強く意識してしまう。


 深呼吸して、自身を落ち着けると……水鉄砲を引き寄せて、改めて氏姫の胸に押し付けた。


「んみゃ!?」


 氏姫が素っ頓狂な声を上げて身を引く。俺の謝罪代わりの行動が完全に予想外だったみたいだ。当然、逃がすはずもなく追撃に出る。彼女の手の位置が脚の間からお尻の後ろに移動したから好機だ。俺としてはありがたい。


 今度は正面のカップ越しじゃなくて上側から狙ってみた。水鉄砲を持っている手に独特の柔らかさと弾力が返ってくる。それを堪能するように、グニグニと力加減を変えていく。1度行動に移してしまったからだろうか? 直前まで感じていた緊張が嘘のように消えて余裕が出てくる。


「氏姫どうした?」


 わかりきっていることを敢えて訊いてみた。


「っ、っ、っ――」


 口をパクパクと開閉するけど言葉が出てこないらしい。ここまで動揺している氏姫は初めて見た気がするな……事故で着替えを覗いてしまったときですら平然としていた彼女だ。非常にレアなモノを見た。


 ちなみに……あのときは俺のほうが焦った。前日に起こしてくれと頼まれていたから、てっきり寝てるだろうとノック忘れちまったんだよ……そしたら珍しいことに自力で起きていたと。


 悲鳴でも上げてくれれば咄嗟にドアを閉められただろうけど……氏姫のヤツ……下着姿だったにも関わらず普通に話しかけて来たからな?


 俺としても逆に思考停止してしまって、上下パステルグリーンの下着を身につけた幼馴染の姿を脳裏に焼き付ける結果となってしまった。申し訳なく感じつつ、心のどこかでラッキーと思っている俺も確かに存在している。


 ただ……いまにして思えば氏姫、首筋まで真っ赤だったな。それこそ過去に見たことのないレベルで。もしかしたら氏姫も氏姫で思考停止してしまい静止した時間が生まれてしまったのかもしれない。そして我に返って口を開いたと。


 ただあまりに衝撃が大きくて自分の格好が抜け落ちたと……現実逃避とも言う。その結果が平然としていたように見えたのかもしれない。


 というかだ……俺が氏姫の部屋に行くのが僅かに早かった場合、モロに見ちゃってた可能性あるんだよなぁ……。寝るときはノーブラだし、俺の幼馴染。


「か、一樹くん」


 再起動したらしい氏姫に呼ばれて思考の海から引き戻された。


「ん?」


「な、なにしてるんですか……」


 視線がブレて定まっていない。基本的に相手の顔を見ることが多い氏姫にしては珍しい。彼女は最終的に水鉄砲で弄られ続けている自分の胸に目線を落とした。俺が取った行動ひとつでここまでの反応を引き出せたのは割と嬉しい。


 もしかしたら表情を隠したいのかもしれない。けど、簡単に想像つく。嬉しそうに照れながら、ニヤけそうになる口元を誤魔化すようにして唇を尖らせている。


「氏姫が『好きにして』いいって言ったんだろ?」


「んふっ!?」


 トリガーを引いた瞬間、氏姫が吐息混じりの声を漏らすと同時に肩がビクッと跳ねた。連続で撃ってみるけど、流石に2度目以降は大きな反応がない……呼吸のリズムは乱れていたが。


「た、確かに言いましたけど……一樹くんが……こういうことしてくるとは思ってなかったと言いますか……」


 直前の反応を誤魔化そうとしているのが丸わかりだった。


「嫌ならやめるぞ?」


 水鉄砲を離して確認してみる。


「嫌じゃないです……」


 即答。そして本心だとばかりに強張っていた身体から力が抜けていくのが見ていてわかる。


「そっか」


 嫌がられていたらどうしようとドキドキしていたこともあって、無意識に安堵の息を吐いてしまった。


「そうだ……膝立ちになりますね?」


 俺の返事を待たずに体勢を変える氏姫。


「急にどうした?」


「ほら……一樹くん、胸も好きですけど、お尻とか太もも大好きじゃないですか。このほうが良いかなと思いまして」


「最初から膝立ちにしなかったのは?」


 そんな疑問が浮かんでしまい、つい訊いてしまった。女の子座りを選んだのも俺の好みに合わせてたんだろうけど……氏姫にも意図があったってことだよな?


「……言わなきゃダメですか?」


「気になる」


「……私の胸元が透けてるのを見た一樹くん……えっちなことを考えてる顔でした……だから胸をもっとアピールしたらどうなるのかなって思っちゃったんです」


「……」


 お、おう……恐らく氏姫は自分がそういう行動をとっても、俺がその気になることはないと考えてたんだろうな……そしたら予想が外れてしまったと。


 ただ――ワンチャン期待してた面もあるだろ……『好きにして』って発言も本気だっただろうしな。実際、喜んでいるように思えるし。


「どうぞ一樹くん」


 それは見事な照れ笑いが浮かんでいる。


「後になって怒るなよ?」


「物足りなければ怒るかもしれませんけど」


 ほう?


「なら頭の後ろで腕を組んで……そうそう、それぞれの肘を掴む感じで」


「……腋も好きなんですね」


「ちげーよ。頼まれてるだけだ」


 腋を目掛けて水鉄砲を撃ってやった。体操服越しに、スク水の濃紺とは違う、素肌の色が見えた。氏姫の腋なんて数え切れないくらい見ているハズなのに……視線が外せない


「へんたい」


 敏感に察知する氏姫。俺もここまで来て誤魔化さない。


「…………ヤバいなコレ」


 更に1射、2射と濡れている範囲が広がっていき、シャツが吸いきれなかった水がポタポタと落ちていく。続いて脇腹へ発射。


 今度は濃紺が透けてくる。胸とは別の高揚感があった。他の場所ならどうだろう?  例えば、背中は? お腹は? 意外と鎖骨の辺りも――頭に次々と試したい箇所が浮かんでくる。


「くすっ、私の幼馴染は……私のことを水鉄砲で撃つのが楽しそうです」


「そういう氏姫だって撃たれてご機嫌じゃねーかよ」


 そんな会話を挟みながら、頭に浮かんだ場所を片っ端から透けさせていく。時折、悪戯で足裏を撃つとくすぐったそうに身を捩る氏姫。そういや、くすぐり苦手だったな……。


 1周して正面に戻ってきたタイミングで水鉄砲のタンクが空になってしまった。黙って給水を始めるけど、氏姫から文句は飛んでこなかった。むしろ、終わりを提案したほうが文句を言われた気がする。


 さて、どこを狙おう。そこでふと、上半身しか狙っていないことに気づいた。せっかくだし、な。


 背後に回ってお尻に水鉄砲を向けて構える。氏姫が足の指をニギニギさせているのは、どう受け取ればいいのか。


「こうしますね」


 氏姫がハーフパンツの裾を前から引っ張った。結果として、肉付きの良いお尻から太ももにかけてのラインが綺麗に浮かび上がる。


「サービス精神旺盛だな」


「……実は私も楽しくなっちゃってます」


 俺も氏姫も完全にテンションがバグっていた。その自覚がある。恐らく、お互いに。ハーフパンツは素材の違いか、生地の厚さか。吸水量が違う為にジワジワと濃く変色していく様まで観察可能だった。


 水着が濡れて色が変わっていくのを見るのとは違う興奮を味わえるが、濡れ透けには敵わない。水着の変色はいい勝負なんだけどな……。


 正面から氏姫の身体を眺める。体操服のシャツは大部分が濡れていて、下のスクール水着が透けている。そのスク水もよく見ると、色の濃い場所と薄い場所があった。


「なんか性癖出てて嫌だな」


「一樹くんの好きな場所がよくわかりました」


 氏姫の言葉が全てだ。誰がどう見ても、胸や腋、おヘソ周りを集中的に狙ったんだなというのがバレバレだった。そんな状態にも関わらずまだ乾いた状態を保っている部分もある。


 この際だ、全部濡らそう! そう決めた。


 まだ濡れていない場所を中心に撃ちまくる。途中でもう1回給水を挟んで、その給水分をほぼ撃ち尽くした頃には上半身で濡れていない部分なんてない有様だった。


 達成感と、冷静になった頭で感じる罪悪感、それ以上に高揚感が半端なかった。


「――あ」


 不意に氏姫がなにかに気づいたかのように声を漏らした。その視線が向く先は俺ではなくて少しズレている。具体的には俺の左斜め後ろだ。


 ――あ!? ヤバい! 完全に忘れてた! 恐る恐る振り返ると、スクール水着姿の義妹と後輩たち。


「あ、わたしたちのことは気にせずに続けて大丈夫よ」


「その通りです。未空たちのことなんてプールサイドの水たまりだと思ってください」


「阪口ちゃん、羽山ちゃん、しーっ、邪魔しちゃダメだって」


 それはそれは素晴らしいニヤニヤ顔の義妹。顔を真っ赤にしながらも、なにひとつ見逃すまいと目を凝らしている羽山。残る雪路はと言うと……温かく見守っている雰囲気だった。


「な、な――」


 動揺のあまり言葉が出てこない氏姫が立ち上がり、あろうことか俺の背中に隠れたる。完全に火に油を注ぐ行動でしかなかった。


「姫姉さんってば、ついさっきまで楽しそうにしてたのに……兄さんの後ろに隠れちゃって可愛いんだから」


 氏姫が俺のシャツの背中を握ってくる。その手が小刻みに震えていることから、二葉の言葉がよっぽど効いたらしい。


「こんなになってる氏姫さん久しぶりですね……」


「完全にふたりの世界に入ってたよね!」


 水鉄砲を握ったままの手を氏姫がそっと突いてくる。渡せってことか? 二葉たちに注目されないように、さり気なく手を背後に回すと静かに受け取る氏姫。


 そのまま俺の肩越しに、真ん中に居た二葉を撃った。


「ちょ、姫姉さん!?」


 なるほど、場を乱して有耶無耶にしようってことだな? 氏姫とのことをネタにからかわれるよりも、よっぽど良い! 俺も全力で援護することにする! 

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