ラスト5 でも兄さん、姫姉さんくらいのおっぱいが好きだと思うよ?

「終わったか」


 水鉄砲を向けていた3人が囲みを解いて、タンクに水を補給し始めたのを見て近づいていく。ちなみに数度の給水を挟んでいたので、この延長戦が最も長かったりする。


「いやー! 散々な目に遭いましたよ!」


 雪路が前髪から垂れてくる水滴を払いながら声をかけてきた。延長戦では全身を隈なく撃たれたからか全身を濡らしている。文字通り頭のテッペンからつま先まで。


「なんて言ってる割には楽しそうだが?」


 延長戦とか言う2ターン目は容赦なく全員に顔面を狙われていた時間まであったのに、やられた本人は気にした様子もなければ、むしろご機嫌といった風だった。


 雪路、というかこの同好会メンバーの良いところだと思う。流石にやられてる最中はイライラや不機嫌さが表情に出てしまうこともあるけど、終わっちゃえばあっけらかんとしてるからな。その場限りで終わらせて後日まで引きずらないのは美点だ。


「あたしも次からは反撃を考えずに大きな水鉄砲を撃てると思えば、なんでもないです!」


 言ってる最中にもバッグから羽山と同型の水鉄砲を取り出している雪路。


「ほどほどにしとけよ?」


 一応、釘を差しておくけど……ぶっちゃけ二葉よりは「やり過ぎない」だろう信頼感があるんだよな……。


「ふぅ……体操服が返ってくるとホッとしますね」


 安堵の息を吐く羽山。そりゃ目の前で嗅がれてればな……。


「次はわたしなのよねぇ……」


 口調の割には憂鬱そうな雰囲気はない。ラストよりはマシという思考が簡単に読める。


「はいよ氏姫」


 僅かに遅れて戻ってきた氏姫に体操服を差し出す。


「……」


 受け取り、水着の上に重ね着しつつ上目遣いに俺を窺っていた。その目が「感想は?」と訊いているような気がしたのは勘違いだと思いたい。思いたいなぁ! 確かに嗅いだけど、誰にも見られないように細心の注意を――


「先輩! あたしが水鉄砲で撃たれてる最中に小田ちゃんの体操服の匂いを嗅いでましたけど、感想はどうなんですか!」


「そうなんですか!?」


「そうなの!?」


 雪路の暴露に羽山と二葉が速攻で食いついた。


「――一樹くん」


 氏姫は嬉しそうな表情してるんじゃねーよ! 嫌がられるよりは良いけど!


「雪路? 適当なことを言うのやめてくれないか?」


「一樹さん、誤魔化そうとしてるのバレバレですよ?」


 え……? 氏姫とか二葉じゃなくて羽山に指摘されるん? 勘弁してくれ……。


「いや、事実なんだが?」


 なんて言いつつ、内心はバクバクだ。なんとか誤魔化せないかと思考を巡らせるも打開策はまったく出てこない。俺としては二葉たちの背後で、更には雪路が見ていない隙をついたつもりだったんだけどな……バレてたのか? 


「それがバッチリ見ちゃったんですよねー!」


 雪路なら仮に見られても――ワンチャン、見なかったことにしてスルーしてくれるかもなんて考えもあったけど……いくらなんでも甘すぎたか。


「全然気づきませんでした」


「兄さんいつの間に……」


「そういえば一樹くん、ずっと私たちの後ろに居ましたね」


 やっぱり俺も念には念を入れて背中を向けるべきだったか? けどそうした場合、もし誰かに見られたら不審がられると思ってやめたんだけど……失敗だったっぽいな……確実に目撃されないことを優先すべきだったか……。


 ちなみに――嗅がないという選択肢は端からなかった。氏姫の体操服はそれだけの魅力がある! なんだか俺が変態みたいだが、逆の立場で幼馴染がどういう行動に出るかを考えてみると……間違いなく同じことするだろうから問題ない。


 まぁ氏姫に関してはいいさ。問題なのは二葉も高確率でやってきそうなのが……。


 羽山もそのときのテンションと勢い次第では怪しい。はて、男嫌いとは? 


 こうなると安全なの雪路だけじゃね? 疑惑がある。その雪路も、女子の体操服を持っていた場合は言わずもがな。


 頭に浮かぶは「類は友を呼ぶ」だ。


「まぁまぁ……次は二葉の番だろ? まだ羽山と雪路しか終わってないし、さっさと進めようぜ」


「兄さん……妹を犠牲にして自分は逃げるのって普通に酷いと思うんだけど」


 ほんとにな。ただ正直、普段ならともかく……同好会の最中は罪悪感がそんなに無いんだよなぁ……。本人には言えないが。プールでの言動がいかに酷いかがよくわかる。


「それもそうですね」


 頷く氏姫。ただタイミング的を考えるに、二葉に賛同したと言うよりも……。


「だよね! 姫姉さ――」


 二葉……まるで自分の言葉に賛同してくれたみたいに喜んでるけど……氏姫だぞ? 


「早く二葉ちゃんの番を始めましょう」


「姫姉さん!?」


 驚く二葉をスルーして水鉄砲を向けると躊躇なくトリガーを引く氏姫。当たり前のように、たわわに実った膨らみを狙っていた。義妹のシャツが濡れて、下の濃紺生地が透けている。俺はそっと視線を逸した。


「……二葉ちゃん、気のせいじゃなければ……大きくなりました?」


 氏姫の言葉でここまで聞かなかったことにしたくなったのは、いつ以来だろうか? 

……割と最近だった気がするのが幼馴染のすごいとこだよなぁ……。


「……ほんのちょっとだけだから! ねえ姫姉さん! 目が怖いって!」


 大丈夫だ義妹よ。俺から見ても怖いから。例えるなら親友に裏切られたような――って氏姫の中では裏切られてるのか……ある意味で。


「二葉ちゃんばかりズルいです! 私も同じバストアップ体操してるのに効果が出ないの納得いかないです!」


「おいそこのふたり! なんちゅう会話してんだよ!」


 幼馴染と義妹のそんな話聞きたくないんだが!!


「二葉ちゃんは胸に脂肪がいくのに、私はお尻とか脚にいっちゃうんですよね……不公平です」


 続けるのかよ!


「……油断するとすぐお腹にいく未空よりはマシだと思いますけど。二葉さんのバストアップ体操教えて欲しいです」


「……羽山ちゃん、嫌味? 十分におっぱいあるよね? というか、あたしから見れば全員スタイルが良くてズルいんだけど!!!」


 雪路の魂の叫びがプールに響き渡った。いつもなら両手の指をワキワキと動かしながら悪ふざけみたいな空気になるのに、真剣そのものだ。


「ここは具体的に名前が出た羽山さんに責任を取って貰おっか」


「ゆきちゃん、未空ちゃんの胸を好きにしていいのでそれで勘弁してくれませんか?」


 酷い義妹と幼馴染だった。


「……え? え?」


 露骨に挙動不審になる羽山。その表情は焦りに焦っていた。


「うん、いいよ!」


 すかさず雪路が首肯した。絶望した表情を浮かべる羽山……可哀想に……。


「でも兄さん、姫姉さんくらいのおっぱいが好きだと思うよ?」


 俺、よく吹き出さなかったな――当たりだけど! その通りだよ! 否定しねえよ!


「それは知ってます……でも同じ家に胸の大きい妹が居たら気になっちゃうに決まってます。この前、部屋の掃除してる最中だってしゃがんだ拍子にシャツの襟元から覗いた二葉ちゃんの谷間をチラ見してました」


 二葉が俺を見る。普通、兄妹なら嫌悪感が出てくる話だろうに……そのような素振りが一切なかった。


 そんな兄妹の様子を確認してから、羽山が俺に視線を向けてくる。妹をそんな目で見るなって意味だろう……。しかも雪路が隣で「わかります! 見ちゃいますよね!」とばかりに頷いてるのが頭痛い。


「いやいや、姫姉さんの下着のラインが浮いてるお尻もちゃんと見てたから」


「それなら二葉ちゃんのお尻だって見てたじゃないですか」


 幼馴染もお尻を見られていたことに、これっぽっちも抵抗がない感じだった。氏姫の反応に関しては素直にホッとする。


 ただ……ここで言い合う内容じゃねえよな!? 


 やっぱり二葉を水鉄砲で撃つの、俺も参加しようかな。さっきまでは義妹相手にどうよ……って思ってたけど、コイツ相手なら別に問題ないんじゃないかと。それにターゲットもふたり同時で良くね?


「羽山、その大きい水鉄砲を借りてもいいか?」


 羽山が持ってるモノを指差す。


「どうぞ」


 受け取った水鉄砲を二葉に向けて、発射。あえて細かい狙いはつけなかった。


「わぷっ!?」


 だから顔に直撃したのも偶然だ。続けて氏姫を狙う。


「きゃっ!?」


 胸を狙ったのは完全に無意識。氏姫の体操服の下に透けているスクール水着に包まれた膨らみ……それは――俺好みの大きさで――確かに良い光景だった。

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