ラスト3 ぶっちゃけ、おっぱいが狙われるのはいつも通りじゃないですか!

「うぅ……変な感じがします」


 結局、羽山が解放されたのは体操服のシャツの前面に濡れてない場所がなくなってからだった。背中側も濡れてはいるものの、前に比べれば全然マシそうだ。


 当たり前のように次は誰が撃たれるか決めるためのじゃんけんを始める3人を尻目に羽山が俺の傍まで歩いてきた。そのシャツからはポタポタと水滴が滴り落ちている。シャツが素肌に貼り付く感覚が気持ち悪いのか、二の腕を特に気にしていた。


「お疲れ」


「座っていただけなので疲れてはいませんけど……まぁ、はい……」


 徐々に表情が無になっていき最終的には目から光が消えてたからな。


「最初は楽しそうに悲鳴あげてたよな」


「冷たかっただけです」


「なるほど。そして段々と目が死んでいったと」


「当たり前じゃないですか。撃たれる側は楽しくなかったです。特に胸を狙われたときの虚しさといったら酷かったですよ」


 一時期、ひたすら胸を撃たれてたもんな……。


「しかもガードするのを禁止されてたし」


「二葉さん、大きいから狙っていて楽しいって言ってましたけど……実際のところあのひとのほうが大きいですからね」


「……俺に同意を求めようとするのやめてくれ」


「たぶん未空たちの会話を聞いてないと思うので大丈夫ですよ」


 なんだろ、同意しろよって圧を感じるのは気のせいだろうか。そして二葉たちは実際に俺たちの話を聞いていなそうだという……。


「まぁ……デカいよな」


 頷くと同時に浮かんだ疑問。ある側の二葉や羽山が胸を狙われた場合と、ない側の雪路が狙われた場合。どっちのほうが精神的ダメージが大きいのだろうと……間違っても当人たちには聞けないことだから慌てて思考から打ち消した。


「一樹さん? 変なことを考えてますよね?」


 ジト目で見てくる。羽山は地味に鋭いよなぁ……。


「お、じゃんけんの結果が出たらしいぞ」


 どうやら雪路に決まったらしい。どことなくホッとしているように見えなくもない。むしろ氏姫や二葉のほうが顔が引き攣っている。なんかわかるな……順番で自分の番が回ってくるのがわかってるからこそ、さっさと済ませたい。そんな気持ち。


 どう考えてもラストになると悲惨だもんな。既にヤられた3人から集中砲火されることになるんだから。


「誤魔化された気がします……」


 露骨すぎたか……明らかに納得いってなさそうだけど追求はしてこなかった。正直助かる。他のメンツだとこうはいかないもんな……。二葉なんて、追求ないほうが逆に余計なことを企んでるんじゃないかって怖くなる。


「羽山さん参加するでしょ?」


「はい」


「兄さんはどうする?」


 二葉の言葉に考える。雪路か……ある意味で最も後を引かない相手だろうし、羽山よりは参加しやすいけど……。


「パスで。氏姫のときは参加する」


「わたしは?」


 二葉が気になるのもわかるさ。けど冷静に考えて欲しい。スク水に体操服を重ね着してる妹を水鉄砲で透けさせる兄貴って文字列でもアウト臭がするのに、実際の光景にするの危険過ぎるだろ……。


 誰に言っても今更だろってツッコまれそうだけど冷静に考えてみてくれ。自他ともに認めるブラコンでスキンシップ過剰な二葉だぞ? 俺から多少触りに行っても「妹がブラコンなら兄貴はシスコンか」って感じで笑って済ませられる可能性があるよな?


 しかし、だ。水鉄砲を濡れ透け目当てで撃つってどうなのよ? 一方的なのが更にマズい。仮に撃ち合いならただ遊んでるだけで済むんだ。片側通行だと倒錯した関係にしか見えなくなる。誰がどう見てもドン引き案件だろ……。


「パスだな。氏姫だけで十分」


「ふーん……ま、いいけど」


 そこでつまらなそうな表情をするから余計に参加しちゃいけなくなるんだよ、二葉。


「良いモノ見つけました!」


 羽山がいつの間にか手に持っていた水鉄砲。二葉たちがハンドガンとすれば、こっちはサブマシンガンと言えば大きさの比較がわかりやすいだろうか。水を入れるタンクの大きさも倍くらいあるし……威力もありそうだなと思った。


「羽山、どこから見つけてきたんだ?」


 十中八九、旅行鞄からだろうけど。


「そこのバッグに入ってましたよ」


 なんて言いながらタンクを外してプールの水を入れている。使う気満々だった。


「ほら、いまはともかく撃ち合いが始まれば物足りなくなるでしょ? ちゃんと人数分用意してるわ」


 あ、このあとは撃ち合いが控えてるのね……そっちは純粋に楽しそうな気がするな。


「ゆきちゃん、座らないで肩幅に足を開いてください」


「こ、こうでいいの?」


「それで両手は腰に……はい、ありがとうございます」


 氏姫は雪路にポーズの指定してるし……仁王立ちってなにを狙ってなんだか……。


「準備できたみたいね」


「ですね」


 雪路に水鉄砲を向ける3人。あの氏姫さん? 気のせいじゃなければ腋に向いてません? 道徳の時間に自分がされて嫌なことはするなって習わなかったのかな? 身長差からしゃがんで撃ち上げる形になってるし、そこまでして狙いたいのかと。


 そして二葉が狙うのは顔。誰がどう見ても事故だと言い訳できないくらいに狙いをつけていた。銃口から線を伸ばしていくと眉間あたりに照準が合ってる気がする。


 羽山は迷うことなく、ターゲットのささやかな双丘を狙ってる。こっちは自分が散々やられていたからな……雪路も覚悟の上だろ、きっと。


「ゆきちゃん、いきます!」


「うひゃ!?」


 初撃は意外にも氏姫だった。撃つ指が痛くなりそうな連射だ。咄嗟に腋を閉じようとする雪路の眉間に――


「わぷっ!?」


 ――的確な1撃がヒット。二葉が撃つ直前に雪路が反射的に動いたにも関わらず狙い通りに当てられたのが嬉しかったのか笑みが浮かんでいる。


「覚悟、です」


 ワンテンポ遅れて羽山がトリガーを引く。それも2連続。的確に左右の胸を濡らしていた。


「……なんでだろ? 顔を狙ってきた阪口ちゃんに対する怒りが1番小さい不思議!」


「そりゃそうだろ」


 つい口に出してしまった。二葉はいまのとこ1発だけだからな。こうしている間も氏姫は左右の腋を狙って、羽山も両胸を狙って撃ち続けてるから……。


「全員で前を狙うのもつまらないか、わたしは背中側に行こっと」


 背中側ねぇ……義妹が素直に背中を狙うとは思えないんだよな。そのくらい悪い意味での信頼度が高い。


 案の定、二葉は雪路の背後に回ると体操服のシャツではなくてハーフパンツに水鉄砲を向けた。


「ねえ! 羽山ちゃんのときと扱い違くない!?」


 誰も答える気がなさそうだから、俺が見たまんまの印象を教えることにした。


「正直、傍から見るぶんには大して変わらないぞ」


「羽山ちゃんはおっぱい中心だったじゃないですか! あたしは3箇所なんですけど!」


「どこが嫌なんだ?」


 俺は俺でなに聞いてるんだろうな?


「腋です! シャツが貼り付くの普通に気持ち悪いです!」


「羽山も気にしてたな」


「ぶっちゃけ、おっぱいが狙われるのはいつも通りじゃないですか!」


 冷静に考えればなにかが間違ってる気がするが、まぁそうだな。


「それで?」


「全身が濡れてる訳でもないのに腋がビショビショなのシンプルに不快です!」


 二葉の視線に気づく。その意図は簡単にわかった。聞けってことだ。


「雪路。ちなみになんだが、ハーパンと水着越しにお尻が濡れていく感触はどうだ?」


「……いっそバケツかなにかで一気にやって欲しいです! ジワジワ染みてくるとか気色悪いので!」


「だってよ」


「なら期待に応えないとね」


 二葉は1射1射の間隔を空けて撃つことを選んだらしい。しかも立っていたかと思えばしゃがんで下から向けたり、角度まで変えるおまけつき。


 ハーフパンツのお尻部分に広がっていく染みを楽しそうに見ている義妹。


「……」


 氏姫と二葉……これから自分の番が来るのわかってるんだよな? 知らねえぞ? 雪路とか絶対に無難に終わらせておくべき相手だと思うんだがなぁ……。こうして雪路の番は過ぎていくのだった。

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