ラスト2 わたしたち、今日はスクール水着だよ?

 プールサイドでペタンと女の子座りしている羽山を囲む氏姫、二葉、雪路。その手にはそれぞれ水鉄砲を持っている。既にタンク満たんに給水されており、引き金に指をかけていた。


 俺? もちろん不参加だが? 近くで見守るだけだ。まぁ、氏姫のときは参加するつもりだけどな。羽山は流石に……だし、雪路はなんか……だし、二葉はもっとも……だ。


 肉食獣の群れに狙われた小動物のように怯えた羽山の視線が忙しなく同好会メンバーを行き来している。やがて俺に向いたと思うと、火がついたように顔を真っ赤に染め上げた。


 いつもならここまでならないんだけどな……今日は仕方がない気がする。体操服がどうたらに加えて、自分が準備運動でやってた背筋がどういう目で見られる可能性があるのかなんて話まで出たからなぁ……。


「…………(じー」


 それでも俺に助けを求めてくる。今更止めるのが無理なのはこの1年でよくわかってるだろうに……。視線だけで言葉にしないのは本人も理解しているんだと思われる。けど、やらずには居られないんだろうな。


「それじゃ始めよっか」


 二葉の宣言に肩をビクッと震わせる羽山。最初に撃ったのは案の定二葉だった。狙ったのはお腹。うん? 二葉にしては無難だな……てっきり初っ端は胸とかにいくかとばかり。


「うひゃっ!?」


 水が想像していたよりも冷たかったのか小さく悲鳴を漏らした羽山。だよな……シャワーまだだから身体も水温に慣れてないし、その反応も仕方ない。


「えい!」


 続けて雪路が発射。こっちは躊躇なく胸にいった。でしょうねって感想しか浮かんでこない。


「きゃっ!?」


 氏姫の撃った水は顔面に。えぇ……1番そういうことしないと思ってたんだけど……俺や二葉相手なら問答無用でやってくるけど。


「ご、ごめんなさい! 思ったより上に行っちゃいました」


 速攻で謝ったのを見るに、本気で焦ってる。よかった、完全に事故だったらしい。


「姫姉さん、性格出てるよ?」


 いやもうさ……ほんとこの義妹は……。性格出てるのはお前だよ!


「違います! ですよね未空ちゃん!」


 待った氏姫……それは悪手だと思うぞ。


「……完全に狙ってましたよね? わざとに見えました」


「未空ちゃんまで……」


 そりゃそうだろ……羽山を最初のターゲットに選んだの氏姫じゃん……フォローしてくれる訳がなかろうに。率先して罰ゲームを提案してくるヤツが優しいはずもなく。


 実は羽山もいい性格してる側だと思う。普段は誰にも……訂正、同好会のメンバーには人当たり良いしそんな素振り見せないけど、たまに表に出てくるよな……。


「まぁまぁ、どうせみんな順番でやられる側になるんだから……羽山ちゃんにやりすぎると後で自分に返ってくるよ?」


 雪路って割とマトモなんだよな……。例えばスカートめくりするときは、自分もやられること前提で見られても良い下着をつけていたり……はて、マトモとは?


 というか、二葉が無難なお腹を狙ったのって雪路の言葉が全てな気がする。そう考えれば納得だ。


「……もしかして最初って当たりです?」


 羽山の疑問の声。正直、俺はそう感じてる。このメンツだ。後になればなるほど調子に乗って悪化していくのは目に見えてる。


 と、改めて羽山に視線を向けたところで気づく。濡れて透けたシャツの内側は濃紺色だった。


「羽山? 今日はいつもの水着じゃないのか?」


 つい聞いてしまった。


「……はい」


 羽山……言いづらそうだな……モジモジして、どことなく恥ずかしそうだ……嫌な予感がした。肌が透けてないからビキニとかじゃないのはわかるんだ。それでいて、いまじゃすっかり競泳水着姿で平然としている羽山が恥ずかしがる水着?


 元凶だろう二葉を見る。それはそれは満面の笑顔だった。


「わたしたち、今日はスクール水着だよ?」


「はぁ!?」


 あっ! さっき雪路がスク水を話題に出したのこういう理由か! 納得だよ!! 羽山の反応もな!


「ほらちゃんと高校指定のヤツ。兄さんスク水大好きだよね?」


 一切の躊躇いもなくシャツを胸の上まで捲くって見せてくる。確かに高校指定のスク水だった。去年の夏前に試着とか言って家で着ていたのと同じだ。左胸の上らへんに白い校章が入っていることからも間違いないはず。


 なんで知ってるかって? わざわざスク水姿で俺の部屋まで来たからな? この義妹。思わず飲んでいた麦茶を吹き出したのをいまでもハッキリ覚えている。


 にしてもスク水か……体操服もだが、なにを考えてんだ?


「大好きじゃねーよ。適当言うな」


「なんて言いつつ『氏姫も体操服の下はスク水なのか……』なんて思って、姫姉さんに目を向けちゃう兄さん正直で好きだよ」


 氏姫の反応? 「わたしも体操服捲ろうか?」って小首を傾げてるが? いっそのこと頷いてやろうかとすら思った。正直見たい。ただギリギリのところで踏みとどまる。


「黙れブラコン」


「兄さんに身体を許せるくらいにブラコンだけどなにか?」


「……っ」


 二葉の発言に固まるしかない俺。だってこの義妹……からかう雰囲気じゃなくて……真面目な表情が見え隠れしてるんだもんな……まったく……。俺はそれにからな?


「あ、一樹くんは上じゃなくて……どうせなら下を見たいですよね? 脚フェチさん?」


 なんて言ってハーパンをこれまた一切の躊躇もなく脱いでスク水の下半身を露出させる氏姫。どこかの義妹と違ってちゃんと畳んで置いたことに安堵しつつ、無意識に視線を向けてしまう。氏姫だし遠慮なんてしない。


 太ももの大半が濃紺の生地に包まれていて……素肌との境目をよく見ると肉に食い込んでいるのが幼馴染の脚の柔らかさと弾力をよく表していて……しょっちゅう、触って頭を乗せているせいで感触が蘇ってしまう。


 いつもの競泳水着より露出は全然少ないのに、不思議とドキッとしてしまうのはなんでなんだろうな。


 氏姫がこんな行動に出たのは、敏感に俺と二葉が怪しい空気になりかけているのを察知したからなんだろうけど……正直、助かる。


「え、えぇ……ゆきさん?」


 羽山の困惑したような声が聞こえたのはそんなときだった。


「にひひひひっ」


 雪路のよくない笑い声まで耳に届いてしまえば原因は簡単に想像つく。案の定揉んでいた。


「雪路……」


 ため息を漏らしそうになって――もしかして? と。雪路も空気を変えてくれようとしたのかも? なんて一瞬だけ思った。


「んー、カップが邪魔! 差し込み式だし抜いちゃってもいいかな?」


 身体を背後から抱きしめるようにして、腋の部分からスク水の中に手を入れようとしている雪路と、必死に抵抗する羽山の図。


「絶対に駄目です!!」


 おお……ここまで大声を出す羽山初めてかもしれない。そりゃ嫌どころか断固拒否案件だろうけど。


 ん? 競泳水着のときはカップがどうとか言わないよな雪路……それも誰に対しても、だ。つまり全員――……なんてどうでもいいことに気づいてしまった。


 ポチってるのは見たことないはず……だけど、雪路の被害に遭ったときや、シャワーの直後なんかに自分の胸を気にしてることがあるのはそういう訳か……押し付けられたときの感触が制服よりも生々しい訳だ。

 

 つうかさ……雪路もカップ抜かれる覚悟があって言ってるんだよな? ――やっぱマトモだと思ったのは間違いだったらしい。


「くすっ、続きやりましょっか」


「ですね」


 二葉と氏姫が何事もなかったかのように水鉄砲を構えて、羽山に向ける。


「お! 水鉄砲再開だね!」


 あっさり羽山を解放して氏姫たちに並ぶ雪路。マトモじゃないけど空気は読む……読んだ結果、犠牲になった羽山は……うん。こんど甘いモノでも奢ってやろう。今回に関しては原因の一因が俺にもあるし。


「まだ続けるんですかぁ……きゃっ!?」


 3人に一斉に撃たれて悲鳴を上げる羽山を見て、今日は長くなりそうだなと思うのだった。

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