ラスト1 水着って――部分的に濡れて色が濃くなってるのが良いんだよ!

 更衣室から出てきた女子陣を見たとき、正直……嫌な予感がした。いつもなら水着姿で上にシャツを着ることすら基本的にないのに、全員が白シャツに紺のハーパンという高校の体操服姿だった。下が水着かすらわからな――いつも水泳帽を被ってる二葉と羽山が髪を纏めてるから水着ではありそうか。


 それに持ち物もおかしい。普段はタオル、それにスマホや飲み物、おやつくらいしかプールサイドに持ち込まないのに今日に限って大きな旅行鞄まで持ち込んでいる。


「……なにを企んでいる?」


 俺が声を掛けた相手は先頭に居た二葉だ。こういう変なことを考えるのは7割くらい義妹だからな。ちなみに、雪路が残りの2割。更に1割を氏姫と羽山が分け合う。そんな認識だ。


 まぁ、全員が別の方向で危険性を抱いてるから結局は誰が言い出してもアレなんだけど……。


 二葉の提案は全員との肉体的な接触が増えるし、羽山はほぼ間違いなく罰ゲームがセットでついてくる。氏姫は精神的に疲れることになるのが多い。雪路は女子同士が大変そうで、俺は軽症で済むけど時折、特大の爆弾を投下してくると。


「別に変なことは企んでないよ?」


「ニヤニヤしながら言っても説得力皆無だからな」


「兄さんって体操服好きじゃん。たまには見せておいたほうがいいかなって」


 後輩たちの前でなにを言ってくれてるんですかね……この義妹。


「お前……パジャマ代わりに使ってるの中学の体操服じゃねーかよ。ほぼ毎日見てるんだが?」


「わたしのはね。他のふたりはレアでしょ?」


 二葉がそう言いながら視線で雪路と羽山を示した。いや、見なきゃいけない流れを作るなよ……ふたりも察して微妙な表情になってるじゃんかよ。雪路は苦笑強めで、羽山は照れが入ってる。


「私も居ますよ?」


 そして名前の上がっていなかった氏姫がアピールしてくる。


「氏姫も二葉と同じなんだが」


「わたしたち、兄さんに命令されてサイズの合ってない体操服で寝てるのに……」


「おいこら!」


 なんてこと言いやがる!


「阪口先輩マジですか!?」


「え……本当ですか?」


 驚いたように俺を見てくる後輩ズ。


「私はハーフパンツがパツパツですし、二葉ちゃんはシャツの丈が足りてないから状況によってはおヘソ見えちゃいますからね」


 そこは幼馴染として否定して欲しいんだけどなぁ……氏姫さん?


「――本当なんですね!」


「……本当なんですね」


 言ってる言葉は同じなのに、内容が全然違うふたり。雪路は何故嬉しそうなんだろうか? まさか俺のことを同志だとか思ってないよな? ワンチャンありそうで嫌だ……。


 羽山はわかりやすいな。シンプルに引いてる。この反応が正常なんだろうけど、その分ダメージも大きい。


「このふたりが中学んときの体操服をパジャマ代わりにしてるのは事実だけど、俺が命令したってのは嘘だから」


「女の子の体操服姿が好きなのは否定しないんですね……」


 それに関しては否定できない……仮にしたところで、氏姫と二葉がこの場に居る時点で嘘は簡単に見破られるし……俺が不利過ぎる。


 俺の視線から逃れるように氏姫の後ろに隠れる羽山。誰か助けてくれ……そんな思いを抱いて見回すけど――ニヤついてる義妹と、呆れた様子の幼馴染と助けてくれそうにない。


「体操服良いですよね! 身体のラインも意外と出て、スタイルの差がよくわかるんです! 運動用って名目でみんなが同じ格好なので警戒心も緩むおまけ付き! 夏場なんて汗で透けブラまで拝めるのが加点要素で総合点かなり高いです! いやぁ~あたしも大好きですよ! 体操服! 先輩の気持ちすっごくわかります!」


 テンション爆上げして、同意するようにひとりで頷いてる雪路が怖い。キラキラとした目が、完全に俺を仲間判定していた。ほんと助けて欲しい。


 ただ、羽山が引いてる対象が俺から雪路に移ったらしい。百合っ娘の視線から逃れようとして氏姫の背後から出て、二葉の背後へ。


 そりゃそうだ。学年同じだから新学期のクラス替え次第では同じクラスになる可能性あるもんな。その場合は1年間は体育の授業が一緒な訳で。


 いや、冷静に考えれば今更なのか? 今日だって更衣室で同時に着替えてるんだし。


「あ、兄さん。いまは濡れ透け狙っても全員下が水着だから楽しめ――逆に興奮する? そのパターンもあるわね」


「なるほど」


 義妹の言葉が頭痛いし、信じ切って俺の性癖認定している幼馴染も更に頭が痛い。水着を身に着けてることが確定したのは幸いか?


 ……どこが幸いだ? 透けブラの危険が無くなって安心した以上に、水着と聞いて喜んでる自分が確かに居るというな……。


「氏姫? 念のために聞くが、なにをしようとしてる?」


 プールの縁に歩み寄って、しゃがもうとしている幼馴染を止める。どう考えても水を掬って濡れ透けを作ろうとしているようにしか見えない。


「べ、別に変なことを考えてなんてませんよ?」


 動揺しすぎだろ。目が泳ぎ切ってる……。


「小田ちゃん! 自分で濡らして透けさせるよりも先輩にやってもらったほうが良いと思う! 水鉄砲とかで!」


「一樹くん、そうなんですか?」


 雪路の言葉にハッとしたように俺を見る幼馴染。


「俺に聞くな!」


 ――って、そうか! 雪路が「やってもらったほうが良い」とか言い出したのは、自分も参加するつもりだからだ! 氏姫! 騙されてる!


「またまた~先輩ってあたしと近い趣味してるじゃないですか~!」


 否定もしないが、肯定もしたくねえなぁ!


「…………少し黙ろうな」


 結果として出て来たのは、そんな言葉だった。


「当たりみたいですね……ゆきちゃんっ、ゆきちゃんは体操服着てる相手にこういうことされたいとか、逆にこういうことしたいとかありますか?」


「ん~……まずは運動直後の匂いを嗅ぎたいでしょ?」


「ふむふむ。一樹くん汗の匂い嫌がらないですからね。むしろ好きっぽいです」


 頷く氏姫。


「正面から見るのもいいけど、あたしはうつ伏せになって背筋してるのを眺めるのが好きかな!」


 ……やべ、すげーわかる。


「背筋ですか?」


 うん、羽山はそのままで居てくれ……。


「羽山さん、背筋ってね? お尻はもちろん背中を反らしたときはおっぱいが強調されるし、角度によっては谷間まで覗えるでしょ? それで伏せれば潰れるおっぱいの柔らかさまで堪能できるのよ」


 解説してるお前はなんなんですかね? なぁ二葉?


「えっとぉ、未空……同好会のときは毎回準備運動で背筋してるんですけど……それも水着で」


「……ふふっ」


「っ」


 それはそれは良い笑顔で頷く二葉。それを見て視線を俺に向けてくる羽山。正面から受け止めるか逸らすか一瞬だけ悩み、受け止めた。


「安心しろ。基本的に氏姫を見てるから」


 氏姫とは言えなかった。嘘を見破った二葉が突いてくるに決まってるからな!


「あ! 羽山ちゃん! プールサイドで腹筋とか背筋するときは水着の一部を濡らすのがマナーだよ!」


 ややこしいのがややこしいことを言い放つ。


「そうなんですか?」「どうしてですか?」


 首を傾げる氏姫と羽山。二葉は答えを知っているのか、雪路の言葉を待たずに旅行カバンを漁り始める。……このタイミングで何故に?


「水着って――部分的に濡れて色が濃くなってるのが良いんだよ! ぶっちゃけ謎のエロさがあるの! スク水だと特に!」


 なんでいきなりスク水を話題に出しやがった!?


「兄さん、水鉄砲あるから渡そっか?」


 二葉が鞄からハンドガンサイズの水鉄砲を取り出して見せてくる。いやいや、なんで用意してるんだよ! 


「「「「…………」」」」


 俺を含め二葉以外が窺い合う。これからの流れを察したともいう。


「未空にください!」


「いいわよ」


 真っ先に水鉄砲を確保したのはまさかの羽山だった。意外……でもないか。その思考が簡単に想像つく。撃たれる側と撃つ側、どっちがマシかって考えた結果だろうな……絶対に手放しません! って様子からも、よっぽど撃たれる側にはなりたくないらしい。


「二葉、水鉄砲って何人分あるんだ?」


「一応全員分あるけど……最初は撃ち合いより、一方的のほうが面白そうじゃない? 流れ的に」


 最悪の提案だった。


「じゃあ最初のターゲットは未空ちゃんですね」


 次に出てくるのは最低な提案という……。


「ふぇ!? ど、どどどうしてですか!?」


 思いっきり焦る羽山を尻目に、氏姫、二葉、雪路がそれぞれ水鉄砲を持つ。氏姫はターゲットを指定した張本人。二葉は面白ければオッケーってタイプ。そんで雪路は女子が目標ならそれだけで満足と。


「未空ちゃん、さっさと撃たれる側から逃げようとしましたよね?」


「うっ」


 もう流れは完全に決まっていた。

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