その2 脚フェチVS百合っ娘! 誰の脚でしょうクイズ!

「えい!」


「おわっと!」


 そろそろ休憩するかなとプールから上がろうとしたタイミング。不意に衝撃が襲ってきたせいで危うくバランスを崩すところだった。仮に足を滑らせた場合の被害を考えるとプールの中でよかったと思う。


 これがプールサイドだったら後ろに倒れてる可能性があるし、そしたらいきなり抱きついてきた相手を高確率で下敷きにしてしまう。


「二葉? どうした?」


 振り向かなくてもわかる。俺に対していきなりこんなことをしてくるのはふたりしか居ないし、幼馴染か義妹か。どっちなのかは背中に感じる感触で判断ができる。……正直に言ったら殴られそうな判別方法だよな……。


「兄さん、よくわたしだってわかるよね」


「そりゃ声でわかるだろ」


「おっぱいじゃなくて?」


 ニヤニヤとムカつく表情をしてるんだろうなぁ……。


「胸は知らねえけど、脚でなら判断できるぞ?」


 言いながら二葉の脚に手を回して、二葉が俺にぶら下がっている状態からおんぶ体勢に。わざとらしく太ももを揉んでやる。もちろん水中ということもあって、間違っても手が滑って尻に触れたりしないように細心の注意を払いつつだ。


「兄さん、女の子を脚で特定可能なのって普通に気持ち悪いよ?」


「…………」


 やべ、もっとも過ぎて否定できねえ。


「……というか本当に脚で判断できるの? 試してみていい?」


「試す?」


 なんだか嫌な予感がする。具体的には雪路や羽山まで巻き込んで実際にやってみようとか言い出す気配だ。伊達に義理とはいえ兄妹なんてやってない。間違いなく言い出すぞこいつ!


「うん。兄さんに目隠ししてもらって、今触った脚は誰のでしょうクイズ」


 マジかよ!? ま、まぁ、そんな馬鹿みたいなこと……幼馴染はともかく、羽山は乗って来ないだろ? 雪路は……別の意味で想像がつく。


「未空は構わないですよ?」


 おい! 羽山は断る側だろうが! 嫌がれよ! 俺に脚を触られるの確実なんだぞ!?


「あたしは回答者側でやってみたいです!」


 あ、ですよねー。雪路は知ってた。


「なら正解数が少ない方は罰ゲームにしましょうか」


 とか言って乗り気なの、最高にプール同好会って感じがするなぁ!? あと自分が安全圏だからってさり気なく罰ゲームを追加しやがった幼馴染は覚えとけよ!?






「題して! 脚フェチVS百合っ娘! 誰の脚でしょうクイズ!」


 ノリノリでタイトルコールする二葉。楽しんでんなぁ。


 ルールは簡単だ。俺と雪路はプールの中で並んで目隠しをして、プールサイドに立つ人物の脚を触って誰かを当てるというもの。3人全員を触ってから目隠しを外して同時に回答。それで俺と雪路の正解数をシンプルに競う。そんな流れ。


 ちなみに、羽山に関してはスパッツ型だから1発でわかるだろとツッコんだら、自分から裾を捲くりあげて素肌を露出させていた。なんでこんなことに身体を張るのか……メリットもまったく無いだろうに……まさか罰ゲームが楽しみとか? 意外とありえるな……。


 ちなみにちなみに、プールサイドで立つときは俺たちに背中を向けてもらうことにしている。こちとら視界を塞がれた状態で触って誰かを当てるんだ。手が行き過ぎて変なとこに当たる事故は勘弁願いたい。


 もちろん、後ろ向きでもお尻に触れる危険性があるが……幼馴染は気にしないだろうし、義妹は1発蹴られれば許してくれるだろうから……気をつけるは羽山か。彼女っぽいと思ったら手を下げていく方向で。


 おまけとして雪路にこっそりと耳打ちして、言い出しっぺの二葉に関しては思いっきり尻を揉んでいいぞと許可を出してある。そのくらいは構わないだろ。よく見る光景だし。


「はいじゃあ目隠ししてねー」


 二葉の合図で目隠しをする。……プールの中で視界を塞がれるって、結構な不安感を煽るな……あんまり長く続けたくないかもしれない。


「ひとり目です」


 羽山の声だな? つまり彼女じゃないと考えればいいのか、あえての引っ掛けなのか。ここで判断はしないほうが良さそうだ。


 慎重に右手を伸ばすと、スベスベとした――ふくらはぎに触れる。くすぐったかったのか、1度ビクッとした。右手を伸ばした理由は単純。立ち位置的に、俺が触れることになるのは相手の右脚だからだ。誰かわからないのに内ももを触る勇気なんてない。


 まぁ……雪路が触れるのは左脚になる訳で……きっと百合っ娘は同性なのを利用して、遠慮なく右手で相手の脚の内側を触っていることだろう……ちょっと羨ましいかもしれない。


 俺も氏姫だと判断できれば両手で包むようにして撫で回してやるつもりだけどな。罰ゲームなんて提案したんだから、そのくらいは覚悟の上だろ、うん。きっと。


 とまあ……こんな感じなんだけどな……ふくらはぎを軽く触ったくらいじゃ誰だかわからん……太ももを触ればしょっちゅう膝枕してくれてる氏姫はわかると思うんだけどな。


 右手を少しずつ上げていく。膝を越えて太ももに。縦に手を滑らせて肌触りを確かめ、次に横に滑らせ太さをチェック。


 ……微妙に氏姫より細い気がする。揉んでみるけど、やっぱ弾力が違うな。二葉か羽山だ。問題はどっちかってことなんだが……。ふむ。2分の1。罰ゲームがあるし負けたくない。なにかヒントはないかと太ももを撫で回す。


 わからねぇ……メタ読みすれば答えに辿り着けそうな気もするけど、つまらなくなりそうだからな。純粋に脚の感触だけで判断したい。


 お? 揉んだ感じ……ほんの僅かだけど、筋肉質っぽいか? なら二葉か。


「わかった!」「わかりました!」


「それじゃあ1度手を離してください」


 言われたとおりにする。


「はい、2人目の準備ができたのでどうぞ」


 先程と同様に右手を伸ばしてふくらはぎに触れる。1人目と同様にくすぐったさからなのか一瞬だけ力が込もった。反応はそれだけだ。


 指先を脛に伸ばして手のひらで素肌の感触を確認する。なんだか1人目よりも、触れ心地が好みかもしれない。というか正直、氏姫だろ? これ。


 先程とは異なり、躊躇なく手を上げていき太ももをチェック――ん? なんか妙な動きをしたか? 焦ったみたいな感じで動いたよな。雪路が変なことしたのか?


 左手まで使って両手で輪を作って太ももを包むようにしてみる。指が届かなかった。それだけ太いということだ。確定だな。同好会の女子で1番太いだけあってわかりやすい。


 間違っても上に行きすぎないようにだけ気をつけながら、上下に擦るとキュッと力が入った。嫌だったか? たまにやってることだろうに。だとすると、雪路が原因か。なんかペチペチ音がしてるから軽く叩いて楽しんでるみたいだしな。


「わかったぞ」「2人目もわかりました!」


「そ、それじゃ手を離してください」


 次は羽山だろうから程々にしとかないと。


「……3人目の準備ができたのでどうぞ」


 驚かせないように、くすぐったさを感じさせないように触れたふくらはぎは――馴染みのあるモノだった。


 ……あれ? ちょっと待てよ?


 つい指先で揉み揉み。「ぷにぷに」そんな擬音を当てはめたくなるような感触だった。前2人はふくらはぎでわかる訳ないだろって感想を抱いたのに、この3人目は……ウエストは細く胸も普通なのに、お尻や太ももの肉付きの良さを嘆いている幼馴染の姿が頭を過ぎってしまう。


 念のため。半ば自分の勘違いを確信しながら太ももに触れてみる。うん、俺の後頭部がバッチリ記憶している柔らかさだった。指先を押し返してくる弾力と張り。健康的に日焼けした場所と、本来の色白さの境目はこの辺か? なんてことまで見ることなくわかってしまう。


 つつーっと背筋を嫌な汗が流れるような錯覚に襲われる。そりゃ水中だから冷や汗なんてわからないとも。


 なるほどなるほど? 3人目が氏姫で、さっきのは羽山か。俺は完全に勘違いして羽山に対して、両手で太ももを擦ったと? 内もものかなり際どい場所まで触れた自覚があるのだが?


「……誰かわかった」「あたしもです!」


「……はい。それじゃ目隠しを外してください」


 先程までは羽山だったのに、今回は氏姫が指示を出してきた。その声色が、怖い。


 向かって右からジト目の氏姫、ニヤニヤしている二葉、顔を真っ赤にしながら俺と目を合わせようとしない羽山。捲くっていたスパッツ部分は戻しているけれど、モジモジと内ももを擦り合わせて意識しているのが丸わかりだった。


 ダメだわこれ。悪い予感が全部当たってるパターンだ。


「回答の発表をどうぞ!」


 二葉、楽しそうだなぁ……っ!


「……二葉、羽山、氏姫の順だろ?」


「たぶん、阪口ちゃん、羽山ちゃん、小田ちゃんじゃないです!?」


 俺と雪路の回答はキレイに一致していた。


「正解は! どぅるるるるるる! わたし、羽山さん、姫姉さんでした! 


 ちゃんと正解できていたことに一安心。あと二葉よ。ドラムロール下手すぎ。


「ふたりとも流石ですよね。しっかり脚を触っただけで誰だか当ててます」


 なんだか暗に変態と言われてる気がしなくもないが、こんなクイズを始めたのはそっちだからな?


「あたしたちって負けてた方が罰ゲームだったんですよね!? 揃って完璧に当てたんだからご褒美が欲しいです! ね? 阪口先輩?」


「いや、雪路さんはどさくさに紛れてわたしのお尻を揉んだでしょうが」


 あ、ちゃんと実行してくれてたんだ。ナイス! ただ――元凶に対して足りてない。


「雪路、俺が許すから二葉を好きにしていいぞ。30分くらい」


「はぁ!? なに言ってるの兄さん!? わたしのお陰で女の子3人も脚を好き放題触っておいて!」


 人聞きの悪いことを叫ばないで欲しい。事実だから否定しないけどな!


「こんな妙なことを考えた罰だ」


「やったー! お兄さんの許可ゲットー!」


 雪路は早速行動に出た。プールから上がると指をわきわきと動かしながら二葉ににじり寄って行く。


「姫姉さん! 一緒に逃げよ!」


「なんで私まで巻き込むんですかー!?」


 二葉は隣りにいた氏姫の腕を掴むと駆け出した。さり気なく幼馴染を盾にするように自分が前に出ているのはご愛嬌と言っていいんだろうか? 遅れずに追いかける雪路が獲物を見つけた肉食獣みたいな笑みを浮かべていたのをスルーして見送る。


 まぁ、なんだ。メインターゲットは二葉だろうから大丈夫だろ。


 俺はプールから上がり、同じくその場に残っている羽山に頭を下げる。


「羽山、その悪かったな……途中で嫌がってたことに気づいたのに調子乗った」


「い、いえ、未空もそうなる可能性があるのを承知で参加したので大丈夫です」


「ごめん」


「顔を上げてください。本当に怒ってないですから。確かにビックリはしましたけど……嫌じゃなかった、です」


「そうなのか? てっきり嫌がってたのかと」


 声色から本心で言ってるのを感じて、俺は顔を上げた。


「嫌だったのは一樹さんじゃなくて……ゆきさんなんです。お尻をペチペチ音がなるように叩かれたの、すっごく恥ずかしかったです」


 あれって太ももじゃなくてお尻だったんかい……てか、雪路はナニをしてるんだよ……もしかして全員にナニカしらやってたのか? ……やってそうだな……やってるんだろうな……。


「きゃあ!? 水着の中に手を入れるのはなし!」


「生乳ひゃっほーい!」


「ひうっ!? ちょ、ちょっと! 当然のように摘むなぁ!」


「ゆきちゃん、私が二葉ちゃんのことを押さえてるのでいまのうちにヤッちゃってください!」


「小田ちゃんありがとう!」


「……いつの間にか裏切ってますね」


「そもそも盾にするつもりで巻き込んだ二葉が悪い。あいつは自分が被害に遭わないためなら余裕で幼馴染を生贄にするからな」


 お互いに、な。


「いやあああああ!?!?」


 屋内プールに響き渡る義妹の悲鳴に、俺と羽山は苦笑を漏らすのだった。


 途中、事故が起きかけた気がするけど、終わりよければ全てよし?

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