10話 王女をたぶらかした護衛騎士?
本格的な誕生日パーティーが行われる前に開かれる演武大会。
通常は早めに王室に着いた貴族たちのための見物、みたいな感じで小さな行われる小さなイベントだったが、今回はそうもいかないらしい。
なにせ、ケイニスが参加を希望した途端に第1王女、セシリアの護衛騎士であるカーバンまで参加を申し出たのだ。
『生意気な平民風情が』
そして、カーバンがこんな茶番に参加を決めた理由は他ならない、ケイニスを
ケイニスの存在が知られるようになってから、カーバンはとにかくケイニスを憎たらしく思っていたのである。
平民であるにも関わらず、アーサーの唯一の弟子になってカニア祭でも優勝した神童。
たった16歳に第3王女の護衛騎士として
まるで、この国の英雄は自分だと宣言するようなその行動は、名高き伯爵家の子息であるカーバンには不愉快としか感じられなかった
また、彼がケイニスを嫌う理由はもう一つあった。
『なにより……くそぉ、セシリア様まであの野郎を気にかけるだなんて……!』
それは自分の主君、セシリアが最近やけに彼に興味を見せているからである。
カニア国の女王は、自分の護衛騎士と結婚をしてから王座についた身。
だからこそ、この国では王女の護衛になってワンチャンを狙おうとする男たちが余るほどいる。
もちろん、カーバンもその一人だった。
幸い、恵まれた才能と貴族出身の優秀な師匠によって実力はめきめきと成長し、若干21歳でセシリアの護衛騎士になることができた。
見た目にも自信があったので、このままセシリアと上手く行けば女王の夫として権力を振るわすことだってできるはず。
なのに、急に現れた芋虫のせいで自分の理想にヒビが入った。
当然、彼も我慢ならなかったのである。
「しかし、カーバンまで参加したいだなんて……そこまでケイニスと戦いたいんですか?」
「はい。王国の未来という評判を背負っている者なら、相手して自分にも損はないかと」
「…………」
王室の中にある、小さな演武場の控え室。
固まった顔で喋っているカーバンを見て、セシリアは目を細めた。
彼より5つも年下であるけど、セシリアはもうカーバンの狙いなんてお見通しだった。
だってこの男、一々行動が大げさなのだ。
すぐに自分を頼るように仕向けたり、要らぬ優しさを押し付けようとしたり、格好いい姿を見せようとしたり。
まるで、自分の父上と同じルートを辿りたいと叫ぶようなその行動は、浅はかだとしか捉えられなかったのだ。
『……天地がひっくり返っても、あなたと結婚することはできませんよ、カーバン」
セシリアは昔から強く思っていた。恋人を作ってはならないと。
この国で女王として生き抜くためには、弱点を作らない方がいいと何度も自分に言い聞かせて来たのだ。
イブニアの正体が世に明かされた時、母上が貴族たちからどんな目で見られたのかを、セシリアはよく覚えているから。
もちろん、彼女もすべてを持って行かれそうなほど情熱的な恋をしてみたい乙女ではあるが。
セシリアはいたって理性的に状況を判断し、カーバンに一切の感情を見せないようにしてきた。
そして、その傾向は今、この状況にもよく表れていた。
『カーバンなら間違いなく、ケイニスの本当の実力を引き出せるでしょう』
打算的に見たら、この状況は悪くない。
いつかケイニスを自分の手に入れるためには、先ず彼をちゃんと知っておかないと。
そして、そんな打算が入り混じっている一方で―――
「お兄ちゃん……ううん、ケイニス」
「なんでしょうか、イブニア様」
「負けたら夜這いですからね?分かりましたか?」
「…………………………」
「王女権限で、睡眠剤も飲んでもらいますから」
誰か助けて。お願いします、誰か助けてぇ………。
もうやだ、なんでこんなあたおかになったの、この子……!
「ああ、それと……負けても、田舎には絶対に帰しませんからね?」
死刑宣告を食らったケイニスは背筋に冷や汗をかきながら、体をぶるぶる震わせた。
「えっ?それって、どういう……」
「ここで適当に負けてみんなの評判が落ちるのを待って、そのまま田舎に帰れる状況を作ろうとしてませんか?」
「…………………………………………」
「そうはいきませんからね?ふふふっ」
もう自殺した方が早いんじゃないかなと、ケイニスは割と本気で思ってしまった。
演武場の控え室、二人きりになったケイニスとイブニアはお互いを見つめ合いながら、笑顔を浮かべていた。
まあ、片方の笑顔はもう半分引きつったものになっているけれど。
「……お兄ちゃん」
「なんですか、イブニア様」
「ため口で話して。どうして、そこまでして私の傍から離れようとするの?」
「えっ?出世したくないから」
「……私が嫌いだからじゃ、ないんだよね?」
「そりゃまあ、嫌いではないけど別に好きでもな―――好きですよ大好きですよ愛してますからマジでそんな表情やめてください」
秒で目からハイライトが消える女なんて……!めんどくさいな、もう!!
ケイニスは心の中で涙を流しながら、ふうと深呼吸を重ねて気分を落ち着かせた。
「とにかく、そんなところかな。政治争いとかに巻き込まれずに、田舎でのうのうと暮らしていきたいんだよ」
「お兄ちゃんはせっかくの才能を腐らせるつもり~~?それはもう国家的に大きな損だよ!」
「知るか!俺はただ田舎で自由に生きたいんだよ!!」
「むぅ~~~~」
イブニアはパンパンに頬を膨らませて、ケイニスを睨んでいる。
いや、君の護衛騎士を続けてもし付き合ったりしたらもうバッドエンド確定だから……と説明はできないから、もどかしい限りである。
ていうか、適当に負けるのだけじゃダメなんだ。
じゃ、ぼろ負けした後におしっこでも漏らしちゃおうかな。前に呼んだラノベでは決闘に負けた悪役があそこをポロンと出していたし。
「ケイニス様!間もなく対決が行われますので、ご準備を!」
「は~~い」
必ず負けなきゃ。そんな強い決心を抱きながら立ち上がったところで。
「お、お兄ちゃん!!」
急に後ろから聞えて来た声に、ケイニスは振り向いた。
すると、両手をぎゅっと握り締めて祈るように、切実な表情をしているイブが見えてくる。
「ファイト……応援、してるからね?」
「………………………………………………」
まあ、初戦はさすがに負けちゃまずいもんな、うん。
1回だけ勝つことにして、ケイニスは部屋から出て演武場の舞台に立った。
貴族たちは、その舞台を取り囲むように観客席から見下ろしている。
「おお、あれが噂のケイニスか……!」
「さすがはイブニア様をたぶらかしただけの顔だ!!」
ちょっと待って、どういうことだそれ。
木剣を握り直しながら貴族たちに目を向けていたところで、今回の対戦相手が表れた。
そして、初めての対戦は―――
「け、ケイニス・デスカール!」
「あ、はい。イブニア様の護衛騎士、ケイニス・デスカールと申します。どうぞよろしくお願いいたしま―――」
「貴様、イブニア王女様とそういう関係であるという噂は本当か!!!」
「ソードオーラ」
10秒も経たないうちに、ケイニスの勝利であっけなく終わってしまった。
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