1話 なんで優勝するの?
カニア・クロニクル。
それが、ケイニスが前世でプレイしていたゲームだった。
戦闘システムが抜群に面白く、原画もキャラデザも最高で美少女ゲーム年間アワード1位を達成した超名作でもある。
でも、輝かしい実績とは裏腹に作品を批判する声も大きかった。
なにせ、このゲームは………エンディングがバッドエンドしかないクソゲーだったからだ!
「だからといって、ゲームの主人公に転生してしまうとかヤバすぎだろ……!」
そう、ケイニスもまた、前世でゲームに対する悪評を垂らしていた一人のユーザーだったのだ。
没入感のあるストーリーに魅力あふれるヒロインたち。その行き着く先が仲良く粛清エンディングなんて、どうしても我慢ならなかったのである。
その鬱憤を15000字くらいの文章で発散した次の日、ケイニスは見事に転生を成し遂げたのだ。
それも、ゲームの主人公であるケイニス・デスカールの体に。
「うん……まあ、転生したのならしゃーないか」
初日はめちゃくちゃ慌てたけれど、時間が経つにつれてその感覚も馴染むようになった。
なにせ、前世でも数多くのゲームをプレイして、転生小説もそれなりに
このようなファンタジー世界に対しての抵抗感なんて、まるでなかったのである。
それに、なにより一度はやってみたいと思ったことは他ならぬスローライフ。
現実のいざこざから身を引いて、田舎の幼馴染的な存在とのんびり人生を楽しむ。
そして、11歳の幼いケイニスは、運命のようにその幼馴染的な存在に出会った。
「い、イブ……名前は、イブ」
「あう、俺はケイニスだよ。よろしく!」
白金髪の綺麗な髪と、澄んでいる青い瞳の美少女。お隣さんの少女と仲良くなり、いつの間にか一緒にいる時間も増えて行ったのだ。
何故か第3王女と見た目がそっくりだけど、その部分はあまり気にしていなかった。
とにかく、そうやって平和な時間が続くと思った―――その瞬間。
「お前、俺の弟子になれ」
「?」
父の手伝いのために畑を
首を傾げる俺をよそに、その人は隣にいる父と母と10分くらい会話を重ねて………
そのまま、ケイニスの他郷生活が決められたのである。
「じゃ、行ってらっしゃい~~」
「元気でね!!」
「???」
弟子になれ、という言葉を聞いて24時間も経たないうちに、ケイニスはその初老の男性……いや、王国唯一のソードマスターに連れ去られた。
それからは毎日、地獄の訓練が続いた。
基本的な体力づくりと剣術を教わるところから始めて、魔力の適切な運用法と無詠唱で魔法を打てるようにまで。
酷な訓練が続いていたにも関わらず、ケイニスはその日常をそこまで苦には思わなかった。
なにせ、彼もかつてはファンタジー世界の主人公に憧れていた身。
自分がいざその立場になって努力を重ねて、実際に成長していく姿が目に見えているんだから、面白味を感じたのである。
もちろん、故郷にいるイブと家族が恋しかったけど、たまに会う機会があってか寂しさは全くなかった。
このまま、鍛錬を終えて故郷に戻ればすべてが理想通りに行く―――と思ったが………。
「ロサリオ学院に入学する気はないか?ケイ」
「ええ……?ちょっと待ってくださいよ。修行が終わったら村に返すという約束は?」
「いいか、ケイ。村の外には魔物が
嘘である。小さな村の周辺にはせいぜいスライムやゴブリンみたいなF級のモンスターしかない。
「だから、ロサリオ学院でちゃんと君の実力を向上させて村に帰るんだ!!そうすれば、お前が求めるスローライフも無事に送れるぞ!!」
嘘である。この師匠は端から第3王女の護衛騎士としてケイニスを成長させることしか頭になかった。
「それに、学院にはたくさんの美少女たちがいる!お前が密かに望んできたハーレムを築くことだってできるぞ!」
大嘘である。この国は一夫一妻制だ。
「それに、学院に入学したら俺の訓練からも解放されるけど」
「よし、行きます」
どんなことよりも師匠の訓練が嫌いなケイニスだった。
ロサリオ学院に入学して3ヶ月が経ち、ようやくケイニスはなにかが間違っていることに気付いた。
そう、彼もそこまでバカではなかったのだ。
そして、なによりこの学院の中には出世欲バリバリな生徒しかいなかったのである。
戦場で名を上げたいと思っている同級生たち、国の重要な職に就いて権力を振るいたがっている貴族の子息。
その上に、王女の護衛騎士になって王女とワンチャンを狙おうとする陰険な先輩たちまで。
「……どうしよう」
師匠の言葉に従って入学はしたものの、この積極的な雰囲気はどうしても肌に合わない。
それに、ケイニスが入学した学院はカニア王国の中でも逸材たちが集まっている、王国最高の教育施設、ロサリオ学院。
当然、貴族たちや王族たちも常に目を光らせているのだ。
「よっし、やめようか」
故郷に帰ってハーレムを築けられると言った師匠にカンチョーをかましてやると強く決心してから、ケイニスは学院をやめることを心に決めた。
しかし、問題がある。この学院の学費は自分が知っている限り、すべて師匠の財布から出たもの。
勝手に中退をしてしまえば師匠のお金はおろか、師匠の誠意まで台無しにすることになる。それだけは避けたかった。
どうすれば合法的に学校をやめられるか。
それについて悩んでいた矢先に、天からの啓示が降りて来た。
「なぁ、お前も出るんだよな?カニア祭!」
「当たり前だろ、出なきゃ入学した意味ねーし」
「ほぉ……」
ロサリオ学院の中で開かれる、トーナメント方式の決闘大会。
王国随一の学院の最大イベントだからか、貴族たちも多く見に来るらしい。そこで、ケイニスの頭の中であるアイデアが閃いた。
もし、ここで一発で落ちてしまったら?本選までもたどり着けずに、予選でぼろ負けして師匠をガッカリさせたら?
そうすれば自分も故郷に帰れるからよし、師匠も無駄なお金を使わずに済むからよし。
万事解決、すべてが幸せではないだろうか。
だから、ケイニスはすぐに参加を希望した……が。
「くっそ……!平民風情が、どうして……!」
「くあっ……!?」
「ねぇ、ねぇ……あの子ヤバすぎない?」
「まだ1年生だよね?どこであんな化け物が………」
ケイニスは、まるで知っていなかった。
師匠の教えがどれだけ過酷で優秀なものだったのか。
自分がどれだけ化け物みたいな才能に恵まれていたのかを、彼は全く気付いてなかったのである。
毎日師匠との稽古で死線を越えていたケイニスに、同年代の生徒たちが相手にできるわけもなく。
すべての試合は、3分も経たずにあっさりと終わってしまって……。
「ゆ、優勝者はケイニス!!1-B組のケイニスです!!」
自分の優勝が確定したその瞬間、ケイニスは。
「………いや、なんで?」
自分の剣を落としながら、呆けた顔でボソッと呟いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます