第9話 俺っち、コンティニューボタンを押す

 純の格ゲーデビュー戦は散々だった。


 指に麻痺が残る慣れない操作の中で、対戦相手の巨漢力士は蹴るは投げるは、挙げ句の果てには頭突きが飛んでくるわで、いいようにされてしまった。


 何より閉口したのは張手の連発技で、ほとんど反撃出来ずに純の操る空手家はスモウレスラーに完敗した。


 画面の中で敵は歌舞伎よろしく見栄まで切るので、もう腹立たしくて仕方が無い。


「も、もう一丁!!」


 耐え難い敗北感の中、純は画面のコンティニューボタンに即反応。格ゲーの麻薬的効果に早くもハマりこんでしまったようだ。


 そんな純を姉の音々ねねは心配そうに見つめている。流行りのゲーム脳が気になるのか、その黒目がちな大きな瞳は憂いを含んでいる。


 と、そこにキザ君こと当医療法人の跡取り、花崎 ほこるが現れた。


「やぁ!やぁ!やぁ!日乃本君、トレーニングは進んでいるかい?」


 何処かレトロな風合いの挨拶をすると、ウルサイ!邪魔だ!と純が吠えるのも無視して、チラチラと音々を一瞥しながら高級そうな包を純の枕元においた。


「陣中見舞いさ!京都からお取り寄せのスイーツ、阿闍梨あじゃり餅。単価は200円を超える銘菓さ。」


「まあ、君みたいなワーキングクラスには滅多に口に出来ないシロモノだからさ、遠慮なく食べていいよ。あ、お姉さんもどうぞ。」


 そう言うと、純にヘタクソッと一発かまして、病室から出て行った。


 オメェ、ぶっこおろす!と純は怒り心頭だが、全く口の利き方を知らないが、このブルジョアは案外悪い人間ではないかも知れない、と音々は思った。


つづく

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