第6話 俺っち、金に目が眩む

「ゲ、ゲームでリハビリしたら治療費は無料ただなんだな?」


 純がケーシー*に確認した。


[註]ケーシーは医師が着る衣服、作業着。理学療法士もその運動性から好んで着用する。ここでは花崎の父親を指す。


「エグザクトリィ。このDr.花崎に二言はありませんよ。では、」


「ダメ!純、お金は心配しなくていいから!純はコントローラーなんて握っちゃダメ!」


 Dr.花崎の発言を遮って、姉の音々ねねが猛然と反発する。治療費の為、何故ダメなのかと純が姉に問う。そんなやり取りを思惑ありげに眺めていた花崎が割り込んだ。


「レディース、いや、お姉様。悪い話じゃないと思いますよ。楽しくゲームで治療を進めるンだから。イッツ・グッド!」


 そしてニヤリ。


「何か、ゲームに悪い思い出でも?」


 刹那、クー子は美しい音々のゾッとするほど凄んだ表情を見逃さなかった。


「これは家族の問題です。」


 穏やかに毅然と音々は花崎に返した。ブルジョアの鼻っ柱をワーキングクラスがへし折ったカタチだ。未熟な花崎は反論出来ない。


 するとクー子が、お姉さん、私も悪くない話と思いますよ、お試しだけでもやって見ればと勧めてきた。


 クー子は純と過ごした児童クラブ時代を思い出していた。他の子ども達は皆、何かしらのゲーム機を持っていて、実際、クー子の家にもセガサターンがあった。


 純とてゲームには興味があっただろう。しかし幼い頃に両親を亡くした純の暮らしの中には、娯楽にお金をかけるプチブル趣味が入り込む余地なぞ無かった。


 携帯型のゲーム機で楽しむ同級生達を横目に、校庭を走り回ったり、ボール遊びをしたりして純は放課後を過ごしていた。


 純がゲームを楽しむ、そんな機会があってもいい、クー子はそう思ったのだ。


つづく

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る