女神の私は、どうやら常識とプライバシーの配慮が無いらしい。

 新しく土地に増えた世界樹の設定は一つ一つで設定できなくて、私が元からある世界樹の設定をあれこれ弄ると連動して同じ働きをするらしい。


 地力を注ごうと思ったらこの樹海から全力で地中に地力を注ぎ、供給を止めると樹海全体でかなりの地力を生産し始める。


 大は小を兼ねるというけど、多量は少数を兼ねないようで、ことあるごとに植物が勝手に育ってしまうせいで寝ている間に私たちの共同ハウスか植物に飲まれる事件も起きた。


 明らかに今の世界樹の樹海の規模は大きすぎるし、これだと思った通りの実りをさせにくくなって、諸悪の根源である私ですら不便に感じることが増えて来た。


 増えすぎた木々を有効活用する方法を考えて、ひらめいた。


 今は他の商会から不当な価格のつり上げを受けて、私たちの商会は木材を買うことができない。


 でも、今こんなにも大量にある世界樹を使えばかなりの量の立派な木材が確保できるんじゃないか。そうひらめいた。


 思いついたら即行動。倉庫を漁ってのこぎりとか斧を持ち出して、適当な世界樹に斧の一振りをぶつける。私にとっては私が増やした世界樹だし、使い道に困ってる世界樹の有効活用のつもりだったんだけど、またみんなが飛んできて、お説教が始まった。


 ありがたいご神木に斧を振り入れるなんで言語同断。何を考えているんだと。


 でもよく考えてほしい、元からなかったものを女神の私が作って、私が邪魔だと思ったから処分をしようとしているんだ。


 私の中では筋の通っている意見だった。けど、みんなは前例がないことに頭を抱えて、私をほったらかしにして何か相談を始めていた。


 ──また、とんでもないことをしでかすに決まってる。

 ──あの女神様に常識は通用しないし、教えようとするだけ時間の無駄。

 ──他の女神に怒られても、私たちの話しを聞けばむしろ同情してもらえるかも。


 またひどい言われようである。でも、話の流れ的には私がこの増やしすぎた森の木をどうこうしようと許してもらえそうな気配がある。


 最終的にはハグミの判断で世界樹を木材にする許可が下りた。でも、女神様が斧とかのこぎりを扱うのは怖いから、木材への加工は誰かほかの人に頼むこと、って条件が出た。


 手作業でこの量の世界樹を切るのは大変そうだし、困ったなって考えていると、一つアイデアが浮かんだ。


 せっかく地力が過剰すぎる供給になっているんだし、少しだけ魔法の制限を緩和すれば魔法で簡単に木材を作れるかもしれない。


 私は、みんなに木材を作るのに便利そうな魔法が使える人がいないかを問いかけた、でも──


 ──けどみんなが使える魔法ではないらしい。


 ただひとり、みんなの中で私と目を合わそうとしないハグミが気になって詰め寄ると、ハグミが冷や汗を浮かべて私から一歩距離を取る。


 女神としての直感が何かを感じ取る──ハグミ、何か隠してるような……?


 考えてみれば不思議だ、リーエ達の商会は魔法を使って品質の良い野菜を作ってたんだし、できるならハグミも魔法をつかって育てればよかったのに。


 表情を見れば相手の考えていることが最近分かるようになったんだよなーって、ハグミに顔を近づけてまっすぐに瞳をのぞき込む。


 やっぱり思考を読み取れるようになっているみたいで、頭の中にハグミの脳内で考えてることが言葉となって再生される。


『魔法が怪力ってばれるなんて絶対嫌だ……』


 想像もしてない脳内の焦りに、私も理解が追い付かなくて、隠したいって思ってるハグミへの配慮なんて全然考えずに口から失言がこぼれる。


「え、ハグミの魔法って怪力なの……?」


 突如、私の顔に何かすごい勢いでぶつかったのか意識が刈り取られて、私の身体は中に浮く。


 魔法の使用許可はまだ出してない……、つまり私はハグミの素の力で殴られて身体を浮かして吹っ飛んだのかと、意識を取り戻した時に聞いた話で戦慄した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る