世界樹林ができるまで3

 世界樹の大量生産。そんなアイデアをメギに話して褒めてもらえる気分だった私はメギの思ってもない良くない返答に戸惑った。


 メギ曰く。枝を渡すのは全然いいけど、おいしい果物と交換って言ってるとのこと。忘れてたわけじゃないけど……、ドタバタとした毎日のせいで取れたベリーとかを渡しに行く暇がなかったのだ。うん。断じて忘れていたわけじゃない。


 木の樽いっぱいにいろんな種類のベリーを入れて、ちょっと変わり種としてそれぞれのベリーのジャムを作って持って行くと、思いのほか味が良かったのか、約束だった世界樹の枝を分けてくれた。


 当初はこれを地面に打って、水はけのわるかった土壌の地盤に穴をあけるつもりだったんだけど、今の自動の根っこの耕しと、沢山撒いた燻炭とかでかなりマシになったから、贅沢でもったいない当初の使い方とは違って、有意義に活用することにする。


 手順は実験で試した時と同じ。はちみつ湯を作って1時間くらい世界樹の枝をつけておく。


 しばらくして適当な地面に世界樹の枝を差して植えて、地力を注いであとは育つのを待つばかり……、でもその世界樹の枝から根が生えてくることはなかった。


 ハチミツ湯の調子が悪いのかと思って他の植物で試したら問題なく育つし、同じ量の地力を注いだら、ベリーの枝はあっという間に大きな茂みへと変わるくらい成長した。


 ハチミツ湯も土地にも問題がないのに、世界樹の枝は育たない。となると、世界樹を差し木で育てるのは無理ってことかと思ったんだけど。世界中にこの土地と同じような世界樹が生えてて、人々が奉納とかでその世界樹を育てたなら何かやりようはあるはず。


 なにか一工夫が必要っぽいけどそれが何かは全然思いつかないし、世界樹の成り立ちに詳しいのは私じゃなくてこの世界に住んでる人達だと思うからってことで、しばらくは土壌改善の作業を他の人達に任せて、信仰商会でつながりができた人達に世界樹のことを聞いて駆け回る日々が始まった。


 曰く、ウミベの町の世界樹は不漁に苦しむ民が食に困らないようにと女神様から世界樹を授かった。


 曰く、コーザンの町は大地の恵みの鉱山資源が枯れてしまわぬよう、そして鉱山から出る有害物質から民が病で苦しまぬようにと女神様から世界樹を授かった。


 どちらも現地の巫女様から聞けた話だけど、何か祈らなければいけない土地に世界樹がわたっているみたいで、どちらも現れた女神様から世界樹の苗木を渡されたんだとか。


 日のよく当たる場所に植えて、世界樹の成長のために奉納を続けること。奉納を続けている限りは祈りにそった奇跡を土地にもたらすはずだからと。


 話を聞いて思ったことがあるとすれば、祈りとかのスピリチュアル的な部分はいったん考えないことにして、育つのに必要なのは十分な日光と奉納なのかな……と。


 さらに聞けばウミベの町の世界樹は離れの島の日当たりのいい場所にあって、コーザンの町の世界樹は山の山頂付近の開けたとこにあるらしい。どっちも水に困りそうだけど、世界樹の成長に水を気にしたことは無いみたいだった。


 思い返せばあの時実験した場所は日当たりも悪いし狭いしで、旧ホーサクの町の世界樹があった場所と比較するとだいぶ環境が悪かった。


 その反省を生かして、次に植える場所を考えてみた。


 ──あんまり遠いところだと育った後に通うのが面倒。

 ──今から新しく土地を切り開くのは労力が大きい。


 ってなると、もう近場で日当たりがいいところなんて今世界樹が植えてある丘ぐらいなもので、その距離だと今ある世界樹に奉納するのも新しく植えるつもりの世界樹の枝に奉納するのも距離的なネックも解消される。


 私がそんな実験であっちこっち駆け回ってたなんて全然知らなかったみんなはまた私が変な事企んでると真面目に考えてなんていなかった。


 ハグミを見つけてついてきてもらって、世界樹から少しだけ離れた場所に世界樹の枝を植える。祈ってまで改善したいことはぱっと思いつかなかったけど、地力あふれる土地になりますようにって祈りを一応込めて、差し木をして。地力を注ぐ。


 試しにこの世界樹の枝へ奉納をしてみてほしいとハグミに頼んで、しぶしぶながらも手伝ってもらって、数秒が過ぎる。でも、目の前の世界樹の枝に目に見えた変化は現れなかった。


 陽も沈みつつあるし、今日は帰ろうかってなって植えた枝を引っこ抜くと、枝にはこれまでになかった変化が表れていた。


 引っこ抜いた世界樹の枝には、さっきまでは無かったはずの根が少しだけの伸びていて、あともう少しの日光なり、奉納があればしっかりと根を張って育ちそうな気配がある。


 少しずつだけど、確かな変化を感じながら世界樹を育てる。そんな経験はこれまでゲームでも元の世界でも味わったことはなかったから、私の中ではもう女神としての使命なんて全然覚えていなかった。

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