世界樹林ができるまで2

 私の土壌改善とハグミのアイデアのおかげで、信仰商会との協力ができるようになって、ホーシ商会は様々な物資をそろえることができた。


 はちみつに砂糖に塩に様々な香辛料。このおかげで私たちの食卓で毎日出ていた虫芋、湯で芋、焼き芋に塩見や辛味、甘みといった味が付くようになって、食卓が少しばかり豊かになった。


 きっとみんなの表情も明るくなるはず、そう思い込んで皆の様子を見ると──


 ──芋以外が食べたい……。

 ──どうせならパンとか小麦と交換してもらえばいいのに……。

 ──お肉とか魚が食べたい……。


 あぁ……、なんだかみんなのことが考えてることがすっごく伝わって来る。こんなことあったっけ? と思ったけど、これが女神の力の一端なんだとか。そんな事実を私が知るのはまだあとの話し。


 私が「そろそろ畑以外に食卓をもっと豊かにしようか」と提案した時の皆の大歓声はこの土地を地震のように震わせた。


 予定ではまだ食べ物のことは気にしてなかったんだけど、収穫したの一部を信仰商会に卸すのを決めて、何を食べたいかはみんなの方がよく分かっていると思うから、何を買うかは荷馬車に乗っていく人達に任せることにした。


 食を豊かにするのは他人に丸投げしたし、私はなにか別のことを……、と視線をめぐらし、卓上のはちみつへと目を止めた。


 ──確かはちみつって差し木とかの発根剤になるんだっけ……。


 差し木をした経験はないから、記憶を頼りに作業の準備をする。


 確かはちみつをお湯にといて、しばらくつけるだけでいいんだったような。


 私がおもむろに立ち上がってキッチンに立ち、鍋に水を張って火にかける。片手にはちみつを持ってるその様子は傍から見ると何か料理をするようにしか見えていなかったようで──


 ──私が木の枝や植物の枝分かれした茎を鍋に入れたときには悲鳴のようなものが後ろから聞こえた。


 中にはハグミの声もあったはず、後ろを振り返ればみんなが──


 ──サクナ……、まさかそんなもの食べるつもりですか……?

 ──食の改善ってまさかそんな感じ……?

 ──おいおいマジかよ……。


 と、胸の内で言いたい放題。


「食べるわけじゃないからね?」と説明しても──


 ──女神様ならやりかねないよな~

 ──どんな味になるんだろ……。

 ──食べるなら女神様に食べれる証拠を見せてもらわねば。


 と、まるで信じてもらえなかった。


 語ってダメなら行動で。実にシンプルな発想でしばらくゆでた茎を外に持ち出して地面へと植える。


 地力の操作でこの茎に地力の過剰供給をして成長を待つ……、ことにしたんだけど、茎はどちらも育たなかった。


 はちみつをお湯で溶かすのは作業的に間違えてなかったけど、冷ましたハチミツ湯に小一時間つけるんだったと思い出して作業のやり直しをしようとすると「もう女神様はキッチンに立たないでくださいと」皆が一丸となって抗議してくるから、作業を進めることができなくなった。


 仕方ないから草木灰とか燻炭を作る作業場へ来て、一連の作業を終えて差し木をすると、採取してきたブルーベリーの枝も何の草かもわからない雑草も新しく根っこをはやしてすくすくと成長を始めたのが確認できた。


 これで、ベリーの低木とか果樹とかは都度買わなくても量産できるようになったし、これを土地に植えていけば世界樹の回復も早くなるかも。


 そんなことを考えると私の脳内に一つのとんでもない画期的なアイデアが浮かんでしまう。


 この土地の地力を作っているのは世界樹の葉で、光合成をおこなって、生成していて、世界樹の根は地面と大気から地力を吸収して、世界樹の体力を回復する。


 ってことは、地力の総数をこの土地に増やすことができればもっともっと効率よく世界樹の体力を回復できるんじゃないだろうか……。


 今の時点で地力を消費して野菜を育てても、その作物を供物にしたり、副産物的な雑草を肥料に変えて土地に還元することで、消費しても元が取れるようになっている。


 もし、育てた木が地力そのものを生産するものだったら、元を取るどころか将来的には地力が増え続ける画期的な投資になるかもしれない。


 この思い付きこそが、旧ホーサクの町のイメージを粉みじんになるほどまでぶち壊す世界樹の林が誕生してしまうきっかけとなった。

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