女神様の話しを聞いて
世界樹のことは巫女でもないあたしにはよくわからないけど、それでも常識が全く通用しないような速さで育つ植物は実際に見たわけだし、魔法で野菜を急速に育てるのは魔法でもしてたことだから事実なんだろう。
だからと言って、ここまでの話でもまだ夏の月中期の15日ぐらいの話しらしい。
私はてっきり夏の月前期ぐらいから変なことを始めたのかと思ったのに、あの世界樹の林ができたのはここ2週間くらいの出来事ってこと……?
「リーエ、頭が痛いって表情してますね。私たちも大変だったんですから」
「ホーサクの町が消えてるだけでびっくりなのに、もういろいろ理解できないことが多すぎるんだよ……」
私の商会の人たちがこの地域の動きを全然把握できなくなってた理由はよくわかった。商人達もお金にならないことはしたがらないし、なにかと寄付やら奉納を求めて来る信仰商会に関わろうとしないから、そこに目を付けたのはかなり目の付け所に思えた。
「さては、ハグミの知恵でしょ」
「もちろん。ですがここまで交渉が上手くいったのはサクナの交渉術あってこそですよ。私が交渉してもある程度まではまとまったとは思いますが、足元をみられてきっと割に合わない取引をさせられていたかもしれませんし」
「へ~、女神様交渉とか得意なんだ……」
商会の娘としては誰かと関わるうえで、したくなくても損得勘定とか相手の本質的な欲の部分を気にしてしまうし、それが悟られないように注意するのも癖になっている。
一応協力するつもりではいるけど、交渉上手な人って他人を良いように扱って、権力に胡坐をかいて好き放題するイメージがあるから、女神様にもしもそんな一面があったらどうしようなんて、不敬ながらも思ってしまう。
ここまでの話しを聞いて、女神様が一体何をゴールとしてあれこれ手広くしているのがが全然見えてこないのが気になった。
信頼関係を結ぶなら、損とか得とかを考えるべきではない。欲は違うかも知れないけど、私にはよそ者ががめちゃくちゃにしてしまった世界樹を元気にしたいって動機がある。
でも、女神様は世界樹の元気がなくなってから生まれた存在らしいし、私みたいに世界樹をする理由なんてないんじゃ……?
交渉という名の腹の探り合いをする商人という立場としては、全く腹の内を探らせない女神様が少し怖い存在に思えた。
「リーエ……、もしかして考え込んだりしてませんか? 多分難しいこと考えても無駄ですよ。あれを見てください。サクナなんてきっと何も考えてないんですから」
「え──どういうこと?」
言われて、指で指示されていた女神様の方を見ると、そこにいたのは底意地悪い商人とは程遠い、目の前のパンとシチューをおいしそうに食べ、自身がここまでに成し遂げた話をしてご機嫌な女神様。
「多分ですけど、女神様は頼まれたら断れないお人よしなんですよ。それに、絶対に小難しいことなんて考えていません。断言してもいいです。サクナはただの思い付きで行動してるだけですよ」
「えぇ……、どういうこと……??」
「ここまでの話しもだいぶおかしなことの連続ですが、少しでも一般的な常識がある理知的な行動をしていたらこんなめちゃくちゃな森なんてできないんですから……」
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