他商会からの妨害

 栄養が枯れてて土壌が荒れてるからまともな野菜が作れない。それでもどんな植物でも早く育つならいくらでも改善の手が打てた。


 地力供給の範囲を畑以外の場所にも広げると、夏って言うのも相まって雑草達がみるみる伸びるようになってきたんだけど、このおかげで草木灰をかなりの量をまずは量産。他にも雑草で燻炭を作ってそれぞれをあちこちに散布。


 それでも処理が間に合わない雑草は刈り取ってそのまま地面にすき込んで地中にいる微生物の餌にしてみる。


 あれこれと対処療法的に土壌改善に打ち込んでいると、世界樹の体力の回復量が少しずつ増えるって変化が起こり始めた。


 地力供給をするにあたって少しの世界樹の体力を消費したんだけど、消費した分の地力が10日もしないうちに回収できて、なんならプラスになって帰って来る。


 なら──もっともっと地力を注ぎ込んだらどうなるんだろう、なんて好奇心で今ある体力の3割を地力に注ぎ込んだら、成長が早いものだと1日で芋とかトウモロコシが育つようになった。


 トウモロコシの成長が90日とかだから、成長速度で言うと90倍……。こうなってくるともう何をどうやっても処理が追い付かないから、沢山育っても問題ないものを育てようってなったんだけど、そこで思いついたのがベリーだった。


 実れば品質が悪くてもある程度の甘味があるから、味が終わってるいまの食事がほんの少しだけどマシになるし、何よりも恩恵があるのは実に詰まってるカリウム叶って。


 食べきれなかったベリーは地面に落ちちゃっても、カリウムはそのまま植物の根っこが育ちやすくなる栄養素だし、糖分は微生物の餌としてもかなり優秀。


 これは見方を変えれば土壌に栄養素を供給し続ける全自動の肥料の装置みたいなもので、勝手に生えてくる雑草の根っこが元気に育つと地面の中が耕されたのと同じ働きになって、こっちは自動の耕運機と同じ働きをしてくれる。


 なにより、ベリーは奉納してしまえば世界樹の回復にもできるし、植えたら植えた分だけ土地が豊かになっていくと考えて街で買おうとしたんだけど、ここでぶち当たった障害は地力がどれだけあっても解決できない厄介なものだった。


 他の町の商会からの買い付け妨害……。以前買った家畜の飼料とか、行商人から買う食べ物とかが少しずつ値上がりの傾向はあった。


 でも、月が変わってからの値上げはぼったくりって言ってもいいレベルになってて、野菜の種とかが苗木とかを買うのは今の商会の資金だけだと厳しい価格になっていた。


 私たちが欲しがってる素材をそれぞれの町に散らばってる商会で監視して、少しずつ値段を吊り上げて、最後にドカンと値上げをして私たちの資金のやりくりを狂わせる嫌がらせだけど、一見地味な割には結構しっかりと影響が出始めた。


 現状私たちの商会は外から物を買い取るばかりで、売りに出せたものは全くない、それに、こんな嫌がらせをしてくるくらいだし、売ったとこで売れるかは分からない……。


 植物や野菜と違って今の私たちにとってお金は有限の資源って考えると、一度で必要な分を考えて買わないと値上げでそのうち買えなくなるし、人の悪意でいちいち状況が変わるからめんどくさい。


 ウエさんの一族の人達に変装して買いに行っても大口の取引は商会として行えって言われ、ならいっそのこと新しい商会を作って取引しようと思っても、商会組合で認めないと新しい商会は名乗らせないって突っぱねられる。


 思ってもない要素で停滞をくらって、私たちは終わりのない消耗戦に持ち込まれたかと思ってたんだけど、ハグミの提案で協力者を他の町に作れないかって話が上がって、この計画は案外すんなりと解決できて、私たちの世界樹再生はさらに勢いづくことになった。


 頼りになる協力者。


 それは、もともとこの土地に住んでた人達。よその町でお世話になってる人達にこっそりと連絡を取って、他の町の世界樹を信仰している商会との協力関係を取りつけて、私たちはお金のやり取りをしない、もののやり取りができるようになった。


 奉納用の供物と、私たちが欲しい種や苗木や食料などを交換してもらう。


 つまりは物々交換がこの協力関係で可能になったのだ。


 世界樹を信仰する協会は以前の私たちみたいに不当な扱いを受けてるのは同じだけど、魔法の使用を許可しているうちは、よそ者の商会から羽振りの良い恩恵を受けることができる。


 でも、魔法の許可をするとそう遠くないうちに世界樹が枯れ始めるかもって不安がよぎるようになっていたらしく、奉納用の供物を提供することを持ちかけると二つ返事で取引を快諾してくれた。


 まぁ、考えてみれば分かる話でも合った。よそ者の商会は土地の地力を食い散らかすけど、町にもたらす利益はかなり莫大なもの。その利益を私たちの協力があると長く受けれることに繋がるから断る理由も見当たらなかったのだ。


 思惑はどうあれ、よその世界樹を信仰している商会との協力関係はウミベの町ともコーザンの町ともに結ぶことができて、私たちは新しい商会組合の『信仰商会組合』を立ち上げた。


 私たちの欲しい物資は信仰者の貢ぎ物や、個人の買い物として複数人で買って商会にため込み、私たちの商会の供物と交換する。


 この仕組みのおかげでモーケル商会の監視を潜り抜けて必要な物資をそろえることができた。


 ちょっとでも私たちの商会の荷車を見張ってたら気づけただろうに、商会窓口でしか取引を監視しないずさんな体制のせいで私たちに出し抜かれるんだとみんなで笑いあった。


 出し抜いた記念と世界樹のわずかながらの再生を祝って、久しぶりの贅沢に開いたお酒も入る宴会は大いに盛り上がって、今では楽しかった記憶になっている。


 この時の私たちはまさか自分たちが世界樹の量産に入るなんて誰一人として考えている人はいなかった。

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