世界樹林ができるまで1

 夏の月前期の最終日が終わって日付が変わるタイミングで行われた地力の徴収で、ホーシ商会の畑に植えてた野菜達は深刻なダメージを受けた。


 でも、もとモーケル商会の土地に植えてあった畑の被害はある程度許容できる範囲でとどまってて、その差に一つの仮説が立った。


 というのも、土壌改良の資材をたくさん撒いて少しずつ柔らかな土に変わりつつあったのに、夏の月中期の初日に畑の様子を見に行くと土壌改良作業前の枯れた固い土に戻って水捌けもかなり悪くなっていた。


 それに、モーケル商会の畑はふかふかとまではいかないけど、かなり状態のいい土だったのに、少し硬くなって水捌けが前日ほどよくなかった。


 この変化から仮設は『土地の地力は土地のグレードというか、レベルを下げるような効果があるのかも』ってものが出来上がって、逆説的に『地力が土地に注がれると土地のレベルがあがるのでは』って仮説もできた。


 仮説ができればあとは実験あるのみ、女神の力で地力の操作をさっそく実施。一か月で貯めに貯めた地力をホーシ商会の土地へと注ぎ込んでみた。


 これで土地のレベルが上がるなら1か月の努力は何だったんだろう、って話になるけどそこまで単純な話でもないらしく、土地に変化は現れず。


 モーケル商会の土地の状態が良かったのは、魔法の力で土地のレベルを引き上げてたって仕組みだったんだろうってことに落ち着いた。


 それでも何の成果も現れなかったわけではなくて、その異変に気が付いたのは翌日。地力を注いだ畑のトウモロコシが収穫できるぐらいまで育っていたのをハグミが見つけたのだ。


 偶然とはいえ、結果的に植物の生長を速める手段は植物への地力の過剰供給をすればいいってことが分かって来ると、自ずと魔法の仕組みもなんとなく理解できるようになってきた。


 例えば、リーエが使うって言う、野菜の成長をものすごく早くして、種を撒いたばかりでも、すぐに収穫できるようになる、便利な魔法の『植物成長』だけど、これは地力の供給を魔法の力で勝手に実行するとか、きっとそんな感じなんだろう。


 リーエの魔法と私の地力に関する設定の違いがあるとすれば、私の操作は魔法じゃないから無駄な地力を消費しないで植物の成長を促せるんだけど、何でもかんでもモーケル商会のように上手くはいかない現実にぶち当たった。


 地力の供給過多で育った野菜はあの収穫祭の時に食べた野菜と比べると、かなり気になるレベルで味が悪かった。みずみずしさなんて全然ないし、実った粒の色も悪い、どこか繊維質で口当たりも悪いし……、正直美味しくはなかった。


 良いように解釈すれば、この地力操作のおかげで飢えることはなくなった。私たちの食卓は今かなり貧相なレパートリーで割と悲惨な状況ではあるけど……、村の立て直しに味やクオリティを求めるのは贅沢だと思うし、味は気にしないことにする。


 でも、植物の成長が早いってなると魔法を使わなくてもいい地質改良がかなり進めれそうってアイデアが浮かんで、そのアイデアは後に世界樹の植林をする土壌を作り出すほどの成果を出した。


 植物の成長を劇的に早めることができるようになって──


 ──私たちは緑肥としてクローバーの育成を始めた。

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