キノウエの村

 私たちの新しい村もかなり充実してきた。


 夏の月の上旬終わりには地力の徴収で、トウモロコシとかみんなの畑に甚大な被害が出たときにはもうだめかと思ったけど、みんなが私の案に乗っかってくれたおかげで、食料備蓄もできたし、ある程度の取引ができそうなぐらいな商会の資金も確保できた。


 そしてなにより──世界樹の植林ができたことがかなりい大きい。


 地力のこととか正直なとこよく分かってなかったし、元の世界の知識だけでもいいところまで巻き返せるんじゃないかって甘い考えを持ってたけど、今の世界に順応するのが手っ取り早いことの解決につながるなんて……。


 勉強は苦手だけど、学ぶことを辞めたらダメだね。


 メギが宿ってる世界樹に用意してもらった私のツリーハウスだけど、もともとこの村にいた人達が見たらなんて思うだろう。見せたい気持ちもあるけど元居たみんなを呼び戻すにはまだまだ時間も準備も必要そう。


 とはいえ、私の実験の大成功ともいえるこのバルコニーからの眺めに浸って成し遂げたことの優越感に少しの間くらい浸るのも悪くはないはず。


 もはや、もともとあったのどかな草原の原型なんて残ってないけど……。女神の仕事だし人の常識が通用しなくてもそういうものって割り切ってもらおう。


 満足感に浸る至福の時間──だったけど、部屋の扉をたたくノック音が至福の時間の終わりを告げた。


「サクナ様、村の下部に見慣れぬよそ者の姿がありますがいかがするかの?」


 部屋の外からウエが言う。よそ者ってことは行商人って感じでもないんだろし、あの森のせいで遭難しかけてる旅人かな?


「私が行った方がいい? ハグミの手が空いてるならハグミに対応任せたいんだけど」


「ハグミ様はカンナ達と木材調達に出ておりましてな、ワシが出迎えてもいいのですが、一応のご報告をと思ったわけですじゃ。どうも放心状態でまともに会話ができぬとのことですぞ」


「どんな人なんだろ……、まためんどくさい商人だったら嫌だなー」


「見つけたものは確か……ハグミ様と同い年くらいの女子おなごで身なりは上質そうな衣服だったと言っておったかの。もしかしたらどこかの商会の令嬢かもしれませぬな」


 ハグミと同い年くらいで商会の令嬢っぽい恰好……。もしかして──


「見て来た。サクナ、下にいるのはリーエで間違いない。迎えに行こう」


 いつの間にやら隣にいたメギがしっぽを振って明るく言う。よそ者だって毛嫌いしていたのに、あの夜の少しの関わりだけでリーエへの印象が良くなったんだろう。再開が楽しみといった気持ちが声に乗っていて、思わず笑ってしまう。


「なんで笑うのさ」


「別に、口調はクールなのにしっぽが犬みたいに反応してるからかわいいなって思っただけ」


「うるさい」


 不満ですって顔なのにしっぽは全然落ち着かない。メギも早く会いたそうだし、リーエを迎えに行くとしようか。


「ウエ。下の人は私の知り合いだから私とメギで対応するよ」


「うむ。では来客用の部屋を準備しておくとするかの」


 放心状態らしいけど、どんな状態であれ、音信不通だった状態から数か月ぶりの再会はメギじゃなくて私も嬉しい。


 迎えに行ったときのリーエは腰が抜けた状態で座ってて、頭から湯気を出して目をぐるぐるさせていた。


 アホっぽい姿のリーエだけど、怪我もないし身体も健康そのものって感じ。


 お姫様抱っこでツリーハウスまで運ぼうと思ったけど、非力すぎて細身のリーエを持ち上げることはできなかった。もちろん狐のメギもリーエを運ぶなんて絶対無理。


 仕方ないからハグミの帰りを待つことにする。村の人が手伝おうかって申し出をしてくれたけど、せっかくならハグミとの再会を先にさせてあげたいしね。


 びっくりするかな。リーエが正気を取り戻したら二人はどんな話をするんだろう……。


 私とリーエの関係は短いけど、この3か月でハグミがどれだけリーエと過ごしてきたかをいっぱい聞いて来た身としては二人の再開がとっても楽しみ。


 ハグミ、早く帰ってこないかな。

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