私の故郷はおかしな土地になってしまった。
樹木が生い茂って景観はかなり変わってるけど、走り抜ける街道は一応覚えのある作りのままで、迷わずにホーシ商会の管理していた畑に来ることができた。けど──
「誰もいない……」
倉庫だった場所はもう廃墟の建物みたいに風化していて、中を覗いてもボロボロになった農具が置いてあるだけ。ぱっと見だともう誰も使って無さそうだ。
トウモロコシを買てたって話だけど、畑にはクローバー? が畑を覆ってて、何かを育ててる感じではなさそうだ。
まだ作業してないだけ……? でも、あの植物たちの成長の早さは何かしてるとしか思えないし……。
さすがに住むところは残ってるはず、そう思ってハグミの住んでた家を訪ねてみた。
立派なお屋敷だったのに、庭まであの植物たちが入り込んで荒れ放題。窓から部屋を覗いてみるけど、人の気配は全然ない。
玄関に回って扉をノックしても反応がなかったので、物は試しってことで扉を押してみたらカギはかかってなくて、すんなりと空いた。
部屋の隅々にベッドのクッション部分だけがいくつか置いてあって、さっき見た倉庫に比べるとつい最近まで使われてたような生活感がある。
キッチンを覗いてみるけど、お皿とかは少ししか残ってない。ハグミの部屋へ上がってみたけど、ほとんど荷物が見つからなかった。
「もしかして、引っ越ししたのかな……」
畑にも誰もいない。家にも誰もいない。町は既に跡形もないとなると居場所に思い当たる場所が浮かばない。
──これ以上ハグミの居場所に心当たりもないし、町の現状がどうなってるか報告しに帰ろうかな。
屋敷から出て、辺りを見渡す。ついこの前までこのお屋敷にも遊びに来てたはずなのに、庭もここから見える景色も思い出の風景と全然重ならない。
「どこいったのさ……」
木々の隙間から少しだけ見える空を見上げて、途方に暮れる。あわよくばさっさと仲直りでもして、跡形もなくなった町の跡地で村でも起こして復興すればいいなんて思ってたけど、女神様もハグミもいないなら意味がない。
ぼーっと空を仰いで、世界樹の近くを見ていないと思い出した。
「一応行くだけ行ってみようか」
さすがに住居を放棄して世界樹に住むとは思えないし。いない前提のダメ元で世界樹へと移動することにした。
さっきまでは足元に絡みついてくるハーブたちがうっとうしかったけど、世界樹に近づくにつれて、木々の密度が上がって森というか樹海というか……、道が整備されてなかったら遭難しそうな状態になっている。
この先の道がもっとおかしくなってるかもしれないけど、進むしかない。
背丈の何倍もある高木の森がしばらく続いて、木の陰からイノシシとかクマとかが出て来そうな気配に怯えながら、おっかなびっくりな足取りで街道を進んでいく。
世界樹の麓のあたりに近づくにつれて、森の様子が再び変わっていく。
高木の幹がどんどん太くなって、高さも太さ立派な樹木が目立つようになっていた。世界樹の中に生えてた光るキノコとかがあちこちで生えてたり、光の胞子がただよってたり、いつのまにか幻想的な風景へと変わっていって神秘的。
おとぎ話でエルフたちが住んでそうな森を見て、あの立派な木々ならツリーハウスとか作れそうとか考えていると、妄想が幻覚で現れたのか、本当に木の上部や木の中をくり抜いたような住居群が前方に見え始めた。
木と木の間に木の蔓や枝で作ったであろう橋がかけられていて、人が行きかう様子は本当にエルフの住む町みたい……。
「え……? 目がおかしくなったかな」
街道の先はもっとおかしなことになってるかも、予感してたことではあるけど、さすがに理解が追い付かないことだって私にもある。
町を離れてからはとっても長い時間に思えた2か月。とはいえたったの2か月しかたっていないのに、どうしてこんなにおかしなことになってるんだろう。
光るキノコは世界樹のそばでしか育たない。光る胞子も世界樹のすぐそばでしか漂ってないはず。なのに、さも普通のキノコですよって感じで光るキノコがあちこちで生えてて、光る胞子も飛びまくり。
「嘘でしょ……、これって……」
信じたくない。いや、信じられない。
「この辺りの樹、もしかして全部が世界樹なんじゃ……」
なんで私の住んでいた故郷が世界樹の植林場みたいなことになってるんだろう。
理解の追い付かない事か続いて、頭がとうとうショートしてきたのか意識がぼーっとしてきて、腰が抜ける。
へなへなとしゃがみ込んで目の前をみる。
世界樹がいっぱい育ってるだけでも十分おかしいのに……。
──なんでここの住民は世界樹をくりぬいたりして住居にしてるんだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます