異質な街道
数日間の軟禁状態から解放されて、久しぶりに屋敷の外に出ることができた。
気心知れた仲間たちと故郷に帰れるならまだしも、女神信仰を放棄しようと思ってる派閥の監視役をつけられて帰ることになるから、退屈そうな旅路になりそうでげんなりとした気持ちがこみ上げる。
なーにが「いいですか? リーエ様の役目は潜入調査です、旅行ではないので羽目を外さないように」だ。せっかく故郷に帰れるんだし、この町のお土産とか持ってハグミや女神様へのプレゼントを持っていこうとするくらい見逃してほしい。
上司の言うことが絶対の保守派だから私の気まぐれな思い付きの行動も許してくれ無さそう。
話しても面白くなさそうな堅物さんだから、私から話を振らなかったら結局コーザンの町門からホーサクの町とウミベの町の分岐路にたどり着くまで一言も話さない旅路になった。
「ねぇ、監視役さん。この辺りからホーサクの町って見えたよね……?」
道案内の看板がある小高い丘は、壮大な高山やきれいな海、のどかに広がるホーサクの町の畑の景観が見える小高い丘にある。
海とか山の景色に変化はないけど……、ホーサクの町の方角の景色がどこか怪しい。
町があったはずの場所には樹木がうっそうと生えていて、畑だった場所にももっさりとした茂みがあちこちにあって、とてもじゃないけどの人の手で管理されているようには見えない。
「ご存じなかったのですか? あの女神が何かしたのか、町はもうずいぶん前に消えたと、行商人たちから話が上がっています。もうリーエ様の育った町はありませんよ? あのような荒ぶる神を信仰しているからショックを受けるのです」
「なんでそんなこと……」
「私に聞かれたところで困りますな。女神は町を破壊し、田畑を燃やし、残っていた住民たちはホーシ商会の巫女がよその町へと追い出したと話が届いています。あなたと大事なお友達も女神と関わり変わってしまったのでしょうな」
あの女神様はほんの少しの関わりだったけど、そんなことをする人には見えなかった。なにより、平和主義というかお人よしのハグミがそんなひどいことをするわけがない……。
そう思いたいけど、変わりきったこの景色を見ればこの土地がまともな管理を受けれていないのが嫌というほどよくわかる。
「見てみないと分かんないでしょ」
監視役は鼻を「ふん」と鳴らし、『見なくても分かるではないですか』といった表情や態度を隠そうともしない。
でもいい。もし二人に会えなかったとしても、この土地のことを調べるっていう当初の目標は私が町に帰るための口実でしかなかったけど、今となってはその口実のおかげでこの土地のことをあれこれ調べてもこの監視役には変に思われなさそうだ。
認めたくない現実が私の思い過ごしだったなら、笑い話にでも変えて二人にあれこれ聞けばいいだけ。
足取り重く、ホーサクの町への街道をすすむ。
整備されてた石の舗装路はほんの2か月が過ぎただけとは思えないくらいにひび割れてるし、街路樹は枯れてるのが多くて日没の時だとこの通りは不気味かもしれない。とはいえ……、今は不気味ではないけど異質な雰囲気が立ち込めてる。
夏場なのにセミの鳴き声とかが聴こえない。鳥もいなさそうだし、生物が発してる環境音がほとんどないように思える。
視界の隅で監視役もこの何とも言えない雰囲気に言葉が出ないのか、焦ったような表情を浮かべている。手をかざして何かをしようとするけど何も起きない。たぶんだけど、魔法を使おうとしたみたいだ。
「地力が濃い……。外からは無理でも内側から魔法を使えばこの地域の情報を得られると思いましたが、どうやらあの夜と言われる日に町にいてもいなくても関係ないみたいですね。どうやら
「まぁ、魔法に対しての印象かなり悪かったし、世界樹が枯れる寸前ともあれば好き放題使う魔法なんて許可できないんでしょ」
農耕放棄された畑に立ち入って、土の状態を見てみることにした。
「リーエ様、今そちらの土地は我々の商会のものではありません、無遠慮によその土地に入るのはやめてください」
「ごめんって。でもさ、見てよこれ」
「……なんですか」
遠目にみて実は畑に違和感があった。畑の土の上には刈られた雑草が捨ててあるというか敷き詰めてあって、管理されてないようなぐちゃぐちゃした畑になってるのに、意図的にした作業のようにも見えるのだ。
「これ、わざとかな?」
「こんなに雑草を散らかして、次の作業をする時に邪魔でしかないでしょう。よそ者がこっそりこの土地を使うのを良しとしないために嫌がらせでもしてるのではないですか?」
「でもさ、ただでさえ魔法を使わないと枯れてた土地なのに、こんなに雑草いっぱいってことある?」
「言われてみると……。この辺りに捨ててある雑草は食用向きではないとはい一応穀物が取れる物ばかり。多少でも土地の養分が無ければ育ちが悪くなるはずですが、背丈もあってかなり成長しています」
「だよね……。あれ、ん?」
「どうされました?」
「あの茂みだと思ってたやつ、ハーブじゃない?」
もしかしてと思って近づいて驚愕した。目の前の植物がぱっと見で分かるレベルで成長して、今こうしてみている間にも葉が大きくなって茎も枝も少しずつ伸びて来てる。
「これは何がおきて……」
「わかんないけど、普通じゃないよね」
近くで魔法が使われてる感じはない。なのに明らかに魔法を使ったような速さで育つ植物に何が起きているのか理解ができない。
「リ、リーエ様!? この畑から出ましょう。足元をご覧ください!!」
絶叫に近い監視役の声に驚いて、足元を見る。
すると、足元には何かしらのマメ科の植物の蔓が足に巻き付き始めていて、さっきまで枯草が敷き詰めてあった畑には一面の緑が広がり始めていた。
普通じゃないことが起きてる。脳がそう理解すると異様な速さで育つ植物たちに取り込まれないように、さっさと巻き付く蔓をちぎって畑の外へ出た。
「か、帰りましょう。この土地は今おかしいです! ただ事ではありません!!」
あたりが一気に暗くなる。まだ時間は昼前。夜になるわけもないのに、どうしてと思って上を見ると、街路樹が一気に成長して、森のようになり始めていた。
「うわぁぁぁあ」
理解ができない現象に監視役が正気を失いはじめる。帰ってもいいけど、あと少し町だった方へ行けば何か知ってるかもしれない住民がいるはずだし……。
少し悩んで、錯乱気味の世話役へと声をかける。
「先帰ってもいいから、このことを商会の人達に伝えて来て!」
「お嬢様はどうされるつもりなんですか!!」
「町だった場所に行ってみる。大丈夫。逃げないしなにがあったかは調べたらすぐ帰るから」
「ですが……!」
「あなたみたいなよそ者が魔法使おうとしたから、こんなことになってるかもしれないじゃん! 私だけなら顔も効くし悪いようにはされないと思うから」
悩む素振りを見せて、世話役がコーザンの町へ向かって走りだす。
鬱蒼とした森のように暗くなり始めた街道はやっぱり不気味で怖いけど、それでも何が起きてるか知りたいという気持ちが勝って、私はホーサクの町へと駆けだした。
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