月が変わる
何をするわけでもないけど、ちょっとした不安があって夜の畑を訪れる。
月が替わるのはこれで2回目。私は特に何も気にしてなかったんだけど、この世界の人達にとって月の変化は抗いようのない悩みの種なんだとか。
季節の変化を行うために世界樹が多くの地力を土地から吸い上げる。それは月の変わるタイミングでも規模が小さいだけで行われるらしく、この地力の徴収に耐えれない植物たちは枯れるかもしれないらしい。
時刻は23時59分。あと1分もしないうちに月が替わる。前回の季節の変化の地力の徴収はまだ一応多くの住民が廃墟になった町に住んでたし、女神の信仰をしてくれていた人達が奉納をしてくれていたから何とかなったけど、今回は訳が違う。
人はこの土地にいなくなったし、まだ野菜が育ってないからなんの奉納もできてない。それに土地の活性化として世界樹から土壌に流してた地力を一切入れてない。
ということは、今回の徴収ではほとんど地力がすっからかんの土地から吸い上げられるわけで、みんなの不安はこの土地が徴収に耐えれるかって部分らしく、何が起こるかわからないって現状、私も気になっておちおち家で過ごせないかなって思ったのだ。
夏の夜だけど元居た世界の夏の夜とは違って鬱陶しいむしむしする感じはなくて、ほのかに湿っぽい空気の中で目を閉じて、どこかの水辺で帰るが鳴いてる声に耳を澄ませる。
──やっぱり何にも起きないじゃん。
芽を開けると地図上の時計は0時になっていた。
──さて、帰ろう。
そう思って後ろ目で月明りに照らされる畑を一目見て立ち去ろうとした時、畑に明らかな異常が現れた。
目に見える速さで昼間は青々としていた野菜達がしなびていく。しかも、そんな異常が畑のあちこちで……。
それに、突然の脱力感。足の裏からまるで生気が奪われるような気持ち悪さと立ち眩みが私を襲う。
「え、まってどういうこ──」
どういうこと、そんな短い一言を言い終えることができず、膝をつく。先月はこんな変な事起きなかったのに、これがみんなの不安に思ってたこと……?
あの廃墟の町が土に還った時のように、畑をかこっていた石の囲いや肥料置き場とか簡単な作業をしていた小屋たちが朽ち果ててぼろぼろになっていく。
このままだと畑が……、そんな一心で女神の力の操作画面を早々と開いて地力の供給設定を変えようとする。
「無駄だよ、サクナ。今から地力の供給を始めても効果は朝から、この徴収には間に合わないと思う」
頭の上のあたりでメギの声がする。この地力の徴収を止めて欲しいって口にしたいけど、身体が思うように動かないし、声が出せない。
「ひどいねこれ、こんなことになるなんて思わなかった」
とても長い時間に思えた徴収が終わる。時刻は0時5分。あんなにしんどかったのに5分しかなかったなんて……。
「なんでメギがこんなとこに? それに、さっきの大丈夫なの?」
「こんな時間にサクナが畑にいるから何してるのかと思って、徴収を受けなかったのは私が徴収する側だからかな」
「女神って立場なら私も受けないんじゃないの?」
「サクナは世界樹に宿る妖精的な立ち位置の女神だから。私は世界樹の魂がうろついてるだけって思ってたらいい。それよりも、この先どうするか考えはある? 今のこの辺りの地力の状態を考えると、次の月の地力徴収を軽視できないと思うけど」
「そんな超常現象みたいなの元居た世界になかったからどうすればいいか全然分かんないよ……」
「無理なら……、もうこの土地の世界樹を放棄して枯らせてもいい」
「それって、メギはどうなるのさ」
「死んじゃうだろうね。でも、もう最悪それでもいいよ。この土地の支配者が商人になっても、この土地で私に尽くしてくれた人達が生きていてくれるならそれで充分」
メギの声音にはどこかもう諦めたような感じがあった。
メギとしては一人で何年も頑張って来たけど誰からも協力してもらえなかったし、別の世界から私を招いてどうにか……、って考えも上手くいかなかった。もう、メギの中ではできることは試しきったって感じなんだろう。
このまま世界樹に戻ると、もう世界樹を枯らして、最期を迎えようとしているような、そんな雰囲気をまとっているように見えた。
「手伝ってくれたのにごめん。でももう疲れたから楽にさせて……。サクナはまたいい世界に生まれ変われるにどうにかしてみるから」
メギが世界樹の方へと向き直る。小さい足でゆっくり歩き始め、今声をかけないとこの場を立ち去って、取り返しのつかないことになりそうだ。
──なにかこの土地を元気にする方法があれば……、なにか……
メギの足取りはゆっくりだけど、立ち去る前にいい案が浮かべばって頭を働かせていると、世界が早送りになってるんじゃって錯覚する。
──地力徴収。
──地力の供給。
──枯れた土壌と、かなりの被害を受けた畑……。
何が起きたのか、何をすればいいのか、土地はどんな状態なのかを整理して──
「まって、メギ!」
──一つのアイデアが思いついた。
「……なに?」
「もう少しだけ時間が欲しい。冬までにこの土地を整えるから、まだ諦めないで」
そこからは大変だった。メギが私の考えに無茶だ、とか。みんなが困る、とか。頭ごなしに否定するけど、私も向きになって朝まで言い合いをして、ハグミ達が迎えに来るまで取っ組み合いになって言い合いをした。
それでも、メギから「好きにすればいい」って言質をとれたから、私の土地の大改革を始めることにする。
ウエさん達にも私の考えを説明したんだけど、久々にこんなこと言われたな……。
「女神様がご乱心であられるぞおおおおおお!!!」
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