増やした菌を土地に撒く。
納豆菌と乳酸菌、どっちも食品の発酵とかで使われる菌だけど、実はこの子達のは働きはお腹の調子を整えてくれるだけではない。畑に撒いてるもみ殻とか米ぬか、この二つは土の中の生き物たちに分解されて初めて効果が表れる肥料変わりの資材なんだけど、その分解をしてくれるのがこの子達。
しかも乳酸菌と納豆菌は菌たちの中でも最強クラスのフィジカルの持ち主で、野菜たちをダメにする病原菌たちをやっつけてくれるエリート集団でとっても頼りになるのだ。
地中のもみ殻とか米ぬかを納豆菌が分解して地中に糖分を生成。それを乳酸菌が分解して植物たちの養分を生成。その分解工程で元のガチガチだった土が団粒構造って言われてる土に変化していっていくんだけど、作られる粒状の土がふかふかな畑の秘訣になる。
この土を作り替える魔法みたいな微生物の働きも、実は万能じゃなくて、ある程度のあったかい環境が必要なんだけど、今は夏の月で1日中暖かいからその問題は気にしなくてもよさそう。
むしろ、冬だったら全然分解が進まないから、土の作り変えをするには今は最高のタイミングと言ってもいいかもしれない。
1週間かけて鍋の中で牛乳と豆乳を餌に発酵させて、菌をいっぱい増やした。
もう1週間かけて、育苗に使った箱に増やした菌の培養汁と畑の土と菌の餌の米ぬかとかを混ぜ合わせて、仕込みを終わらせてあるから、今日は畑の土とこの菌たっぷりの土を畑に少しずつ撒いていく作業になる。
まずは既に米ぬかとかもみ殻とかの有機物って言われる資材がいっぱい撒かれてる私たちの土地に撒いて、すでにある畑でも菌の培養ができるように仕込みをしてみた。
その後は開墾中の畑とかみんなが使ってる畑とかを回って、土の効果を説明して撒いていく。途中にこの土はどうやって用意したのか聞かれて若干困る場面があった。
一応実験段階だし、ホーシ商会のお金で作ってることを説明したら「みんなのためになる物を作ってるのに、取引が無い現状でホーシ商会だけが負担するのは悪い」ってウエさん達が言って、菌たっぷりの土の製作費を折半してくれた。
それに、私の説明を聞いてウエさん達の一族の研究熱心な人達がこの土に興味を持ってくれて、少しずつだけど菌の培養を手伝いたいって申し出てくれて、培養に掛ける時間を浮かせる目途も立って、土地に住む人が増えたありがたみをひしひしと感じることになった。
ここ2週間私がしてたのは匂いのきつい作業部屋だったからみんな手伝いたがらなかったけど、せっかく興味を持ってくれたんだしってことで集まってくれた人達に土を撒くのを手伝ってもらう。
作業部屋はあんなににおいがきついのに、土に混ぜると全然匂いが気にならなくなってて不思議って顔をみんながしてて見てる私まで楽しませてもらった。
作業の中で土を柔らかくするのに貢献してくれる菌は糖分を消費するから、手っ取り早く砂糖とか撒きたいんだよねって言ったら、そんな高級品を無駄遣いするなってみんなから止められた。
畑に撒いても怒られないような糖分が用意できれば土壌改善の資材にもなるし、他の町には無い特産品にもできると思うから、できれば早めに糖分を作れる施設を簡易的にでも作るのはありかもしれない。
それに、そもそもの砂糖とかの甘美の価値が高いなら、さくっと素人でもできそうな砂糖を作って安値で売れる中品質ぐらいの砂糖が作れたらちょっとした金策にもできそうだ。
新しい作業員の確保と、来月にでも作りたい施設の構想が浮かんだ夏の月前半の最終日。この土地に来たときは見知らぬ土地でトラブルが多くて不安だったけど、いざいろいろ始めてみたらこれといったトラブルが怒らずに順調にことが進んでほっとした。
ひとまずは来月がどうなるか楽しみって思える状態でひと月を終えれたのでこの月の出来はまぁまぁ良しってことにしておこうかな。
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