ちびっ子たちに『くさい姉ちゃん』って呼ばれる。

 みんなが撒いた種がこれといったトラブルもなくすくすくと育ってきた。


 モーケル商会の所有地だった場所は常に魔法で土壌を最高品質にしてあったからか、ほとんど手を加えなくても水捌けもよくて、雑草もすぐにすくすく育つくらいには土の栄養も多いらしい。


 ただ、思った以上に進捗が悪いのが土地の開墾計画。


 この世界の地力って土壌への影響が大きいようで、固いし、雑草すらも生えないぐらいに栄養が足りてなくて、何も手を加えないと耕したところでまともに機能しそうにないぐらいだった。


 土地が固くなる原因があるとすれば……、地中の菌が死滅してるのかも? 土の中の微生物がいないと、地中で栄養素が作られないから、土地が死んでるって言っても過言じゃない状態なわけで、まずはその土壌に手を加えていく必要がありそうだ。


 土壌の微生物を増やすと言えば元居た世界だと微生物資材を使えば早いんだけど、ウエさんたちに聞いても知ってるような反応は無かった。


 微生物資材が使えない環境で、微生物の補充となると、ぱっと思いつくのは食品に使われてる微生物の流用なんだけど、どうやら食べ物を土壌改善に使うって発想がハグミにもウエさん達にも受け難い感覚があるらしい。


 ヨーグルトとか納豆で増やした生き物を畑に撒くって説明をした時のみんなの『こいつは何を言ってるんだ……?』って顔がかなり冷ややかで、ちょっと辛いものがあった。


 でも、この世界でも魔法生産でヨーグルトも納豆も作られてるらしく、普通に売りにも出されてるから、隣町へ食料調達で買い出しに行く若者達にお使いを頼んで、買ってきてもらうことにした。


 買ってきてもらうのは牛乳とヨーグルト。納豆と豆乳。それに、野菜の収穫で処分に困ってる雑草がああれば貰えるだけもらってくるように伝えて準備はオッケー。


 食用じゃないから一番安いのとか何なら腐り始めてるのがいいって伝えたんだけど、買い出し班のみんなが私に向ける『こいつ本当に正気か?』って言いたげな顔で、ドン引きしてるって感じの嫌悪感を含んだ表情を隠そうともしない。


 なんだか皆の私に対するイメージが悪い感じへ偏りつつある気がするけど、一時の不名誉なんて、土地の改善のために我慢することにする。最近村のちびっ子たちに『頭のおかしな女神様』なんて言われてた気がするけど気のせいだろう。


 何のフォローにもなってない、ちびっ子のお母さまたちの「思ってても口に出してはいけません」って発言もあった気がするけど……、きっと気のせいだ。


 不信感は女神信仰の妨げになると思って、少しでもイメージの回復につなげるために、この土地で小っちゃくてかわいいペットを飼うことにします! って宣言して、ちびっ子たちの心を掴むことに成功。そこまでは良かったんだけど、買い出し班が帰ってきて、私が育て始めたのは納豆菌とか乳酸菌。


 小っちゃい働き者で私はかわいいと思うんだけど、ちびっ子たちには微生物君たちの可愛さが伝わらなかったようで『嘘つき女神様』なんて言われるしまつ。


 腐った牛乳とか腐った豆乳、腐った豆を使って微生物の培養をしようとしてしばらく作業部屋にこもってたから、最終的には『くさい姉ちゃん』と言われるようになった。


 さすがに心に受けたダメージが大きくて、しばらくまともに作業ができなかったんだけど、私が微生物の培養とメンタルの復旧に時間を割いていると、いつの間やら結構な日数が経ってて、夏の月の上旬が終わりが近づいていた。


 思い返せば、ありあわせでホーシ商会の土地を気持ち程度改善して、トウモロコシを植えた。


 元々あった町を消し飛ばして、移住民を受け入れて、最終的には土地の開拓を始めたり、たくさんの野菜を育て始めたりといろいろあった。でも──


『──食事環境が悪い』

『──生活環境が悪い』

『──経済状況が悪い』

『──土壌が悪い』

『──土地の女神へのイメージが悪い』


 いい思い出を振り返りたいのに、問題が山積みになるほど多すぎて頭を抱えたくなる。でも、そんなことで悩んでてもすぐに解決できることはなさそうだし、とりあえず明日で夏の月の上旬作業に区切りをつけようと思う。


 多分開墾中の土地は夏シーズンでの運用開始は難しそうだけど、ひと先ずは秋の月の初めから運用できるように目の前の作業から片づけていこうかな。

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