この土地の生活水準は恐ろしく低いらしい

 夏の月の前期も中盤に差し掛かる。


 ウエさんの一族が思った以上にやり手だったのもあって、今日も午後から空き時間が生まれる。


 農業知識が元いた世界と比べて全然未発達な印象を受けてたけど、飲み込みはかなりよくて、そんな要領のいい人達が集団で作業をするものだから今の作業量が足りてないのが現状なのかもしれない。


 話を聞けば、鉱山地域で農業をしていたのはウエさん達の一族ぐらいで、鉱山地域の地力消費を上回る奉納ができてた規模の畑を運営してたから、今の畑では少な過ぎるんだとか。


 ウエさん達を過小評価してたつもりはないんだけど、まさかそんなポテンシャルを秘めてたとは思わなかったし、今この土地の発展の足をひっぱてるのは私なのでは? って思ってウエさん達に話があるんだけどと声をかけた。


「それで、話というのはなんですかな?」


「ぶっちゃけた話をして欲しいんだけど、もしかして今この土地の農作業ってウエさん達にとって物足りない?」


「ぶっちゃけろと言うのであれば、そうですな。今の作業だと向こうの街での作業の10分の1ほどの作業量でしかないので、我々も暇を持て余しておりますので」


「あー、やっぱり……?」


「これは提案なのですが、我々に土地の開墾をお任せいただけませぬかな? 今の暇を持て余している時間を利用して畑を広げれば、秋に使える畑は増えるかもしれませぬぞ?」


「お願いしてもいいのかな……」


「もちろんですぞ、広げた畑の収穫物も今任されている畑の条件と同じく2割の提供をお約束しましょう」


「迷惑にならないなら任せたいんだけど」


「迷惑も何も、いまの暇な毎日が続けば身体が鈍るかもしれませぬな。それに、土地が広がれば我々の稼ぎも増えると言うもの、何も迷惑などはありませぬのじゃ」


「この土地に尽くしてもらうのにお返しできなくてごめん……」


「なぁに、公共事業で街に娯楽や食の楽しみを作っていただければそれでかまいませぬぞ?」


「食の楽しみ?」


「酒場や食事処を作っていただけると、1日の作業の気分転換としてよいとは思いませぬか? 我々の今の食事は質素な薄味の汁と味のない米、野草や山菜が茹でただけで食卓に並ぶのは、若者達にもやや不満らしいのですじゃ」


「え、今ってそんな感じの食卓なの?」


「ハグミ様は食事と言っていいのか怪しいですぞ……、米・芋・米・芋あれで毎日正気を保っているなぞ、さすがの私にもきつい食事ですじゃ……」


 私は食べなくても寝なくてもいいから、食べ物を消費するのも勿体無いって思ってハグミと食卓を囲むことはなかったから全然気づけなかった。


 人々の豊かな暮らしに衣食住が大事なら、おしゃれな服が買える店もなければ食も質素。住むところも集合住宅状態でいいと思える魅力が何一つない。畑仕事ばかりに意識を向けすぎで、日常生活を豊かにすることなんて全然気にしてなかったけど、この劣悪っていいような生活環境は急いで改善したいところだ。


「食事処と酒屋を作るとはいえ……経営できそうな人とか料理できそうな人ってウエさんの一族の中にいたりする?」


「料理が好きで嗜む程度のものならおるかもしれませぬが……絶賛できるほどの料理の腕を振るものはおりませぬな」


「ならこの土地に来てもらうしかないか……」


「失礼を承知の上で申し上げたいのですが……、今のこの土地に移住を考えるなど、よほどの物好きが訳ありしかおらんでしょうぞ」


「……、ちなみになんで聞いてもいい?」


「女神がすぐに乱心し、魔法が使えぬ土地で娯楽も豊かな生活も無い……」


「あ、もうなんか色々胃がいたくなりそうだからそれくらいで大丈夫」


「畑仕事だけならまだしも、今いる住民で村づくりってなるとなにすればいんだろ」


「衣食住の充実でしょうな……、ちなみに女神様はこの先どのようにしてこの地域の再建をするつもりなのですかな?」


「うーん、奉納して魔法の解禁とまではいけないとしても、せめて地力供給ぐらいはしないとダメなのかなー」


「まぁ、何をするにしてもしばらくはこの土地で収益をあげねば何もできますまい。それにしばらくは他の街の地力は満ち溢れておるでしょうし、私としましては野菜の販売で競合するのではないかというのが不安ですじゃ」


「それは……、まずいかも」


「ホーシ商会のもの達はその日のうちに育て、収穫し、市場に流すことができまする。我々の収穫に合わせて同じ商品を市場に流されでもすれば品質は向こうのほうが圧倒的、何か対策を練らねば我々は潰されてしまうかもしれませぬぞ」


 畑のことも、土地での生活のこともすぐに解決できない問題ばかり。せっかく今は作業が少なくて時間が余るんだし、この土地の特産品を作ればいいんだけど……。


 ゲームではこんな周りから妨害なんてなかったし、聞けば何から何まで後手に回ってる。この現状だとまずいっていうのは鈍い私でもさすがにわかってきた。


 今の思いつき今の思いつきで行動するだけじゃダメだ……、先導者にならないと━━


 ━━世界樹が枯れる前に私たちの生活がジリ貧の上に終わってしまいそうだ……。


 

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