この土地には仕事がない

 新しく家を建てるにあたって、必要になるのは石材と木材。


 石材は鉱山の町から安値で購入できると言われたんだけど、木材の調達で頭を悩ますことになった。


 今では何の面影もないけど、廃墟になった町があった場所はもともと森だったらしい。


 開墾や放牧地としての利用のために森林を切り開いて来た歴史があって、この周辺地域からの木材需要も高かったこともあり、ほどんどの木材供給を引き受けていたといっても過言ではないんだとか。


 今でこそ建築魔法が無制限に使われたり、育林魔法って魔法で地力をごっそり使って大量の木を育てることもできるから、木材需要はかなり減少傾向。


 今では植林場すら潰して居住エリアや商店街に作り替えている町も少なくて……、私たちはその時代の変化の影響を受ける羽目になってしまった。


「女神さま、この辺りの樹木はちょっと木材での利用は厳しいです……」


「切ってみても幹の中心が腐ってたり、虫に食われてたり……、木材さえあれば家を建てるのなんて造作もない私たちですが、あの木々を木材するのであれば我々には何もできそうにありません!」


 そのような直談判を私にしてきたのは、ウエさんの一族の人達の若い男女。二人とも10代後半のような印象で、農作業の頼りにしてた人達でもあるんだけど、二人のやりたいことは農業ではなかったみたいだ。


 二人は姉弟らしく、やりたいというのは建築業とのこと。


 建物を創る方が土いじりをするよりも絶対有意義だと言って聞かない二人の話しをよく聞くと、住んでいた町のお友達の家業が大工さんで、あこがれて手伝いをさせてもらってたんだとか。


「そう言われてもね……、さすがに樹木はすぐには育たたないし……」


「魔法ですよ魔法!」


「っ……! うちの愚弟がすみません……。そんなの却下されるにきまってるでしょ? 次そんなこと言ったらウエさんに掛け合って出てってもらうから」


 弟のナタ君が姉のカンナさんにグーで頭を殴られる。


「ごめんけど、カンナさんの言う通り却下だね。この土地は今魔法使える余力がないからしばらくは無理かな、魔法使うぐらいならよそから買う方がまだいいって思えるぐらいにギリギリなんだよ」


「ほら、いったじゃない……。にしても女神様、魔法を使わないのはしばらくなんです?」


 カンナが思ってもなかった、と言いたげな表情で私を見てくる。


「ん? まぁ、魔法を使わないのは魔法が悪って言いたいんじゃなくて、世界樹が枯れそうだからって理由だからね。便利なのも分かるし、ずっと禁止にするつもりはないんだよ」


「なら、木材買ってくるからお金でしてくれよ!」


「この愚弟がっ……!」


「だって、俺たち金なんてもってねぇじゃん! 家いるだろ?」


「それはそうだけど……」


 またグーで殴られそうだった弟が姉の腕を掴んで言い返す。


「資金援助してあげれたらいいんだけど……、商会資金も潤沢って訳じゃないからごめんね。ところで二人って農作業は全然できないの?」


「いえ、決してそんなわけではありませんよ? あくまでもやりたいと思っていたのが建築作業だったというだけで、得意な作業で言えば私も愚弟も農業だと思います」


「それって他の人達も?」


「かもなー。じい様が鬼みたいに一族に農作業は教え込むから、みーんな得意なことは農作業だと思うぞ!」


 二人の話しを聞いて気づいた問題点が露呈する。


 今育ててるトウモロコシは一部を出荷して、後は奉納と食料用にって思っていた。


 でも、このまま手伝ってもらうだけだと、ウエさんの一族に収益が入らないと気が付いた。


 収益が立たないとどうなるか。いたってシンプル、食料を買えないし、新しく事業を始めようにも資金が足りないということになる。


 家を建てるのに建材をよそから買って、建てた家を販売。もしくは、家を受注生産でもすればかなりお金を稼げるけど、そもそも建材を調達できないと家を建てるという稼ぐ手段とはならないのだ。


 私たちが建材費用を出して、建設してほしい依頼を出した場合どうなるか。


 それだと、商会のお金がウエさんの一族に移動するだけで、町のお金は全く増えず、商会の資金がいつか底をついて終わりになる。


 となれば、町の外からお金を増やさないといけない。みんなが得意なことで、お金が町に増えそうな作業となると……、結局は農業で野菜を育てて別の町で買い取ってもらうのが手っ取り早そうだ。


「ならさ、今の放棄地を希望者に貸し出すから、私たちの手伝い以外の野菜を育ててみない? 収穫物の2割を分けてくれたら残りを販売した収益は全部育てた人の稼ぎにしていいからさ」


「それ、女神さまが楽して稼ぎたいだけじゃないの?」


「言いたいことは分かるけど、分けてもらう野菜は半分奉納して、もう半分は売却。売却資金は私たちの商会の収益じゃなくて、公共費用に回そうかなって」


「公共費用ですか?」


「例えば、みんなが恩恵を受けれるのに、個人負担の出費をさせるのは申し訳ないからそのお金から出そうかなって、イメージで言えば道具の修理とか道具の購入とか、資材の購入とかだね。あとは二人にお金を払うからこれ建ててって時とかに払うお金だと思って欲しいな」


「まぁ……、そんな用途なら文句はねぇけど……、でも奉納用にもするのか?」


「早く世界樹が元気になれば魔法の使用許可が早くなるかもしれないよ」


「ふむふむ……、巡り巡って私たちのメリットにもなるんですね……?」


「そゆこと、改めてみんなにも説明しておくから気になったらまた声かけて。ただ、育てる野菜とかはうちで指定させてもらうね。ちょっと、土の栄養素が不足してる土壌だから、何の野菜ををどこで育成か管理しておきたくて」


「そんなことして意味あるのか? 高く売れる野菜育てるほうがいいんだけどな」


「高く売れる野菜の種高いよ? もしその種を撒いた土地が、その野菜の成長に必要な栄養素が不足してる状態だったらって思うと、損失が怖くない?」


「それは……」


「連作障害って言う野菜の病気もあるから、ただでさえ土地が枯れた現状だと管理しておいた方が確実だよ? こっちもある程度土壌が豊かになって来たなって思ったら各々が野菜育てていいように変更するつもりだしさ」


 私の話しを二人が聞き入って、それぞれ二人がどうしようか考え込む。答えは急いで聞くものでもないし、二人の返答は聞かずに保留にして他の人達にも説明してまわったんだけど、意外とこの提案は好印象で受け取ってもらえた気がする。


 というのも、許可なく畑で野菜を育てていいものかって悩んだ結果、自分達でできる稼業が無いぞ、って困ってたらしい。


 即答でぜひその条件で働かせてほしいと多くの人に行ってもらえて、町の収益を稼ぐ手段も固まった。


 このあと、みんなに何の野菜を育ててもらうかを考える必要があるけど、この提案はウエさんたちのポテンシャルを最大限引き出すのに繋がりそうだし、悪くない提案ができたのかもしれない。

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