移住民が来た

 ウエさんが連れ帰って来たのは20人に満たないくらいの人達で、全員が農業の経験者さんらしい。


 男女そこそこのバランスで偏りはないけど、気になったのは幼い子供やご年配の方が混ざってて、一番の働き盛りと言ってよさそうな人たちとなるとその半分の10人くらいかもしれない。


 でも、土いじりは高齢になっても全然やってる人は多かったし、ぶっちゃけた話農業は経験がものを言う作業になるから、若手の先導者になってくれそうな人が5人くらいいるのもありがたい。


 すぐにでも作業ができるように農具とかもある程度持ち込んでくれたみたいで、お願いさえすれば今ある畑の手伝いとかもしてくれそう。


 でも、課題があるとすれば……、家かな。


 家は自分達で用意するとは言ってくれたけど、季節は夏だ。急に天気を崩して大雨が降ったり、雷雨になったり、それこそ台風すら来るかもしれないのにいつまでも仮住居のテントだったらどう考えても無事じゃすまない。


 満足な食事もでき無さそうだし、まともな睡眠も取れないだろうから疲れも残るだろう。


 さすがにそれは心苦しいと感じたのはハグミも一緒だったみたいで、二人で相談して、ウエさんたちにまともな家ができるまでは、私とハグミが今住んでいる商会の建物の空き部屋や大部屋でよければ使って欲しいと申し出てみた。


 ベッドなどの家具は元の町で売ってお金に換えて来たみたいなので、寝具になるものは私たちの商会で用意をすることにする。これは引っ越し祝いの変わりということでプレゼントってことにしたんだけど、始めは受け取れないと断られもした。


 でも、そこは私も譲れなくて「いい働きは、いい休息あってこそ」って説得をすると一応納得してくれて、商会の建物に人数分のベッドのクッションを用意した。


 荷物もとりあえず商会の倉庫に入れてもらって引っ越しは滞りなく終えることができてひとまず安心。


 それと、持ってきてくれるというお土産はウエさんが住んでいた鉱山地域の世界樹の町の特産品らしい品々だった。


 苦土石灰と言われるマグネシウムを含んだ石灰肥料と、ゼオライトと言われる沸石。それに軽石やパーライト、バーミキュライトといった石材系の土壌改良資材。


 それに、何かに使えるだろうと金属製の木工道具や消耗品を用意してくれていて、主に私が喜ぶものばかりだった。ハグミは終始「なんです、これ……?」と見たことない資材を不思議そうに見ていて、私の反応を見てウエさんたちは驚いていた。


「おやおや、女神様はこれらの資材をご存じなので?」と尋ねられて、なんと説明したらいいかに困った。けど、豊作の女神だからねと都合のいいことを言ってしのいだ。


 鉱山地域の農業は日当たり最悪。土壌最悪。といった劣悪環境らしく。


 マグネシウムなどの金属に含まれる光合成を助ける栄養素などを駆使して、少ない日照時間を過ごし。


 固かったり粘土質だったりして、まともな開墾もできない土地ではゼオライトなどの根草りさせにくくする資材を駆使して根を守り。


 必要に応じた軽石やバーミキュライトといった資材で肥料の効き目を長くするような工夫をして、パーライトで急な気温変化から野菜たちを守っていたらしい。


 この持ち込んだお土産を見て私は、ウエさんの一族が本当に魔法に頼らない農業をしていたんだと確信して、この土地の農業がより良くなりそうだと期待に胸が躍る。


 その他にこの土地の世界樹へ改めてお世話になるからと、さまざまな差し入れというか、奉納品を持ってきてくれていた。そのなかに、よく熟しておいしそうな果物があったから、奉納用とは別で分けてもらって、メギへの差し入れにすることにした。


 今はまだドタバタとする引っ越し期間だったけど、落ち着けば今は放棄状態になってる元モーケル商会の土地とか、味が悪くて栽培を辞めようかと思っている果樹園の作り直しができるかもしれない。


 今から本格的に忙しくなる畑仕事を前に、頼りになりそうな人員の確保ができて良かったと心から思う。


 もし、この町にいた私利私欲の権化みたいな商人たちが他の町で農家に嫌がらせをしているとすれば、今回みたいな移住が今後も続くかもしれない。


 でも、そうなると次は受け入れできる家もないし、質の高い家を作れる人をスカウトできればいいんだけどと思案することになった。

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