町が更地になったのに移住したいって人が来た。
町を更地に戻して数日が過ぎた。変化があったことがあるとすればハグミはもう町長の仕事に縛られなくなって、畑の手伝いをしてくれるようになったのと──
「サクナ、また来客ですよ。対応をお願いします」
「一応、私は神様なんだけどな……」
──責任が回ってきそうな話は積極的に私へと流してくるようになった。
「なら、もう話すことはありませんって追い返しますか?」
「ちょい! それは評判に関わるでしょ!」
商会の仕事も私の下について見習いから始めたいと言ってきて、商会長の役職を無理やりに引き継がせてきたから困ったものだ。でも、見習いから始めるといった分、内部的な雑務仕事とか、畑の雑務は率先してこなしてくれてるから一概に文句も言いにくい。
あたしのしぶしぶといった態度で来客対応するのもどうかと思うけど、ここ最近の来客と言えば「町はどうなったんだ」って話題ばかり。
一度来た商人がまた来たと思ったら「この土地で商売を始めるから立ち退きをお願いしたい」とか言い始めたときには何言ってんだこいつは……、と言葉が出なくなった。
表舞台にハグミが姿を現さなくなったから、商会ごと消えたと思われたのかと思って、町だった部分と畑に、ホーシ商会の土地と看板を立ててみたんだけど、それでも用事とはいったい何の用だと、げんなりした気持ちで商会の来客室へと足を運ぶ。
「おやおや、ハグミさんが対応してくれないと思えば、まさかの荒ぶる女神様が対応をしてくださるのですかな?」
座っていたのは白髪の目立つおじいさん。どことなく日焼けをした肌と土で薄汚れた服を見る感じ……、農家の老父といった印象を受けた。
「そうだけど……。私が女神って知っててその態度ってもしかしてバカにしてる?」
「いやいや、あなたは先月町をめちゃくちゃにしたと思えば、いつの間にか跡形もなく町を消したような女神ですぞ? 不敬が無いようにせねばこの身がどうなるかわからないですからな。だれが対話相手になるのかこちらも不安なんじゃ」
「もうすでに不敬な発言だと思うけど……」
「まぁ、よいではありませんか。こうして無事に会話ができているのであれば、多少でも話が通じる女神様ということでしょう。話の本題に入りたいので立ち話もなんです。そちらの椅子におかけください」
「う……ん? うん? うん。とりあえず座るけど、なんか腑に落ちない……。で、話って?」
「私の一族をあの町の跡地でもいいので住まわせていただきたいのです」
「無理。却下。住めるところないし、この度はご縁がなかったということで」
「住居は我々で用意します。今住んでいる町ではもともとこの町にいた商人が好き勝手し始めて我々の生活が脅かされているんです」
「あ~、そんな話聞いたよ。その責任はハグミとか私じゃなくて、前の町長探してからけじめつけさせてよ。もうこの地域ではしばらく魔法も使わせないし。住みにくいと思うよ?」
「彼らに生活が脅かされない地域があるとすれば、それは住んでも金にならない町でしょう。魔法も使えず、満足に農作物が育たなくなったこの土地では彼らが戻って来ることもないでしょう──」
「待ってよ。事情と考えは分かったけどさ、ハグミの町はもともと外部の人を移住させてトラブルに巻き込まれて、今世界樹が大変になってるからさ。はい、わかりました、住居をご自身で準備されるのであればご自由に、とは言えないのよ」
「ふむ、世界樹が枯れる寸前の現状であれば、私たちはただの邪魔なよそ者ではありませんぞ。我々は魔法を使えない農家であるのでな、この土地の世界樹へ奉納をする野菜を作るお力添えをさせていただきましょう」
「うーん、お力添えはありがたいんだけど……」
「力不足ですかな?」
「私一人では決められないんだよ。話をするならハグミともう一人、っていうかもう一匹と話をしてほしいって言うか」
「もう一匹とは?」
「なんていえばよいか、先代女神様が今狐の姿で世界樹に住んでるんだよ。先代女神様はとくに外の人達のこと嫌ってるからそんな女神様を説得できたら、私的にはここに住んでもらってもいいかなって」
私としてはこの話に嘘を言っているつもりはない。正直世界樹を元気にするのに奉納用の野菜がたくさんいる現状で魔法を使わずに農業をしているっていうこの人の話しはとても魅力的な話に思えた。
でも、私がよくてもやっぱり外の人に少なからずいいイメージが無いと思う二人に話をせずにこの場の会話だけで決めるのはやっぱり違う気がしたから住みたいって言うならメギに会ってもらうとしよう。
「分かりました、では先代の女神様のもとへと案内していただけますかな?」
この老人も話を了承してくれたことだし、ハグミにも声をかけてみんなで世界樹に移動しよう。
あの二人が移住したいって人達にどんな反応をするのか気になるけど、ひと先ず厄介な話にならないことを祈ることになりそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます