先代女神の酔いとノリで町が一つ消し飛んだ

 トウモロコシを植えたことで、少し暇だった日常はどこへやら。広大すぎる畑の雑草処理に追われ、水やりも全部人力作業となると……、疲れは無いけど、時間がいくらあっても足りない。


 人手が欲しい。人がここに住めなくなった原因でもある私が言うのもおかしな話だけど、一緒に作業してくれる仲間が欲しい。


 そんな無いものねだりをしながら作業を終えて家に戻ると、ハグミが頭を抱えて突っ伏していた。


「何してるの?」


「あぁ、おかえりなさい。ちょっとよその町へと出て行った住民たちが好き勝手しすぎて他の世界樹の麓の町から苦情が来てるんです……」


「というと?」


「魔法の使用許可をだしたら遠慮なしに魔法を使い。使用許可の出してない土地を勝手に開墾して畑を作り。市場に野菜を流し始めたかと思うと、投げ売り価格で適正価格をぶち壊すことになり、今のままだと町に元からいた農家の事業が回らなくなると……」


「うわぁ……」


「そして、向こうの主張は受け入れは申し訳ないけど撤回させてほしい、今すぐにでも引き取ってほしいと……」


 話を聞いた感じだと……、メギでいうとこの外から来たニンゲンって人達の仕業っぽい。まだこの町を離れて3週間くらいなのに煙たがられるって……、今でこそ廃墟の町だけど、世界樹が枯れる寸前まで彼らを街に入れていたのはかなり我慢したんじゃないのかな……?


「でも、なんでハグミのお父さんはあんな人達を街で滞在させてたの?」


「父は見栄っ張りなので、他の町よりも経済的に豊かなことに喜びと優越感を感じていたのでしょうね。町での好き放題する商売を黙認する代わりにかなり好待遇の接待を受けていたので、私が見かねて町長としての仕事を代わりにしていたんです」


「そんな事情があったのね……」


「全く、父はどこへ行ったのやら。父親もあの騒ぎに乗じてどこかへと逃げてしまったので、今では全責任が町長代理として仕事をしていた私に来ているので勘弁してほしいです……、どうにかしてこの呪縛から解放されたらいいのですが……」


 ほんととばっちりみたいな責任を追及されてて、ハグミは可哀そうなんだけど……、ふと頭に浮かんだ疑問が一つ。


「その責任ってさ、まだ果たさないとダメなの?」


「えっと、どういうことですか……?」


「町もうないじゃん」


「…………何が言いたいんですか?」


「町がもうないんだからさ、町長の娘としての責任なんて気にするのやめていいんじゃない?」


「でも、他の町が困ります!」


「好き放題してるのはもともとあの町の住民ではないんでしょ? よそから来た住民なら、今ハグミに文句言ってきてる町の元住民かもしれないんだし」


「う~ん……」


「元からいた人達が迷惑かけてたり、よその町でひどい目に合ってるなら考えものだけど、その好き勝手する人達のことでハグミが疲弊するのはおかしいと思うな」


「う~ん…………」


「だって、ハグミお父さんに町の仕事を頼むとか、町長の地位を任せるとかって話になったの?」


「いえ……」


「なら、全部の責任はハグミのお父さんがとらないと。ハグミはまだ年齢的には子供でしょ? 女神の私が女神の権限でそういうことにしてあげるよ。あの廃墟の町が町として残ってるのが問題ならメギに言えば更地にしてくれると思うし」


「私は責任から逃げてもいいのでしょうか……?」


「おっけーおっけー! 問題なし! 今日からハグミは町長の娘じゃなくて、女神にこき使われてる農家の娘だよ!」


「そういうことでしたら、もう全てを終わりにしましょう。あの町を跡形もなく消してください」


「いいね♪ もしかして不満たまってた?」


「とーぜんです、なんで私があんなダメ親のしりぬぐいなんか──」


 親への不満を語り始めたハグミの愚痴は止まることを知らなくて、内にため込んでた不満は火山の爆発のごとく噴き出していた。


 奉納酒として作って合ったお酒を取り出して飲み始めたときには、子どもなのに飲んじゃダメ! って思ったけど、この町では成人年齢が16歳らしく、18歳のハグミがお酒を飲むのは問題ないと聞いてほっとした。


 それよりも、奉納酒を勝手に飲むなんてとも思うけど、「サクナも一緒に晩酌をすれば奉納と一緒みたいなものじゃないですか」と半ば強制的に飲まされて、ほのかに酔いを感じながら世界樹へと行き、メギとも一緒にお酒を飲んだ。


 メギもハグミもお酒が入ると、元居た住民のあれがおかしい、これがふざけてる。って話で大盛り上がり。


 『明日にはこの楽しい酔いも消えちゃうんだし、消えるついでにあの廃墟の町も消してしまおー♪』ってノリで、メギが女神の力を行使して、町のある土地に『エリアリセット』という操作を行った。


 世界樹の高いところに上って、町が無に帰す過程を見守る。大きな世界樹の根っこが、町のあらゆる施設を破壊して、道を破壊して、張り巡らされた根っこが一気に町の地力を吸い上げる。


 そうなれば奉納された野菜と同じ。木材は腐食して、石材は風化して町が消えていく。地力を吸い上げた根っこは、ゴゴゴゴゴと大きな音を立てて地面へと潜っていく。なんでもありだなこの世界……、って思ったけど魔法もあるし今更かと納得する。


 他の人が聞いたら驚くだろうな──


 ──酔いとノリで町が一つ地図から消えたんだもんね。

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