トウモロコシを植え換えた
「植え方のお手本見せるからよく見ててね」
外に出て、それじゃ今から植え替えしよっかってなったんだけど、まさかびっくりの驚き発言が出た。「道具にはシャベルの方がいいですか? スコップかクワ使いますか?」なんて普通に聞いてくる。
畝が破壊されかねないから、作業の手順のすり合わせも兼ねてお手本を見せることになった。
「いい? 道具は使わなくても手で掘れるから。せめて使うとしてもスコップぐらいでね」
ちなみに、シャベルとスコップはどっちも似た用途で使う道具だけど、サイズに関係なく足で踏みつける部分があるのをシャベル。全体的に丸みを帯びてたり、足をかける部分が無いものをスコップというらしい。
だからハグミにもどうしても使いたいならその小さい方でってニュアンスで伝えたんだけど、「わかりました!」というハグミはシャベルを手に取り、せっかく作った畝に突き刺そうとしたところで静止させた。
「ストーップ!!!」
「え? なんですか」
「この世界ってもしかしてその大きい方をスコップって言うの?」
「人によります。私的にはこの大きな方がシャベルって気がするのでこっちをそう呼んでるだけです」
「なら私の言った方に統一してくれると嬉しいな……、どういう判断でどっちがどっちかは説明するから……」
そんなやり取りを交えたあとは、平和に作業に取り掛かる。
「いい? まずは、植える部分を少しだけ掘って、根がしっかり埋まるように地面へと植える。植えたら苗の周りに、一握り分の油かすを撒く。後は馴染むように水をかけて、その苗は終わり。おっけーかな?」
「なんだか、ここまでの作業工程が普通じゃなかった分、ここに来て普通に植えると拍子抜けですね……、この植えた周りに粉を撒くのはなんでです? 土にも混ぜ込んでいるなら過剰になりませんか?」
「説明が難しいな~、えっとはじめに畑に撒いてたのは土の中の生き物の餌になるって話はしたよね?」
「そんな話もありましたね」
「実は土の中の生き物が食事をすると窒素って成分が消費されるんだけど、この10日ぐらいの間でも若干土の中に混ぜた窒素分は使われてるんだよ。だから初めに撒いたのは土のため、今撒いたのはこの植えたトウモロコシに効いてくるんだよ」
「これも根っこを強く育てる成分になるんでしょうか……?」
「うーん、何に効くかって言うと葉肥えの肥料だね。葉っぱが良く育つの」
「え、ならもっといっぱい撒きましょうよ」
「肥料焼けって病気みたいな状態になるから撒きすぎはダメなの。この葉肥えが多すぎたらバカ苗病って病気になって、野菜よりも葉っぱが成長しちゃう症状で上手く実らなくなるから何事も加減が大事なのよ」
「バカ苗病って……、そんなふざけた名前もたいがいですが、野菜が病気になるなんてことがあるんです?」
「普通にあるよ?」
「……え?」
「嘘じゃないって、ちなみに病気の名前も本当にあるしね」
「そんな事初めて聞きましたが……」
言われて気づく。そういえば元の世界とこの世界の農学知識の差はあるから、当たり前に言ってた病気の名前も伝わらない……。でも、今更新しい病名付けても私が覚えれないと思うし……。
「私の知識は先駆者の受け売りだからね、私もだれが言い始めたか走らないけど、先代で活躍してた先駆者様に敬意を表して、同じ呼び方してるの」
「本当ですか?」
「そういうことにした」
「はぁ……」
手よりも口を動かしすぎて、結局作業は1日では終わらなかった。どうせ眠たくならないしお腹もすかないしって思って夜間作業をしたら、翌朝ハグミにしっかり休んでくださいって言われたので2日あれば終わりそうな作業だったけど3日ほどようした。
「それにしても、やっぱり畑に何か埋まってるのを見てると育つのが楽しみでわくわくするね」
「それは私も同感です……、でも私はここからいつも枯らせてしまうのであんまりいい思い出もないんですけどね……」
「ならこの夏の収穫が初めてのハグミの収穫大成功になるかもしれないよ」
魔法がある世界で普通の農業なんてって心のどこかで思ってたような気がするけど、いざ始めてみると意外とサクサクと作業がすすむ。これといったトラブルもないし、夏の中期と後期はメギご所望のフルーツを育ててもいいかも?
フルーツを育てたら、メギへのプレゼントにしてもいいし、他の町のとの取引に使う商品にしてもいいかもしれない。
世界樹への奉納もしたいけど……、町の復興と衣食住の安定がするまでは少し待ってもらうとしよう。
しばらくは自然回復モードでも問題なさそうだし、メギも魔法を使う人がいなくなったからか、あまり姿は見せてくれないけど最近は不機嫌な態度を見てない気がする。
ともあれ、何もすることが無かった準備期間も終わったし、ようやく畑仕事本番って感じの忙しさが始まるだろう。
大変だけど私の心はワクワクとした気持ちで満たされていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます