畝って意外とすごいんだぞ
「お~、いい感じに育ってきてる~!」
育苗に使ってる倉庫の扉を開けるなり、育苗箱がもうびっしりと伸びて来た芽で埋め尽くされた育苗箱に目が留まる。若葉で満たされた育苗箱は土が見えなくなっていた。
「こんな植え方でも育つんですね……」
信じられないとでも言いたげな表情でハグミが部屋に入ってきて、トウモロコシの苗をまじまじと見つめる。つついてみたり、葉の裏表を確認してみたり、と不思議なものを観察するような様子だ。
「水やりも簡単だし、虫にも霜にもやれないし、画期的でしょ?」
「サクナのアイデアには驚かされました……、すごい発想力ですね……」
まぁ、私が考えたわけでもないし、誰が考えたのかも知らない先人の知識なんだけどね。でも、どう説明すればいいか思いつかないし、私は、ハハハ……と笑ってごまかした。
「さて、今日ハグミをここに呼んだのはただこの成長したトウモロコシ達を見てほしいからじゃないよ」
「というと?」
「植え換え作業を手伝って欲しいのです」
「私にできるでしょうか……」
「やることは難しくないよ。育苗箱に埋まってる苗を根っこが傷つかないように引っこ抜いて、1メートルに3本植えていってほしいの」
「今畑で凸凹した起伏を作ってありますがどっちに植えればいいんです?」
「凸凹って畝のこと? 土が盛ってある方に植えてくれればおっけー!」
「あの凸凹にはいったい何の意味が……?」
「あれ、話してないっけ? 畝も水捌け対策の一つだよ」
「それだけです?」
「それだけって……、さては畝のすごさを想像できてないな~!」
「正直全然わかってないです」
「なら女神の私からハグミに知識を授けてしんぜよう♪」
「はぁ……」
「水捌けがよくなるって植物にはどんな効果があると思う?」
「サクナは度々水はけのことを話題に出しますよね、何がもんだいなんですか? 正直これまでまったく気にしていないので想像ができません」
「なら、根っこも私たちと同じで呼吸をしてるって言ったらどう思う?」
「呼吸って息をしてるってことですよね? この植物たちの根っこがですか?」
「うん、そうだよ。ハグミは水の中で息できる?」
「できるわけないじゃないですか」
「植物も一緒なんだよ♪ 水はけが悪いと、水の中にずっといるのと同じ状態になるから、息ができなくて根っこが死んじゃうの。そしたら根っこは腐っていくんだけど、これがどんな問題になるかは分かる?」
「風で倒れやすくなるとかですか?」
「間違っては無いけど25点くらいかな。根っこが腐ると植物は地面から栄養を吸収できなくなるの。だから育ちが悪くなるし、実りも悪くなる。数が取れるような野菜だと収穫量も減るし、味も悪くなるよ。そんな理由があるから、水はけに注意して、根っこを無事に育てるのってかなり大事なんだよね」
「ほぅ……」
始めは全然興味無さそうで私が突拍子が無いことを言うと思ってたんだろう。でも、私が真面目に話をふると、目つきが変わって私の話しに関心を向けてくれた。
ちょっとロジカルな感じになるから私はあんまり難しい説明は好きじゃないんだけど……、ハグミの目はもっと話してほしいと無言の圧力をかけて来る……。圧がすごい……
「まぁ、あとは耕した柔らかい土をもってるから、普通の地面と比べて根が張りやすいとかもあるよね。元気な根っこが育つから野菜も元気♪」
「奥が深いです…」
「畝の上だと他のとこよりも高さもあるからお日様の光もいっぱい当たるからいいことばかりだよ!」
「え……、お日様の光……??」
「え?」
「え? はこっちのセリフです。なんでそこでお日様の光なんてフレーズが出るんですか?」
「あ~……、そのレベル……なのね」
「はい?」
「植物ってね光合成してるの」
「ほう……、こーごーせーですか……何のことかさっぱり……」
「お日様の光を──栄養素に変換してるの!」
「さすがにそれは私をからかう嘘だと分かりますよ」
「嘘じゃないよ! 試しにその苗の1本を日の当たらない真っ暗なところに閉じ込めてみたらいいよ。元気なくなって、しおしおになるんだから」
「そこまで言うなら──作業終わりに試してみます……」
絶対に言うことを信じてないって言うのがはっきり分かるような疑う視線。なんとなく今日までの生活で魔法とか以外の要素は私の元居た世界と変わらないことが分かったし、光合成が無いってことは無いと思う。
私はここまで農業の常識が浸透してないとは思ってなかったけど、ちょっとのこととか、常識だと思ってたことでハグミは驚いてくれるから、教えるのも意外と楽しい。
後日どんな反応をしてくれるのかを心待ちにしながら、育苗箱を畑へと運び、植え換えの準備に取り掛かった。
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