育苗期間はちょっと暇

 草木灰と油かす、それともみ殻で作った燻炭と米ぬかを地面に混ぜ込む作業はトウモロコシの芽が出るまでの数日で終えて。苗が育つのを待つだけの日を何日か過ごす。


 芽が2~3センチになるまでは最低でも育苗箱の土で育てたいし、まだしばらくは作業できることはなさそうだし。


 姿を見せなくなったリーエの足取りをたどろうと思って、女神の力の位置の感知を使ってみたけど、どうやら位置が分かるのははこの草原の世界樹の区域にいる間だけらしくて、どこにいるのかはわからないまま。


 商会の方の仕事も今は資金が潤沢とは言えないから仕入れにも出かけれないし、売り物もないから仕事がない。


 端的に言えば、私は今かなり暇なのだ。


 何か忘れているような……、と記憶をたどって、そういえばメギと果物と世界樹の枝で物々交換をするんだったと思いだして、町の離れで埋まったままになっている果樹園からミカンをいくつか拝借して、それを手土産に世界樹へと足を運んだ。


「それ、外のニンゲンが育ててた果物でしょ? 魔法で育ててないから味はかなり悪いと思うけど……」


「酸っぱいってこと? そういうことならミカンは皮の上からもみもみすると甘くなるし、気になんなくなるよ! たぶんね」


「このキツネの手ではできないし、そういう話じゃない。味見してみた?」


「してないけど……」


「というか、そもそもその果物もらってきていいの? 果樹園はハグミの商会の所有地じゃないからまずくない?」


「あ~、それなんだけど。もう住民は街を放棄したから、土地の所有は今はあの街全体がホーシ商会になってるんだって。だからモーケル商会とかの畑や果樹園も今はハグミの土地みたいなもんなんだよ」


 説明をしながら、もみもみして甘くしたミカンを口に放り込む……。


「うげぇ……、なにこれ!? にっが……、まっず……」


「土地の地力供給止めたまんまでしょ? 世界樹が今はこの辺りの地力吸い上げてるから、果実は上手く成熟できなくて苦みとかがかなり多くなるの。ちなみに今のままだと植物も花も種を作らないし、今育ってる雑草たちでさえ、枯れたら次は生えてこないよ。地力供給が切れて半年もすると、大体が荒地になるんじゃないかな?」


「……え?」


「なに?」


「今畑でトウモロコシ育て始めたんだけど……、もしかしてちゃんと育たない?」


「たぶん。育てたいなら地力の設定を元に戻さないとダメ」


 地力なんてものは元の世界にはなかったから、この世界の土壌にどんな影響を与えてるのかなんて正直分からないけど、元の世界の知識がどこまで通用するのか確認するのも多分大事だよね。


 育った苗を全部植える前に、お試しでいくつか畑に植えるだけでちゃんと育つかは見れると思うし、今は地力の供給はオフのままで行くことにする。


 というのも、オフにしておくだけで世界樹の体力が自然に回復しているのがほんとに少しずつだけだけど確認できてるから、せめて世界樹の体力が4分の1になるくらいまでは我慢したい。


 とはいえ、この前神術魔法の『タケミカヅチ』を使った後は20分の1ぐらいまで体力が減っちゃって、今ははせいぜい20分の3くらい。まだまだ地力の供給は見込めそうにないんだけどね……。


 あと一つ試してみたいことがあって、女神降臨祭として収穫祭を乗っ取ろうとした時に使おうとした神術魔法の『アマテラス』を使ってみたい気持ちがあって、魔法の説明欄に書いてある、『天の光で土壌を豊かにして、草花を一気に育て豊穣の土地を一瞬で作り上げる』って一文にわくわくが止まらない。


 そんな理由もあって、メギの話しには「まぁ、もう少し様子見してみる」とだけ伝えた。


「それで……、一応まずいとはいえ果物を持って来たんだけど、世界樹の枝は……」


「渡すわけない。おいしい果物じゃないとダメ」


「ですよねー……」


 結局まだまだ道具を使った水捌け改善のための世界樹の枝は貰えなかったし、町の修復を始めたがってるハグミに手伝えることが無いかを聞いて、がれきを運んだり、畑の雑草を抜いたりして数日を過ごした。

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