町のこれから

「ただいま戻りました」


「おかえりハグミ。ごめんね、私のせいで迷惑かけて……」


「いえ、あのまま世界樹が枯れていたらどうせ同じことになっていたと思うので、遅いか早いかの違いですよ」


 ハグミの顔のは疲れが見える。元の原因を辿れば私が街を破壊して、その上で魔法まで使えなくしたから、魔法を使って仕事をしてた人は職を失ってしまった。


 仕事ができなくなった人は収入がなくなるし、そうなってくれば食べ物に困る。無償で食べ物を配るにしても限界はあるからってことで、住民を受け入れてくれる町を探すために奔走していたらしい。


 そこまでする必要があるのかな、とも思うけど。世界樹を管理する巫女的な立ち位置だったのがハグミの家系的な理由があるみたい。


 その地域に住む人が増えるなり、巫女兼村長。巫女兼町長みたいな感じで立場が変わっていったから、町の問題はハグミ達の家系に押し付けられるんだとか。


「あんまり勝手なことは言ったら失礼だけど、そんな理不尽な町って一回リセットになってもいいんじゃない? おかしいと思うよ、民度とか……」


「お父様がお金に目がくらんで好き勝手したのが原因なので、外から来ていた町の人達も似た人が集まったのかもしれません」


「でも、そんな好き勝手する人達のこと、よく他の町が受け入れてくれたね」


「問題の原因になっていた人達は性格はともかくとしても、商人としての腕は確かな人達が多いので……。町にお金を良く落とし、町に住ませば商業を盛んにする。私たちの町が栄えていたのは事実でしたし、羨ましく思ってた町の人達はよろこんで引き受けてくださいましたよ」


「え……、でもそれって……」


「すぐは問題にならないでしょうが、他の町も私たちと同じ未来を歩むかもしれません。よその町に迷惑が掛かる前に、元居た住民の方々が戻ってこれるような町にしたいのですが、今の状況ではとてもできるビジョンが見えませんよね」


 ハグミの表情は暗い。どんよりとした空気をまとっていて、もう全て諦めたって感じ。どうにかして前みたいに元気になってもらえたらいいんだけど。


「ところでさ、今あの町の畑とか住居に使ってた土地の所有権ってどうなってるの? 壊れた家とか建物残しててもなんか景観悪いし、私たちで1から町も作り直そうよ。まぁ、町っていうか村からスタートみたいな感じだろうけどさ」


「所有権は手続きの中ですべてホーシ商会のものに今はなりました。それにしても……1から町を作るんですか……?」


「うん。衣食住を整えて、近くの町に引っ越した人達に少しずつでも戻ってきてもらうんだよ。我儘で勝手な振る舞いする人達は嫌だけどさ、あのちびっ子たちとか悪い子たちじゃなかったし、始めからこの村で過ごしてた人達には帰ってきてほしいしね」


「でも、どうやってです?」


「まずは村の収益を上げてさ、魔法に頼らない町を作っていこうよ。今畑は良い感じに仕込みができてるから、作物が取れたらそれを売ってお金作るでしょ。そのあとは家を建ててくれる人探して、材料は集めるなり買うなりしてさ。魔法建築みたいな、魔法が使えなくなったら消えちゃう家とか建物じゃない、しっかりした家作ろうよ」


「でも、家があっても魔法が使えないこの地域では職を作れませんよね、そこはどうするんです?」


「畑手伝ってもらえばいいんじゃない?」


「収穫まで時間がかかるじゃないですか。人を村に戻すにしても食べ物はしばらく外部に頼るしかありません。買うとなればお金がかかります。即金性のない農業で住民を雇うのは現実的ではありません」


「ふっふっふ……、農業の収益は別に収穫物だけじゃないんだよ?」


「どういうことですか?」


「この町の特産品って野菜と酪農品だったんでしょ? それも、外の町に売れば町にお金がかなり流れて来るぐらいにはね」


「そうですけど……」


「ってことは、食べ物はこの町で作ってたものを買ってでも欲しいって解釈もできる。なら、私たちが売るものは──」


「ですから、収穫物ですよね?」


「のんのん。収穫物以外の売り物は──野菜を育てやすい土とか肥料とかだよ」


「え?」


「魔法に頼って食べ物を作ってたらさ、よその町もそう遠くない未来でこの町と同じ

状態になって魔法の制限がかかると思うの。で、魔法が使えなくなった時、食べ物を作れなくなるのはよその町でも一緒だよね?」


「はい……」


「そこで、魔法を使わないでも野菜を育てやすい土があればちょっとはマシになると思うんだよね」


「そうでしょうか……?」


「まぁ、その辺耕して野菜育ててもある程度のものは育つと思うけど、土壌によっては育ちにくかったり、味が悪かったりするわけさ。そんな土地でおいしい野菜の価値はとっても高くなると思わない?」


「うーん……、でも土がそれぞれの町にわたって、それぞれの町で野菜が取れるようになると私たちの野菜が売れなくなくなりそうですよ?」


「土って意外と消耗品なんだよ。回復させるための肥料は各シーズンで需要ができるはず。野菜は人が食べるものに拘らなく手もいいんじゃない? 食用野菜が売れないなら、飼料用の野菜に切り替えて村で酪農業を始めればいい。魔法を使わない生活に切り替わっていくなら、飼料用の野菜を育てる余裕のある町はなかなか出てこないと思うし、酪農家相手の取引は私たちの商会が一番有利になるはずだよ」


「確かに……、そういわれてみればそうかもしれませんね……!!」


「実は今育ててるトウモロコシとかもさ、飼料にもできるし畑の土づくりにもできるしって感じの野菜なんだよ。今からしばらくは二人で大変だと思うけどさ、踏ん張りどころって感じで頑張ってみない?」


「分かりました……。では、しばらくトウモロコシを育てるのに専念するとして、次はどんなことをします?」


「飼料を買いに行こ!」


「はい??? 家畜もいないのにですか???」


「うん、そうだよ」


「え……、どうして……」


 もしかしてとは思ったけど、やっぱりこの世界の農業はあんまり研究が進んでないみたい。飼料を使って何をするのか全然見当もついてないみたいで、ハグミはきょとんとした顔をしている。


 無理もないか。


 でもまぁ、トウモロコシの生産を少しでも良い仕上がりにするためにはどうしても欲しいし、説明は買って畑で使う場面にでも説明するとしようかな。

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