ハグミからのお願い。
ハグミが帰って来たのはメギに会いに行った2日後だった。
「え、フルーツですか……?」
「そう、ちょっと畑で使いたいいい感じの棒がなくてね、世界樹の枝を分けてもらうのに物々交換ってことになったの。なにか甘い果物とかないかな?」
「ホーシ商会では、町の人達が食で困らないための食料供給のために野菜を育てているので、果物などの人々の食の楽しみになっている食材はリーエが主に取り扱っていたんです。お力になれずすみません……」
「いやいや、無いなら作ればいいかなって思ってるし大丈夫。メギはちょっと機嫌損ねちゃうかもだけど、私が何とかするよ。話を聞いた感じ、私が任されてない畑ももしかしてジャガイモとかばかりなの?」
「あー……、そういうわけではないんです。ちょっとした実験で畑を使っているので、そちらは収穫を目的にしていないんですよ。サクナにお任せした畑が私たちの商会で食用と奉納用の野菜のすべてです」
「え、ちなみにずっと芋だけ育ててる感じ?」
「はい、どうかしましたか?」
「えっと……。なんて説明したらいいかな。ジャガイモとかの芋系ってね、同じどころで連続して栽培するの向いてないやさいなんだよ」
「え? そんなこと……、いや、確かに私が初めて育てたジャガイモは育ちがよかった気がしますが、2回目や3回目だと確かに実りも育ちも悪かったような……」
「でしょ? それで、この畑全面に敷き詰めるぐらいぐちゃぐちゃに植えてるからさ、土の栄養カラカラなんだよね」
「でしたら……、どうしましょう。この次の夏も私の商会ではジャガイモを育てる予定だったのですが、変えた方がいいんですかね……」
「私の中では任してもらった畑に撒きたいなって思ってる野菜の種があるんだけど、用意してくれたら代わりに作業するよ、ニラとかシソとかパセリの種って用意できる?」
「ちょっと、主食になれない野菜たちなので私の商会では……、どうしても必要でしたら、商会のお金で隣の町で購入してきますよ? メギ様のフルーツもそこで買ってくれば良いですし……」
「うーん……、そこまでしてもらうのはなんか申し訳ないような……」
「気にしないでください。女神様が世界樹を元気にしてくださるのであれば、私がそのサポートに徹せれるという、協力関係ですよ」
「そうなんだけどね、私は女神って立場で踏ん反りかえって、なんだかんだで身分の差がでるような関係つくりたくないんだよね。ハグミとリーエの二人みたいなお友達になるのは難しいとしても、対等の関係になりたいんだよ」
「対等……ですか?」
「あ、そうだ! 私も商会立ち上げるから、出資してくれない? ちゃんと利子もつけて返すし」
「うーん……、ちょっと考えさせてください。資金を出し渋っている訳ではなくてですね、何か別の方法がないか私も考えてみたくて」
「なにか引っかかるところがある?」
「いえ……、ではサクナにちょっとお友達としての頼み事を聞いてほしいのですが、どうでしょう?」
「ん? いいけど……、突然だね」
「もしよければで大丈夫です。サクナさえよければ私の商会。ホーシ商会を継いで頂けませんか?」
「──え?」
「私は今、商会長と町長の娘という立ち位置ではあるのですが、どうにも町長の娘としての仕事に追われていて、商会のことまで手が回らないいっぱいいっぱいな状態なんです。ですが、商会というのも信用が大事。作物の品質の低下や出荷の遅れを出すのはまずくて……、今であれば春先に植えたジャガイモの収穫だけでいいのですが、今から種を撒いて育てる時間がさけそうにないんです」
「えっと……、商会の畑だけじゃなくて、商会そのものの運営も私がしていいってこと?」
「端的に言えばそうなります。ご迷惑ですか? 人助けだと思ってください。私の商会は収益を求めないので、もし商会を運営して利益が出れば、最低限の運営資金さえ残していただければサクナが引き取っていただいても大丈夫です」
「え……、それはなんかこっちが申し訳ない……」
「無理してお金を引き取っていただかなくても大丈夫ですよ? その際は町の復興資金として商会から町への寄付として処理をしますので」
「それなら、引き受けてもいい? 一から商会を立ち上げるより大きな商会として名が広まってる方が私としても助かるし」
「では私たちは今日から対等な関係。神と人という立場以前に、商会を支えるビジネスパートナーですよ」
「うん、改めてよろしくね、資金繰りとかはあれこれ買う前に相談したほうがいいかな?」
「帳簿の記入などができるのであれば相談入りません。できなければ私の方で記入しますので。種の購入をするのであれば……、別の町へ行かないとダメかもしれませんね、まだ住民の受け入れ先を探さないといけないので私が買い出しに行ってきます」
ハグミと一緒に商会を経営することになり、その日のうちは決め事や商会としての方針をいろいろと聞いた。
商会をどんな感じに運営するかを決めたあと、ハグミは商会を私に任せて、すぐに別の町へと街の人の受け入れ先をまた探しに出かけた。どうやら町長の娘という立場は女神になった私よりも忙しいらしい。
フルーツの件はもうしばらく遅くなるってメギに伝えたら、ムスッとしながら別に食べれるなら少しくらい待つと言ってくれたので一端保留に。
大した肥料とか道具の準備はできなかったけど、後は春の月の最終日を待つだけ。
出かけるハグミに買ってきてほしい種をいくつか伝えたけど、手に入るかはその時次第って言われたから、ありますようにと念じてハグミの帰りを待つことにした。
いよいよ、私にとって初めての異世界農業。どんな夏になるかわくわくする。
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