植物の根っこ

 畑の土づくりで、とりあえずその場しのぎって感じの肥料は用意できたけど、夏が来るなら改善しておきたいのがやっぱり水はけ問題。


 水がたまり続けるなら夏の暑さで地表が乾いても大丈夫なんじゃ? って思ってたけど、水分云々よりも大事なのが実は空気のあれこれだ。


 植物も生きてるから空気中から酸素を吸うんだけど、それは地面の中の根っこも一緒。


 畑の表面が乾いたからって水を頻繁にまいていると、水が土の中でたまって空気を遮断してしまう。実はこれが案外、植物にとって深刻な問題になるのだ。


 土の中なのに水浸しだと、根っこが息を出来なくて、根腐れする。根腐れって言うのは文字通り腐ってる状態だから、一時的な病気と違って治ったりは無くて、腐った部分は元に戻らない。


 応急処置はできるけど、それは腐った部分を除去して、新しい根っこを成長させないといけなくて、腐ってる範囲が広すぎると復活は無理。ちなみに、腐ってる部分が多すぎると、そのまま枯れることだってある。


 それと、応急処置をしても、安心できないのが根腐れの憎いところだ。


 応急処置は再生じゃなくて、根っこの育て直しみたいな感じだから、再生中は光合成で葉っぱが栄養分を作っても、根の再成長に栄養分を消費してしまう。そうなると、実る野菜は味が悪かったり、育ちが悪かったり、何一ついいことがない。


 極端に言えば、肥料を撒いて、栄養満点の土をつくっても、水はけが悪いばかりに根腐れしてたらいい野菜は育たないから、根腐れはかなり厄介なのだ。


 だからすぐにでも夏に向けて対策をすすめておきたいんだけど、残念なことに、ハグミが使っていいって言ってくれた道具の中に、水はけ改善につかえる道具は見当たらなかった。


 理想としては、電動じゃなくてもいいから、地面に深く穴を掘れるドリルみたいなのが欲しい。というのも、畑に細長い穴を地面のめちゃくちゃ深いところまで開けると、水の染み込みが悪い土壌に、水が流れる穴が開くからそれだけでかなり水はけがマシになるから、どうしても欲しい。


 シャベルとかクワがあるから最低限なことはできるんだけど、やっぱりシンプルな農具以外の道具も欲しいって思うのが、楽を体験した人間の性だ。欲しくてほしくてたまらない。


 ないものねだりを考えても時間がもったいないから他の案を考える。


 石とか砂利を使って水はけを良くするって方法もあるけど、これは土地が広すぎるから砂利とか石の準備が大変だし、目の細かい網とかももってないからこれは無理。


 石と砂利を入れるだけでも、一応はマシにはなるんだけど、石とか砂利の除去をしたいってなった時に、回収がものすっごくめんどくさくなるからこれも嫌。


 お米のもみ殻とかがあればかなり簡単に効果も高い水はけの改善ができたんだけど、どうやらこの廃墟の町で行われてた酪農業の餌に混ぜたり、加工して木材にしたり燃料にしてたりって用途があったみたいで、町には全然残っていなかった……。


ーーーーー


「なー、女神の姉ちゃん。こんなボロボロの町で何を探すっていうのさー」


「これってものが無いから何か使えそうなものが無いか探しに来たの」


「それっていつまでなんだよー。どーせ何も残ってないって」


 私は今、ちびっ子たちと廃墟の町に来てるんだけど、あんまりにも何もない町に驚いていた。なんといっても建物は残っているのに、人が住んでいた形跡がほとんど残ってない。


 価値があるものは引っ越しに持っていくかもしれないけど、ここまでものが町に残らないなんてことがあるのかな?


 一言でいうなら、不自然。町に残っているもので目に付くのは建物のがれきぐらいしかない。というか──


「この町、こんなに建物少なかったっけ?」


「いーや、もっとあったよ。女神様が魔法を禁止にしたせいで消えたんだよ?」


「え、私のせい?」


 詳細を効けば、建造魔法って種類の魔法を使って何にもないところに魔法の建造物を作って、そこで飲食店を経営してたり、宿を経営してたりしてらしい。


 他にも、沢山の酪農品を作ってた動物たちは本当に生きてる家畜だけど、牛小屋とか鳥小屋とかの動物達の住居は魔法の建造物で作ってたんだって。


 そんな話を聞いてこの町の地力消費が異常だったのもそういうことだったのかと納得した。


 魔法で解決できることなら、魔法で解決する。建築費用も魔法ならかからないし、魔法を使うのに地力の消費をどれだけしてもお金はとられてなかったから、この町では地力をどんな風に金に換えるかって言うのが重要だったみたいだ。聞けば聞くほど胸糞悪い。


「お金しか持ち運ぶものがないから、ここまで町に何も残らないってことなのね」


「そーゆーこと!」


 町の中での活動はこれ以上続けても意味が無さそうだったし、昨日子供たちに落ち葉を集めてもらった森で、丈夫で長くてまっすぐな木の枝を探すことにした。


 それでもめぼしい木の枝は全然なくて、町でも森でも収穫は無し。途方に暮れて岐路につく。


 今日の私の活動は子供たちの好奇心を刺激できないみたいで、いつの間にか子供たちは途中からいなくなっていたから、一人とぼとぼと歩いてハグミの家を目指した。


 立派でまっすぐで丈夫な木。探せばあると思ったんだけど、この枯れた土地でそんなのは無いのかも。探すのを諦めて空を見上げぼーっとしようとした時……、世界樹が目に入った。


「あ、立派な木あるじゃん!!!!!」


 気づいたら即行動。世界樹の枝とか分けてって、世界樹のどこかで引きこもってるメギにダメもとで聞いてみることにして、目的地をハグミの家から世界樹へと変える。


 もう1週間くらいメギに出会ってないから、そろそろ話してみたい。


 なにより、ハグミがいないあの家は一人で寝泊りするには寂しいから話し相手が欲しいから、一緒にハグミの家でしばらくお世話にならないか誘ってみたい。


 顔見せてくれるといいけど、メギは出てきてくれるかな……。

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