魔法なんて必要なし、1から始める土づくり 

 夏の月に野菜を植えようと思っても、今のハグミの畑の土壌は野菜の植えすぎで土地が枯れているのが今植えられている葉を見てわかった。


 養分が多い畑だと色の濃い青々とした葉の色になるんだけど、どの畑を見ても白っぽさを感じる若葉の色の葉ばかり。


 葉の成長が弱弱しいから窒素の成分が少ないのは間違いない。

 収穫量が少ないってことは、リンの成分も少ないんだろう。


 てことはと思って、収穫を終えたであろう野菜を引っこ抜いて根っこの確認をする。力を入れてないのに、ほとんど抵抗を感じずに引っこ抜けた。


 根っこも細いし、短いし、所々根腐れしてる。土にカリウムを混ぜてもこの辺りは他の原因がありそうかな。


 ぱっと思いつくのは土壌の水はけ問題なんだけど、野菜の根っこは水はけ改善にいいって聞くし、こんなに野菜植えててそんなことあるのかな……?


 考えるより掘って確かめてみた方が早いかってことで掘ってみた。これだけ野菜を植えてあるなら根っこが地面に伸びて植えてある場所の地面は柔らかそうって見当を立ててたけど、それは間違いだったらしい。


 柔らかいのは表面10センチ分くらいでそこから下は土壌が固い……。手を突っ込んで確認もした、うーん……、理想って言われてるふかふかの土とは程遠い。


 ガチガチだった。それにガチガチの部分は湿っぽい、水はけがかなり悪そう……。


 土づくりには時間がかかるし、月頭に種を撒くならできることもあんまり大それたことをしようとしても間に合いそうにない。


 こりゃ、使っていいて言われた土地を全部使うのはあきらめないとダメかな。


 となると、いくつかの畑は休耕地にして土壌の改善に専念するとして、夏の野菜は何を育てようか。ほったらかしエリアにはシソとかニラとかを簡単な畝でも作って植えといて、奉納できるか試すだけ試して、できなければ緑肥にしちゃえばいいし。


 あ~、そうなると水はけ改善のためにヒマワリとかトウモロコシとか植えるのもいいかも。あー、一から始める畑づくりって久々だしテンション上がるなー。


 まぁ、痩せてる土地だと使い勝手悪いし、手始めに土の栄養素を補給するとこから始めるとしよう。


 時間をかけずにってなると……、野焼きで草木灰作ってとかパパっと撒いたりしちゃおっかな。


ーーーーー


「女神様が畑に火を放たれておられるううううう!!!!」


「また、女神様がご乱心であるぞおおおおおおおおお!!!!!」


 どうしてこうなった……?


 私は近くの森から乾いた落ち葉を集めて、畑に集めて、火を放っただけ。ちゃんと回りに引火しそうなものは無いの確認してるのに、廃墟の町に残ってた人達がパニックになってしまった。


 風上で燃やして、集めた落ち葉が風で飛んで燃え広がってるとかならまだしも、風が弱そうな日を選んで火は起こしてるし大騒ぎする火力でもないと思うんだけどな……。


「荒ぶる女神よ静まりたまええええええええ!!!」


「ちょっと、待って外野うるさいよ!!! 全然ご乱心じゃないってば!!」


「あぁぁぁあ、申し訳ありませぬううう、どうか落ち着いてくださいましいいいい」


 落ち着くのはあんただちだよ……、って言葉はぐっと飲みこんだ。というのも騒いでいるのは大人だけ。


 祭りの日に遊んだ子供たちは私が怖くないのか、近くに来て普通になれなれしく話しかけてくれるから、外の大人は今は相手にしなくていいかって判断した。


「女神のねーちゃん、どうせならこの前みたいに派手に燃やせばいいのに、なんか地味じゃない?」


 子どもたちは、私に何を求めてるのか知らないけど、派手に燃やすのをもとめてくる……。


「派手に燃やすと危ないでしょ?」


「あんだけ雷町に落としといてなにいってんのさ、もっと派手にしようって!」


 あの夜のことを言われると何にも言い返せないけど、大人たちみたいに騒がれるよりましだから、今はそれでいいかってことで。


 まてよ……、この子達もしかして暇で私の作業見てるのかな?


「ねぇ、ちびっ子たち、暇なら森から落ち葉とか地面に落ちてる乾いた枝集めてきてくんない?」


「いいけど、派手に燃える?」


「冬場でもないから派手には燃えないよ。草木灰って言って分かるかな?」


「全然分かんない」 


「まぁ、わかんなくてもいいや。落ち葉とか木を燃やすと、炭になって、灰になって、それが畑の栄養になるんだよ。簡単に言えば葉っぱ燃やして作った灰だと、根っこがにょきにょき元気に成長する肥料になるっていうか」


「根っこ? どうせならいっぱい野菜が取れるの作ればいいのに」


「それはそうなんだけど、実りを良くする肥料の素材は集めるのがめんどくさくてね、家畜の糞とか動物の骨とか、タマゴの殻とかあればいいんだけど……、畜産してた人達は引っ越したでしょ? だから調達できなくて」


「へー、何集めるにしてもリーエ姉ちゃんが居れば何とでもなりそうだけど、どこいったんだろね」


「さぁ……? あの夜からいないみたいだし、私を恐れてどっか行っちゃったのかも。メギのこと助けてくれたし、お礼したいんだけどな……。でもなんでリーエ?」


「だって、リーエ姉ちゃんの商会はすげぇんだぜ? 財力も他の町との交流も盛んで町の人が欲しいって言ったもの大体買ってきてくれるんだもん、帰ってきてくれねぇーかなぁー」


「ハグミの商会じゃだめなの?」


「ハグミ姉はてんでダメ。今のホーシ商会も名ばかりで、他の町ではほとんど取引してくれるとこねぇと思う。まぁ、町の人へ売る野菜はモーケル商会の野菜より安いから食べ物を買うならホーシ商会かなって感じだよ」


「ふーむ……、今無いものの話ししててもキリ無いし。手伝ってくれるなら落ち葉あつめてきてよ」


「りょーかい。どれくらい集めてきたらいいの?」


「結構量があっても全然灰はとれないから、どれだけあっても大丈夫」


「じゃぁ、森中の落ち葉集めてくるー」


「できる物ならね」



 周囲の大人たちは私に対して普通にため口で話しかけるちびっ子たちに青ざめてたけど、私が話しかけても泡吹いて倒れるのがこの前のやり取りで分かったし、私の言動に慣れてくれるまでは関与しない。


 不安そうに野焼きを見てるけど、さすがに半日以上見続けるのは退屈だったらしく、気づいたときには見張ってた人はいなくなってた。そのかわり私と話したちびっ子たちに私のことを聞いてたみたいだ。


 ちびっ子たちが私のことをどう思ってるかは気になるけど、怖がられてないならそれでよしってことで。私の評判がどうなるかはあの子たちに任せるかな。


 はやく、私のイメージが回復できるように、あの子たちの前ではそれなりにいい人でいるとしようか。


 まぁ、ひとまずはちびっ子たちが協力してくれたおかげで、予定よりも早く多くの草木灰を集めることができた。


 夏の間の栄養素はこれでまかなうとして、あと改善したいのは水はけ問題。多少は畝を作るだけでごまかせるけど、長期的に考えたら土壌全体を地中深くまでどうにかして水はけの改善をしたい。


 タマゴの殻とかおがくずがあれば楽なんだけど……。ないものをねだってもしょうがない。廃墟の町でも探索して何か使えそうなものを探してみるとしようかな。

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