この世界の1年と畑事情

 私がリーエに案内された畑はもうすごいのなんの。びっちり足の踏み場の無いぐらいに野菜が植えて合って、全体的に野菜の葉や茎は弱弱しい。


「人の畑にあれこれ言うもんじゃないけど……、植えすぎじゃない……?」


「そうですか? 収量が少ないので数を育てれば何とかなるかなって考えてこの上方をしてるんですけど、リーエもこの植え方なのでてっきりこの植え方が正しいんですよね?」


「え、リーエも?」


「リーエに限らず、私が参考にした農家の人達はみんなこんな植え方ですよ」


 祭りの屋台で食べた野菜料理はどれもおいしかったし、てっきりリーエは畑仕事のプロかと思ってたけど、あのおいしい野菜の秘密もこの世界の魔法なのかも?


 魔法のある世界だと、元居た世界の常識よりも文明レベルが低いってこともよくある話だし。この世界も例にもれず、農業とかの研究が進んでないんだろう。


「これでも育つ?」


「まぁ……、育ちはします。育ちが悪くて満足な収穫ができないのが2割から3割ほど出ますけど。収量云々より、収穫作業の時に足の踏み場が無いのが一番の欠点ですね」


「畑に道とか作んないの?」


「道にする部分で野菜を育てれないのもったいないじゃないですか。私は大した魔法も使えませんし、利便性を捨ててでも収量優先ですよ」


「せめて畝作ってその間を歩くとかさ」


「うね? なんのことです?」


「あ、そのレベルからなのね……」


「もしかしてサクナは畑仕事に自信があるんですか?」


「ふふん、こう見えても農業ゲームとか農業そのものにはまりすぎて命落とすくらいにはやりこんだからね。素人には負けないつもり」


「命を落とすって、なんの冗談ですか。亡くなられてたらこうやってお話できてませんよね?」


 別に冗談ではないんだけど。そこを話すとややこしくなりそうだし、冗談ってことでもいいか。


「でも、自身があるなら私の商会の土地を貸しますよ。あ、神様に対して貸すっていうのも失礼ですかね……」


「その辺は気にしないで。神様なのは一応の身分ってだけで、気持ち的には一般人のつもりだから。貸してくれるなら私も何か育ててみようかなー」


「でしたら、次の夏の月からでよろしいですか? 今から植えても育つのが間に合わないと思いますし」


「えっと……夏の月? この世界の1年って12か月の周期じゃないの?」


「いえ、1年は12か月周期ですよ、春の月の前期、中期、後期。夏の月の前期中期後期、秋と冬もそんな感じです」


 1月、2月みたいな感じじゃないなら、この辺りは元の世界とはちょっと違うのね。となると確認しておきたいことが──


「──もしかして、春シーズンの野菜って夏になった瞬間全部枯れるとかある?」


「もちろん、サクナは本当に畑仕事に詳しいんですか? 一般常識の範囲のことですよ」


「世界によっていろいろ違うからね、その確認してるだけ」


「それならいいんですけど」


「ところで、さっき今から植えても間に合わないって言ってたけど今は春の月のどれくらいなの?」


「春の月の後期の中盤くらいですね、そろそろ畑を綺麗にしておかないと……、人手も少なくなったので困りました……。それに、まだまだ住民を受け入れてくれる町も探さないといけませんし……、身体が足りません」


「あー、種とか道具とか貸してくれたら代わりに畑仕事しとくよ。どうせやることなくて暇だし」


「ご迷惑でなければお任せしたいんですけど、やっぱり神様に丸投げにするのはなんだか自分の中でまずいんじゃって胸騒ぎが……」


「気にしないで、畑仕事は好きなことだし、本当に何の負担でもないからさ」


「せめてなにか、お礼になる何かを渡せるといいんですけど、何か道具以外にでも用意してほしいものとかってあります?」


「あー、なら小屋とかでもいいから寝泊りできそうなとこない? 世界樹の祭壇の部屋で今過ごしてるんだけど、寝床がちくちくして寝心地最悪なんだよね」


「小屋ですか……、本当に物置にしている建物ぐらいしかないので私の家でよければ寝泊りしていただいても大丈夫ですよ。お客様用の部屋なので寝具もしっかりとしたものですので、多少なりご満足いただけるかと」


「え、そんな部屋使わせてもらってもいいの?」


「もちろん、神様を家でおもてなししたことなんてないので、これといったおもてなしができないかもしれませんが……、そこはもう諦めてください」


「もてなされるようなことしてないから全然いいよ。ちゃんとしたところで寝れるだけでもありがたいし」


 私がそういうと、ハグミが家へと案内してくれることになった。家はさすが町長の娘って思うくらいに大きな豪邸で、気になることがあるとすれば所々があの夜の被害でぼろぼろになってるぐらい。


通された部屋はかなり綺麗で、何より寝室にはベッドがあった。ふかふかで、元の世界で使ってたベッドよりもはるかに寝心地がいい。


 この品質を作り出したのも魔法らしくて、この世界の魔法は日常使いされ気味で、なんでもありだなと、少し思った。


 お風呂もあるし、水場もあって世界樹で過ごすよりもよっぽど文化的な生活ができそう。世界樹のどこかにいるであろうメギを誘ってここに来たいけど……、メギはこの町に来ることすらもう嫌かな……。


 道具の場所や種の場所も聞いて、どのあたりの畑の作業をすればいいのかを確認する。一人なうえに重機を使わないって条件で働くと思うと若干広すぎる気がする広さだったけど、明日からにでも作業に取り掛かろう。


 ようやく、私の得意分野でこの世界に関われそうだ。みんなに慕われる女神になりたいけど、まずはハグミの役に立てるように頑張るとしよう。

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