集ってくれた町の人達

「どうして……?」


 祭壇の部屋から外をのぞくと10人いるかいないかってぐらいの人たちが世界樹のそばに来てたくさんの野菜を奉納してくれていた。


 みんなの暮らす町を壊した私へ奉納なんて……、と考えて一つの答えにたどり着く。それで勝手に幻滅して「なーんだ……」なんてつぶやいた。


 神様がご乱心なら、静めるために奉納する。何も変な事でも不思議な事でもない。私が暴れたせいで奉納してくれただけ。信仰が戻ったとかではないんだろう。そうやって今までもしてきたであろうことを、形式的にやってるだけ。特別な意味は多分ない。


「サクナ様、すごい顔されてますよ?」


「うわぁ!?」


 目の前にハグミがいた。全然気配もなかったし、誰かいるとは思ってなくてかなり情けない声を出して驚いてしまった気がする。


「どうしてここに?」


「どうしてと言われましても……、奉納は私の習慣なのでいつも通りに来ただけですよ? メギ様は一緒ではないんですか?」


「私が怖くないの?」


「あんなにいい天気だったのに雷が街にたくさん落ちるからびっくりはしましたよ。あんなに派手な女神の証明になるなら前もって教えてください。心臓に悪いです。今驚かせてしまった不敬はそれでお相子ってことにしましょう」


「いや、使おうとしてた魔法はもっと平和的な魔法だったはずなんだけど、メギとリーエを守るのに手段を選べなくて……」


「守る? なにがあったんです? リーエもあの祭りの後から私も見かけていないので心配しているので何か知ってることがあるなら話してくれませんか?」


 ハグミはあの夜。他の人達の説得に行くからとその場にいなかったから、モーケル商会の前で何があったか知らなかったみたいだから、あの日のことを伝える。


 極力私情が入らないように、事実だけ淡々と話した。


 メギを街の人達が襲おうとしたこと、メギをかばおうとしたリーエにまで被害が言ったこと。そこで私が過剰なくらいの魔法を使って祭りをめちゃくちゃにしたこと。


 魔法のことは遠目にも見てたから知ってたらしいけど、ハグミもメギとリーエが受けた仕打ちに怒っているみたいだ。


「女神様への信仰は絶対なものではないですが、昔との決別のために武力を行使するなんて、私は許せません。見た目は派手すぎるぐらいで、被害も甚大ですが、サクナ様は間違った選択をされてないと思いますよ」


「うぐ……、含みのある言い方が辛い……」


「他の人達も外から来た人達が粛清をうけてスカッとしたと言ってましたし、世界樹復活のための奉納を手伝ってくれるみたいですよ」


「うーん……、素直に喜べない……。私がやったのもあんまり評価されるべきことじゃないからあんまり持ち上げないでほしいな。結構……、引きずってるから」


「いえ、勘違いしないでください。スカッとはしましたが、皆さんサクナ様のことを『怒らしたらやべぇ女神』って言って一応は恐怖の対象になってます。奉納って建前で言ってますが……、みかじめ料というのでしょうか。納めとかないとヤバイかな──」


「まって! やりすぎたとは思うけど。私は反社じゃないから物騒な言い回し市内で、お布施とかで良いんじゃない?」


「では、野菜を奉納して、女神様からこの土地に住む権利と命を買ってると思ってください♪」


「待って」


「権利と命の値段に奉納が釣り合ってませんか? 外の人達に伝えてきますよ?」


「待ってってば!」


「ひぃ!? 怒らないでください……」


「怒ってないよ、ちょっとなんなのさ。もしかして、外の人達も私のこと怖がってるから入ってこないの?」


「いえ、そんなことないですよ。私が巫女の立場なのでご神木である世界樹に出入りするだけで、普通の人がこの辺りの土に埋めて奉納するのが習わしなんです」


「ならいいけど……、挨拶してこようかな……」


「住民が泡を吹いて倒れることになりますよ?」


「怖がってるじゃん」


「だから、サクナ様は恐怖の象徴なんですよ。カタギに見えない人が神妙な顔しながら事務所から出てきたら怖いでしょう? それと同じです」


「反社じゃないって!!」


「はいはい、わかりました。それにしてもここまでやり取りできるなら元気そうですね。てっきり人間不信になってるか、泣いてるかって思ってましたよ」


「そういえば、なんで3日もきてくれなかったの?」


「誰か様が街を壊して住民がゆく当てを無くしたので各所の町に回って受け入れの依頼をしてきたからです」


「……ごめんなさい」


「サクナ様……、そこはありがとうで良いんです。よくやった、とか、褒めて遣わす、とかがよければそちらでも」


 始めは私のことを信じれないとか言ってたハグミだけど、なんだから冗談を言い合えるようになって、心の距離が縮まった気がする。


「ねぇ、ハグミ。ここで奉納を待ってるだけだと暇なんだけど、何か手伝えることない?」


「え……、みんなが怖がるような……」


「もう、冗談はいいよ。真面目な話」


「真面目な話ですよね? みんな怖がってるのはほんとですよ。それに、手伝うって何ができるんですか?」


「なんかその私にまとわりついてる悪いイメージも払しょくしたいしさ。私、こう見えても農業はとくいだよ。ハグミの畑とか手伝えることない?」


 たしかハグミは農業が苦手と言っていたし、それなら力になれると思った。それに、奉納を自分ではできないけど、私の知識を生かして、野菜を育てる手伝いをする分には何の問題もないはず。


「なら、お願いするとしましょう。今更の確認ですが、サクナ様は神様っぽくないので、口が滑って不敬なことを言ってしまうかもしれないですが大丈夫ですか?」


「ほんとに今更すぎてびっくりだよ……。うん、私は気にしない。好きにあれこれ言ってもいいよ。なんだったらサクナ様じゃなくて、サクナって呼んでくれてもいい」


「んじゃ、サクナよろしくね」


「軽っ……、距離感の詰め方バグってるよ……」


「冗談です。よろしくお願いしますね、サクナ」


「うん」


 ハグミと仲良くなって、みんなの前で改めて自己紹介をする。逃走者5名。気絶者3名。なかなかに大変な挨拶になった。恐怖の象徴になってるのは事実らしい。


 その後はハグミのホーシ商会経営の畑へと案内される。


 私はついたといわれても畑と認識できない状態の畑に、泡吹いて倒れてしまうところだった。


 えっと…………? ここ、ほんとに畑????


 

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