収穫祭を見に来た

 4人で話し合った結果、一人でも多くの人に女神だって信じてもらうためには、注目を集めないとって話でまとまった。


 女神信仰の風習を取り戻すための協力者を探すことと、注目を浴びやすい場所やタイミングを探ること、どっちを調べるにしても町の中で調べた方が早いってことで町へと移動することになったんだけど、お祭りってこともあっていろんなところからいい匂いがして、私は作戦どころじゃなくなっていた。


 お祭り前だけどお酒を飲んでるおじさま達もいるし、食べ物屋台とか遊戯の屋台が出ていてとっても楽しそう。頭の中では遊んでいる場合じゃないってわかっているけど、街のあちこちから誘惑が飛んでくる。


 特産品らしい、タマゴ、ミルク、チーズを使ったおいしそうなスイーツとかお菓子。羊毛や絹で作ったらしいおしゃれでかわいい衣装の数々。野菜の収穫に関係無さそうって思ったけど、酪農品はこの町の野菜あってこその品質らしく、町の野菜へ感謝という意味も込めて、奉仕価格で屋台やマーケットを運営しているらしい。


 特に、野菜を使ってある屋台はモーケル商会が寄付した野菜を並べているから、お代を取ってないみたいで、私もフライドポテトとか、リンゴアメを屋台でもらってきて堪能した。ポテトはサクサクで塩がほどよく聞いていたし、チーズソースもとっても合う。リンゴアメも酸味と甘みがちょうどよくて、胃の限界容量とかなければいくらでも食べたいと思うほどだった。


 あ……、えっと……、別に遊んでいるわけじゃない。これは役割分担の結果としてそうなっているだけで……。


 そう、例えばハグミは協力してくれそうな人に声をかけに行くみたいだし、リーエは祭りのスケジュールの確認をする。私は女神として正体を明かす前に一人でも多くの人と交流をもって、誰かの印象に残るための行動しててって言われてるから、今の、食べて、遊んで、が私の仕事。メギは狐の姿だし、できることが無いから、私がだっこして一緒に行動している。


 お金が必要な屋台でも遊べるようにって、リーエがいくらかおこずかいをくれたから、時間の許す限り一軒でも多くの屋台を回って、話しかける努力をした。他にも遊戯の屋台で子どもたちとムキになって競いもした。


 人が多いから仲良くなれた人はほんの一部でしかないんだろうけど、十分楽しめた……って言うとまずいか。かなり作戦が捗った。自分で言うのはおこがましいけど、かなり上場のできだろう。後で褒められるかもしれない。


 終始メギは何か言いたげで、不機嫌気味。町への不満というより、私に対して不満がありそうだった。何か言われる前に、メギの口に冷やしパインを貰って突っ込む。口を無理やりにでも塞いだからか、食べるのに夢中になったかで、メギは私の上での中で静かに過ごした。


ーーーーー


「で、女神様。あたしとハグミが駆け回ってる間に、遠慮もなく遊びまわってたってことでいいのね?」


「え、いや……、そういう作戦だよね?」


「あたしが説明したのは、食べ物もらったり、屋台で遊んだりしたついでに、新しい商会の女神信仰を辞めるって方針をどう思うか聞いてほしいって言ったんだけど」


「う、うん。そうね、覚えてるよ」


「ならもう一回聞くよ。町の人達は商会の方針に対してなんだって?」


「みんな忙しそうで聞けませんでした……、でも子供たちには聞けたよ。その方針に変わっても、今と変わんないんじゃねーの? って」


「いい? 忙しそうだから聞いてないってことは、ただ商品を貰っただけの客だし、子供は親に任せてるのがほとんどだからあてにならない。これらのことから女神様はこの大事な時間にさぼってたってこと」


「だって、屋台の野菜全部おいしそうだったんだもん。実際おいしかったし、行列ができて繁盛するのもよくわかるなーって」


「そりゃ、おいしくて当然よ。あたしのとこで作ってる野菜なんだし……、ってそうじゃない。リーエの方は話をつけれた人達がいるけど、今の収穫祭に参加するつもりはないから、神術魔法を使うなら町の外からでも見えるところにしてほしいって」


「ってなるとどんなとこになるの?」


「高いところだろうね、祭りの一番目立つ会場ってなると、うちの商会の建物の屋上かな。うちの親が祭りの閉幕の挨拶の時に、脱女神信仰の演説するみたいだから、その場で何か起こして、メギさんと女神様が登場。その時に魔法とか使って、女神降臨演出するって感じで行くから」


「できるかな……」


「サクナがしなくても私がする。ただの狐になったけど、一応まだできることはあるし」


「お願いね、メギさん。なんであんなに恨まれてるのか全っ然心当たり無いけど、あたしはリーエの話しを聞いて女神様の信仰は辞めたらダメだって思ってるの。だから、どんだけ嫌われてたとしても、あたしはメギさんと女神様の力になりたい。二人が神様じゃなくても、女神様の信仰をしてくれるなら悪いようにはしないから。困ったことが合ったら、今回がダメでも頼ってね」


 メギはリーエの話しに何も言わないし、反応も見せない。ただ黙って、下を向いた。


 祭りの閉会は夜らしいけど、今はまだ夕方で空もオレンジ色に変わったぐらい。こんどはリーエの案内というか、現商会長としての特権をいっぱい使ったおもてなしを受けて、作戦の結構時間を待った。

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